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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第八話『ハイパーターボアクセルババア』
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ハイパーターボアクセルババア 二十二

【これまでのあらすじ】

 衛は、連杰から教わった新術を用いて、ハイパーターボアクセルババアと壮絶なかけっこを繰り広げる。

 そんな中衛は、アクセルババアの負の霊気が和らいでいることを感じ取る。

 これが最後のチャンス───そう考えた衛は、彼女に『彼女を含む馬場家の人間は既に事故で亡くなっている』という事実を伝えた。

15

『───!!』

 タエは、思わず耳を疑った。

 背後から迫ってくる、悪人面の青年。

 彼はたった今、何と言ったのか。

(アタシ達が・・・もう、死んでる・・・!?)

 タエは動揺した。

 思わず、走る速度を落としてしまうほどに。


 信じられなかった。

 何故なら───タエは今、『ここ』にいたから。

 自分は今、何故かは分からないが、この高速道路を走っている。

 死んでいるのならば、あの世にいるはずである。

 しかし───タエは、ここにいる。

 体を打ち付ける風の激しさと、走る時の苦しさを感じながら、この場所を走っているのである。

 青年の言葉は、嘘としか思えなかった。


 しかし───

(なら・・・あの空間は、一体・・・?)

 タエの脳裏に、あの白い光に満たされた空間の情景がよぎる。

 走っても走っても、決して到達しない終着点。

 突然現れる孫の姿。

 そして───深夜のハイウェイへと呼び出される直前に襲ってくる、痛みと恐怖の記憶。

 あの空間は、とても現実に存在する場所だとは思えない。


 何故自分は、あの場所を走っていたのだろう。

 そして何故、突然この高速道路へと呼び出されるのであろう。

 タエには、解らなかった。

 青年の言葉は真実なのか、解らなかった。

 自分がこれまでに走っていた場所がどこなのか、解らなかった。

 自分を襲う記憶の波が何なのか、解らなかった。

 解らなかった。

 解らなかった。

 一体何がどうなっているのか、タエには全く解らなかった。


 ───その時であった。

「・・・っ。ぁ───」

 青年がタエの隣に並んだ瞬間───青年の体勢が、がくりと崩れた。

 青年の体が傾き、徐々に地面と平行になっていく。

 そして───

「ッが!!」

 凄まじい音と共に、青年の上半身が地面に接触。

 つんのめり、背中が弓なりに大きく曲がる。

 彼の体は、タエを追い越し前方へと弾け飛んだ。

 吹き出た血液を宙に撒き散らし、青年は急激に減速しながら、更に前へと転がっていく。

 そして遂に───

「っ、があああっ!!」

 遥か前方のガードレールに衝突。

 粉塵と血液が舞い散る中、コンクリートの地面に身を横たえた。


 その光景を見た途端───

『───!!』

 タエの脳裏に、既視感が発生した。

 ───凄まじい衝撃音。

 ───舞い散る血液。

 ───苦悶する声。

 タエはかつて、それらを体験したことがあった。

(そうだ・・・確か、あの時───!)

 タエの体を、あの記憶の波が襲う。

 悟とかけっこをしている時に襲撃してくる、あの記憶の波が。

 この高速道路に呼び出される直前に襲撃してくる、あの記憶の波が。


 ───ブレーキの音。

 ───傾くトレーラー。

『危ない!こっちに倒れるぞ!!』

 ───潤平の怒号。

『きゃああっ!避けて!避けてあなたッ!!いやぁあああっ!!』

 ───芳美の悲鳴。

 ───こちらに近付く車の天上。

 ───凄まじい轟音。

『・・・!?』

 ───両親の声によって目覚める悟。

 ───不安に満ちた表情。

『ご───!?』

 ───押し潰されるその顔。

 ───噴き出る血液。

 ───飛び出す目玉。

『さと───!うっ───ぐぇ───』

 ───己の腹から喉を通る苦悶の声。

 ───その声が口から飛び出す前に、自身の肉体に伝わる凄まじい苦痛。

 ───ぐるぐると回り、次第に暗転を始める視界。

 ───そして───そして───


「・・・・・・・・・・・・・・・・・あ」

 そして、タエは───

(・・・・・。・・・・・ああ・・・・・そうか・・・・・)

 タエは立ち止まった。

 全てを思い出したから。

 もう、走る必要がないのだと悟ったから。


(アタシは・・・・・アタシは・・・・・あの時・・・・・)

 長い距離を走った。

 長い時を走った。

 そして、その末に───


(この高速道路で・・・・・とっくに死んでたんだねぇ・・・・・)

 タエは遂に───ゴールへと、辿り着いた。

 次回で、このエピソードは完結となります。

 次の投稿日は未定です。


【追記】

 お待たせしました。

 次は、月曜日の午前0時に投稿する予定です。

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