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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第十話『祖父の現影』
136/310

祖父の現影 十

 衛が口を開いた。

「すまなかったね。何の連絡もなしにお邪魔してしまって」

「あ、いえ・・・大丈夫です。特に用事もなかったですし 」

 明日香は慌てて、そう言葉を返した。

 その会話を最後に、両者は口を閉ざす。

 座敷部屋に、痛々しいほどの沈黙が訪れた。


「・・・・・」

 明日香は、緊張していた。

 祖父から聞かされて、会ってみたいと思っていた人物。

 その人が突然現れたことで、何を話していいのか分からなくなっていた。


「・・・・・」

 衛は、依然として口をむっつりと閉ざしている。

 やや俯いているその顔は、やはり無表情。

 何を考えているのか、明日香には全く読み取ることが出来なかった。

 祖父は、『真っ直ぐな心を持った青年』と評していたが───まさか、ここまで寡黙な人物であったとは。

 何を話そう。

 何を訊こう。

 一体どんなことを口にすれば───何度もそんなことを頭の中で思い浮かべるが、その度に何を言っていいのか分からなくなっていった。


 その時───

「「・・・・・はぁ~・・・・・」」

 深い溜め息が、沈黙を破った。

 幼い少女達───マリーと舞依の溜め息である。

「衛・・・あんた今日に限って何でそんなに緊張してんのよ」

「そうじゃそうじゃ。普段ぬしはもっと話すじゃろう」

「・・・・・」

 呆れるように訊ねる少女達に、青年が静かに顔をしかめる。


 マリーと舞依は、左右から衛の顔を覗き込み───にやにやといやらしい笑みを浮かべた。

「それともあれか?若い女子(おなご)が相手じゃから調子が狂っておるのか?」

「あれぇ?そうなのぉ?ごめんねぇ、あたし達余計なこと訊いちゃったぁ?」

「お黙り」

「「んごごごごご」」

 そんな少女二人を、衛は顔をしかめながら、アイアンクローで物理的に黙らせた。


「・・・・・」

 その一連のやり取りを目にし、明日香は思わず呆気にとられてしまった。

「・・・あ」

 それに気付いた衛。

 一瞬硬直した後、アイアンクローを解く。


「あー・・・・・んんっ・・・・・」

 衛は、気を取り直すように短く咳払いをする。

 そして、やや躊躇いがちに、明日香と目を合わせた。

「・・・それじゃあ、改めて自己紹介を。・・・青木衛です。私立探偵をやっています。よろしく」

 簡潔にそう告げる衛。

 そして、両脇で悶絶しているマリーと舞依を交互に一瞥し、言葉を続けた。

「こいつらは、マリーと舞依。訳あって、今俺んとこで預かってるんだ。まぁ・・・やかましいアホだけど、悪い奴らじゃないから仲良くしてやってもらえると嬉しい」

「「だれがあほじゃい・・・!」」

「・・・・・ぷっ・・・ふふ」

 漫才のようなやり取りをする三人組。

 それを見て、明日香は思わず吹き出してしまった。

 決して寡黙なだけの人物ではないらしい。

 二人の少女の言う通り、衛も緊張しているだけなのかもしれない───そう思うと、何だか気が楽になった。


 次の投稿日は未定です。


【追記】

 次は、水曜日の午前0時に投稿する予定です。

 遅くなって申し訳ありません。

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