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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第十話『祖父の現影』
140/310

祖父の現影 十四

10

 ───道場に、黒い霧が満ちている。

 冷たく、しっとりとした霧。

 墨汁のように黒く染まった水滴が、細かく宙に散り漂っているような、不気味な霧。

 その霧によって、道場内は宵闇の如き暗黒に支配されていた。


 その闇の奥で───何かが蠢いている。

 二つの影。

 おそらく、どちらも男。

 ───立ち合っていた。

 二人の男が、闇に覆われた道場の中で、確かに立ち合っていた。


 一人は、何か長い物を振り回している。

 刀───片方の男が操る得物は、日本刀である。

 対するもう片方の一人は、無手───何も持っていない。

 徒手空拳である。


「───!」

 刀の男が、手に持った得物を振るう。

 速く、無駄のない綺麗な軌道。

 触れれば絶命する、必殺の斬撃。

「───!」

 無手の男は、間一髪のところでそれを躱す。

 皮一枚のところで通り過ぎていく斬撃。

「・・・・・」

 無手の男は、前に突き出すように構えた右手の手刀を、ゆらゆらと動かす。

 まるで、刀の男の攻撃を誘うように。

「───!」

「───!」

 再び迫る刃。

 それを、無手の男は再び回避する。


 刀を振るう男の腕前は、決して素人のそれではない。

 達人───その二文字を掲げるに相応しい実力である。

 無手の男の方も、かなりの実力を持っている。

 ギリギリまで引き付け、そして見極め、斬撃を躱しているためである。


 突き。

 回避。

 横薙ぎ。

 回避。

 袈裟斬り。

 回避。

 斬っては避けられ、斬られては避け───そんな攻防が、幾度も繰り広げられる。


 その最中───闇の中で、声が響いた。

「貴様さえ───」

 どちらの声なのかは分からない。

 双方の姿は、闇に覆い隠されている。

 どちらの男の口が開いたのかさえ、分からないほどに。

 しかし、その声には───紛れもなく、憎悪の感情が込められていた。

「貴様さえ、いなければ───!!」


 その声が響いた直後───景色が、光に包まれた。

 次の投稿日は未定です。


【追記】

 次は、金曜日の午前0時に投稿する予定です。

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