ハイパーターボアクセルババア 十六
【これまでのあらすじ】
某県高速道路に、午前三時に出没する化け物───ハイパーターボアクセルババア。
彼女の正体は、数年前、この高速道路で起こった事故の犠牲者であった。
何とかして彼女を救わねば───そう決意した衛は、とある作戦を思い付く。
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そして───翌日の午前三時。
件の高速道路の様子は、昨夜と何も変わらなかった。
走行車両の少なさも、夜風の冷たさも。
妙に静まり返った空気と、底知れぬ闇でさえも。
そんな闇の中に溶け込むように、カウボーイが疾駆していた。
車内に乗り込んでいるのは当然、二人の退魔師と、二人の妖怪である。
左運転席にシェリー、右助手席に衛。
そして後部座席には、マリーと舞依が座っている。
座席の位置も、昨晩と全く変わっていない。
まるで、昨晩の様子を録画し、そのまま再生したような───そんな光景であった。
しかし、車内の空気は、昨晩とは大違いであった。
満ちている闘気の質が、昨晩以上に濃厚であった。
「・・・本当に、やるのね?」
「ああ、やる。やってみせる」
シェリーの問い掛けに、衛が頷く。
凄まじい形相で前方を睨み付ける彼の体からは、はち切れんばかりの熱いものが生まれていた。
それこそが、この車内を満たしている闘気の正体であった。
「ねえ衛・・・本当に大丈夫なの?」
「正直なところ、わしらはぬしの作戦を聞いた時、不安で堪らなかったんじゃ・・・。確かぬしは、成功率は低いと言っておったが・・・」
マリーと舞依が、衛に訊ねる。
表情は真剣そのものであったが、その顔からは、僅かに不安げな様子が漂っていた。
しかし───その問い掛けを受けても、衛の顔に宿る決意は揺らぐことはなかった。
「まあな。だけど、もう方法はこれしかない。どんなに成功率が低くても、方法がないのならやるしかないさ」
そう呟き、窓の外の景色に目を向ける。
黒いスポーツカーは既に、アクセルババアが出没する区間を走っている。
老婆の化け物がいつ現れてもおかしくない状況である。
一同の発する空気に、僅かに緊迫感が混じり始めた───その時であった。
「・・・!」
衛の瞼がぴくりと動く。
妖気。
後方から感じ取った。
「・・・来たぞ」
サイドミラーを一瞥し、衛が呟く。
そこには───
『げひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!』
笑いながら疾走する老婆の姿が。
アクセルババアである。
昨晩、初めて遭遇した時と何も変わらない姿である。
発狂状態になった時の、頭部からの激しい流血は見られなかった。
やはり、まだ夢の中で孫とかけっこに興じているつもりのようであった。
『うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!』
追い越し車線のアクセルババアと、走行車線のカウボーイの距離が徐々に縮まっていく。
しばらくして、一体の化け物と一台のスポーツカーが横に並ぶ形となる。
『げぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ』
アクセルババアは、隣を走るスポーツカーに向かって笑い掛けるが───
「「「「・・・・・」」」」
車内の四人は、何の反応も示さない。
昨晩、手を振って見せたマリーですらも、何も行動を起こさない。
真剣な表情で、前を見つめていた。
やがて、アクセルババアは正面へと顔を向け直す。
そして、カウボーイを追い抜こうと、そのまま加速を続けていく。
「ここまで来たら、もうやるしかないわね・・・頼んだわよ・・・!」
アクセルババアに追い抜かれた直後、気を更に引き締めながら、シェリーは呟く。
それよりも更に気を引き締めた表情で、衛は頷く。
「ああ。・・・じゃあ、やるぜ」
そして、助手席側の窓の開閉ボタンに、静かに手をかけた。
今度こそ、アクセルババアを解放してみせる───そう強く思いながら、衛は力強く、そのボタンを押した。
次の投稿日は未定です。目途が立ち次第、後書きに追記させていただきます。
また、今日で魔拳の投稿を始めて1年が経ちました。
ここまで続けることができたのも、皆様の励ましとお叱りがあったからこそだと思っております。
皆様、本当にありがとうございます。
最近、プライベートな事情で投稿頻度が落ち気味ですが、エタることはけっしてありませんので、これからもお付き合いいただければと思います。
それでは皆様、これからも宜しくお願い致します。




