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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第十話『祖父の現影』
135/310

祖父の現影 九

8

 仏壇の前で、ゆらゆらと煙が立ち上っている。

 灯したばかりの真新しい線香───それから立ち上る煙である。

 仏壇の前には、三人の男女が正座をしている。

 先程訪れたばかりの来客・青木衛と、彼が連れていた少女───マリーと舞依である。

 三人は、仏壇に向かって両手を合わせている。

 そうしながら、静かに目を閉じ、俯いていた。

 決して短くない時間、そうしていた。


 明日香はその様子を、三人の背後に控えながら見つめていた。

 そうしながら、彼らのことについて考えていた。


 青木衛のことは、ほんのわずかにではあるが、明日香も知っていた。

 彼のことについて、廉太郎が少し口にしたことがあったのである。

 廉太郎が初めて衛のことを口にしたのは、今から二年か三年ほど前であろうか。

 目付きは悪いが、真っ直ぐな心を持った青年だ───確か、そう言っていたような気がする。

 何らかの武術を習得しており、彼に何度か、東條流の手解きをしたとも言っていた。

 廉太郎はよく、彼に会うために外出することがあった。

 おそらく、衛に稽古をつけに行っていたのであろう。


 衛は、何度かこの屋敷を訪問したこともあったらしい。

 しかし、明日香に面識はなかった。

 衛が訪問するのは、決まって平日の日中であったらしい。

 その時間帯は、明日香は学校で勉強に励んでいる時間帯である。

 面識がないのも無理はなかった。

 だから、一度会ってみたいと思っていた。

『青木君は私にとって友であり、そして孫のような存在でもある。いつか、お前も会ってみるといい。きっとお前も、彼のことを気に入ると思うよ』

 廉太郎が、嬉しそうにそう言っていたのを、明日香はうっすらとではあるが覚えていた。

 だから明日香も、一度衛に会ってみたいと思っていたのである。


「・・・・・」

 衛が手を下ろし、俯かせていた顔を上げる。

 そのまま、仏壇の前に立ててある廉太郎の写真を見つめた。

 後ろにいる明日香には、衛が今、どんな表情を浮かべているのか、想像もつかなかった。

 しかし───背中から漂う、どこか悲しげな空気は、感じ取ることが出来た。


 しばらくして、衛が立ち上がり、仏壇から離れる。

 それに倣い、マリーと舞依も立ち上がる。

 三人の足は、中央に設置してある座敷机の側へと向かう。

 座敷机の上には、ほのかな湯気をたたせている四つの湯呑みと、茶菓子の入った皿が置かれていた。

 衛達は、机を間に挟むように、明日香の対面側に座った。

 衛の表情は、門の前で出会った時と変わらず、どこか不愛想な表情である。

 しかし───その中に、やはり悲しげな雰囲気が混じっているように感じられた。

 次の投稿日は未定です。


【追記】

 次は、土曜日の午前0時に投稿する予定です。

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