表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第八話『ハイパーターボアクセルババア』
113/310

ハイパーターボアクセルババア 十五

「しかし・・・どうするつもりなんじゃ?」

 その時、舞依が口を開く。

「さっきの話し合いの時にも話題になっとったが、アクセルババアには銃撃は効かんし、近寄ろうにも、光線が邪魔で上手く近寄れんぞ?」

「ああ・・・それなんだよな・・・」

 彼女の言葉に、衛は思い出したように顔をしかめる。

「遠距離は駄目、近距離に近寄るのも至難の技・・・。畜生、八方塞がりか・・・」

 そして、片手で後頭部の辺りを軽く掻く。

 しかし、何度掻こうと、それで妙案が浮かぶはずもない。

 やがて衛は、掻いている手を止め、静かに下ろした。


「あ、そういえば・・・あの時、シェリーが『説得出来るかも』って言ってたわよね?あの案はどうかな?」

「ああ、そういえばそうだったわね」

 マリーの言葉に、シェリーは数時間前に自分が提案したことを思い出す。

 そして───目を伏せ、ゆっくりとかぶりを振った。

「残念だけど、あの案も難しいわね」

「どうして?」

「あの時、アクセルババアはあなたに挨拶を返してきたわよね?あれを見て私は、『アクセルババアは、私達とコミュニケーションを取ることが出来るんじゃないか』と思った」

「・・・」

「だけど───ついさっき衛が言ったように、今のアクセルババアは、幻覚を見ている状態なの。もしもアクセルババアが、『あなたをお孫さんだと思い込んで』挨拶を返しただけだったとしたら?」

「・・・あ」

「そんな状態の彼女に説得をして───その途中で、彼女を説得しているのがお孫さんではなく、私達なのだと気付かれたら・・・?」

「・・・?『あのおばあちゃんがまた狂って、私達を襲うかもしれないい』ってこと?」

「そう。その通りよ」

 マリーが導き出した正解に、シェリーが頷く。

 その表情は、苦しげに眉根を寄せた状態である。

 それは、他の三人も同じであった。

 現状では、打倒も和解も不可能なのだろうか。

 アクセルババアを成仏させることは不可能なのであろうか。

 そんな考えが、表情に浮かんでいた。


 が───

「・・・もう一度、考えてみましょう。どうすれば、アクセルババアを倒すことが出来るのか」

 励ますように、シェリーは一同に声を掛ける。

 その言葉に、三人は真剣な表情で頷いた。

 諦める訳にはいかなかった。

 ここで諦めてしまえば、アクセルババアはこのまま、あの高速道路を走り続けることになる。

 そうなってしまえば、いずれ無関係な人々にも危害が及ぶ。

 そして───アクセルババアも、家族に会うことが出来ない。

 何としても、打開策を見つけなければ───四人は、そう思っていた。


 その中でも、特に強い思いを抱いている者がいた。

 その人物は───他ならぬ青木衛である。

「・・・・・」

 衛は険しい表情のまま、アクセルババアへの対抗策を黙考し続けている。

 そうしながら───頭の片隅で、自身の祖母のことを思い出していた。


 衛には、両親がいない。

 彼がまだ幼い頃、両親は他界したのである。

 残された肉親は、まだ物心もついていない弟と、父方の祖母のみであった。

 孫思いの祖母は、両親を失った幼い兄弟に、深い愛情を注いだ。

 両親の愛を満足に受けられなかった孫達を、しっかりと抱き締め、育てていった。

 衛もまた、そんな祖母を深く愛し、感謝していた。

 今は家事や農業の手伝いでしか恩返し出来ないが、大人になったらしっかり稼いで、祖母に楽をさせてあげよう───そう思っていた。


 しかし───その思いは、結局果たされることはなかった。

 衛が成人する前に、その祖母もまた、両親の下へと旅立ってしまったのである。

 彼は激しく後悔した。

 もっと祖母を労ってあげれば良かった。

 もっと祖母に恩返しがしたかった。

 もっと早く自分が大人になっていたら。

 衛は、悲しさと後悔を涙へと変え、枯れ果てるまでむせび泣いた。

 しかし、涙が尽き果てても、衛の心の隅に、後悔は残り続けた。

 何年も。

 今日に至るまで、何年も残り続けたのである。


 そして今───彼は、一人の老婆を救えるかどうかという瀬戸際にいる。

 その老婆は、自身の祖母と同じく、孫思いの老婆であった。

 彼女を救ったところで、祖母への恩返しになる訳ではない。

 他人が見れば、ただの自己満足だと嘲笑われるのかもしれない。

 それでも───衛には、見捨てることが出来なかった。

 何としても、彼女を狂気の淵から救いたい───そう強く思っていた。


(何か・・・・・ないのか・・・・・?)

 ぎりぎりと歯軋りをしながら、衛は黙考し続けた。

(あの婆さんを救う方法・・・・・何か・・・・・手はないのか・・・・・!?)

 眉根に寄った皺の上を、汗が伝う。

 それを拭うこともなく、考え続けた。

 アクセルババアを───否。

 馬場タエを救い出す方法を、自身の脳から絞り出そうとした。


 ───その時であった。

「・・・せめて───」

 シェリーが不意に発した一言。

「彼女が錯乱しても、正気に戻すことさえ出来れば、説得出来るかもしれないのだけれど・・・」


 その一言が───

「・・・?『正気に』・・・『戻す』・・・?」

 衛の脳に───

「・・・・・・・・!」

 一つの閃きを生んだ。


「・・・あった」

「「「え?」」」

 衛の呟きに、女性陣が呆けた声を漏らす。

 そして、衛の顔を見た。

 衛の表情は───大きく両目を見開いたものであった。

 何故これを思い付かなかったのだ───そんな考えが浮かんでいるようであった。

「あった・・・!これだ!」

 衛は思わず、膝を叩いて立ち上がっていた。

「これなら、あの婆さんを正気に戻せるかもしれねえ!いや、正気に戻せなくとも、あの婆さんに近距離で攻撃出来るチャンスが作れる!」

「「「え!?」」」

 興奮気味に語る衛。

 彼の言葉に、三人もまた、大きく両目を見開いた。


「衛、一体どうするつもりなんじゃ!?」

「正気に戻すって、一体何をするつもりなの!?」

「簡単さ。あの婆さんは、まだ夢の中で孫とかけっこをしているんだ。だったら、夢の中じゃなくて、現実の出来事を体験させてやればいいのさ」

「・・・?・・・どういうこと?」

「どんなに眩しい夢も、リアルに感じる体の感覚には敵わない。現実で強烈な体験をすれば、夢から醒めるかもしれねえ」

 衛が説明するも、三人は困惑し続けるのみであった。

 衛が何を考えているのか、全く合点がいかない様子であった。

 そんな彼女達の様子を察し、衛は、己の気持ちが必用以上に昂っていたことを悟った。

 一度、ゆっくりと深呼吸をする。

 その後、己が考えた作戦を、冷静に語り始めた。


「いいか?俺が考えた作戦は───」

 次の投稿日は未定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ