ハイパーターボアクセルババア 二十二
【これまでのあらすじ】
衛は、連杰から教わった新術を用いて、ハイパーターボアクセルババアと壮絶なかけっこを繰り広げる。
そんな中衛は、アクセルババアの負の霊気が和らいでいることを感じ取る。
これが最後のチャンス───そう考えた衛は、彼女に『彼女を含む馬場家の人間は既に事故で亡くなっている』という事実を伝えた。
15
『───!!』
タエは、思わず耳を疑った。
背後から迫ってくる、悪人面の青年。
彼はたった今、何と言ったのか。
(アタシ達が・・・もう、死んでる・・・!?)
タエは動揺した。
思わず、走る速度を落としてしまうほどに。
信じられなかった。
何故なら───タエは今、『ここ』にいたから。
自分は今、何故かは分からないが、この高速道路を走っている。
死んでいるのならば、あの世にいるはずである。
しかし───タエは、ここにいる。
体を打ち付ける風の激しさと、走る時の苦しさを感じながら、この場所を走っているのである。
青年の言葉は、嘘としか思えなかった。
しかし───
(なら・・・あの空間は、一体・・・?)
タエの脳裏に、あの白い光に満たされた空間の情景がよぎる。
走っても走っても、決して到達しない終着点。
突然現れる孫の姿。
そして───深夜のハイウェイへと呼び出される直前に襲ってくる、痛みと恐怖の記憶。
あの空間は、とても現実に存在する場所だとは思えない。
何故自分は、あの場所を走っていたのだろう。
そして何故、突然この高速道路へと呼び出されるのであろう。
タエには、解らなかった。
青年の言葉は真実なのか、解らなかった。
自分がこれまでに走っていた場所がどこなのか、解らなかった。
自分を襲う記憶の波が何なのか、解らなかった。
解らなかった。
解らなかった。
一体何がどうなっているのか、タエには全く解らなかった。
───その時であった。
「・・・っ。ぁ───」
青年がタエの隣に並んだ瞬間───青年の体勢が、がくりと崩れた。
青年の体が傾き、徐々に地面と平行になっていく。
そして───
「ッが!!」
凄まじい音と共に、青年の上半身が地面に接触。
つんのめり、背中が弓なりに大きく曲がる。
彼の体は、タエを追い越し前方へと弾け飛んだ。
吹き出た血液を宙に撒き散らし、青年は急激に減速しながら、更に前へと転がっていく。
そして遂に───
「っ、があああっ!!」
遥か前方のガードレールに衝突。
粉塵と血液が舞い散る中、コンクリートの地面に身を横たえた。
その光景を見た途端───
『───!!』
タエの脳裏に、既視感が発生した。
───凄まじい衝撃音。
───舞い散る血液。
───苦悶する声。
タエはかつて、それらを体験したことがあった。
(そうだ・・・確か、あの時───!)
タエの体を、あの記憶の波が襲う。
悟とかけっこをしている時に襲撃してくる、あの記憶の波が。
この高速道路に呼び出される直前に襲撃してくる、あの記憶の波が。
───ブレーキの音。
───傾くトレーラー。
『危ない!こっちに倒れるぞ!!』
───潤平の怒号。
『きゃああっ!避けて!避けてあなたッ!!いやぁあああっ!!』
───芳美の悲鳴。
───こちらに近付く車の天上。
───凄まじい轟音。
『・・・!?』
───両親の声によって目覚める悟。
───不安に満ちた表情。
『ご───!?』
───押し潰されるその顔。
───噴き出る血液。
───飛び出す目玉。
『さと───!うっ───ぐぇ───』
───己の腹から喉を通る苦悶の声。
───その声が口から飛び出す前に、自身の肉体に伝わる凄まじい苦痛。
───ぐるぐると回り、次第に暗転を始める視界。
───そして───そして───
「・・・・・・・・・・・・・・・・・あ」
そして、タエは───
(・・・・・。・・・・・ああ・・・・・そうか・・・・・)
タエは立ち止まった。
全てを思い出したから。
もう、走る必要がないのだと悟ったから。
(アタシは・・・・・アタシは・・・・・あの時・・・・・)
長い距離を走った。
長い時を走った。
そして、その末に───
(この高速道路で・・・・・とっくに死んでたんだねぇ・・・・・)
タエは遂に───ゴールへと、辿り着いた。
次回で、このエピソードは完結となります。
次の投稿日は未定です。
【追記】
お待たせしました。
次は、月曜日の午前0時に投稿する予定です。




