ハイパーターボアクセルババア 十五
「しかし・・・どうするつもりなんじゃ?」
その時、舞依が口を開く。
「さっきの話し合いの時にも話題になっとったが、アクセルババアには銃撃は効かんし、近寄ろうにも、光線が邪魔で上手く近寄れんぞ?」
「ああ・・・それなんだよな・・・」
彼女の言葉に、衛は思い出したように顔をしかめる。
「遠距離は駄目、近距離に近寄るのも至難の技・・・。畜生、八方塞がりか・・・」
そして、片手で後頭部の辺りを軽く掻く。
しかし、何度掻こうと、それで妙案が浮かぶはずもない。
やがて衛は、掻いている手を止め、静かに下ろした。
「あ、そういえば・・・あの時、シェリーが『説得出来るかも』って言ってたわよね?あの案はどうかな?」
「ああ、そういえばそうだったわね」
マリーの言葉に、シェリーは数時間前に自分が提案したことを思い出す。
そして───目を伏せ、ゆっくりとかぶりを振った。
「残念だけど、あの案も難しいわね」
「どうして?」
「あの時、アクセルババアはあなたに挨拶を返してきたわよね?あれを見て私は、『アクセルババアは、私達とコミュニケーションを取ることが出来るんじゃないか』と思った」
「・・・」
「だけど───ついさっき衛が言ったように、今のアクセルババアは、幻覚を見ている状態なの。もしもアクセルババアが、『あなたをお孫さんだと思い込んで』挨拶を返しただけだったとしたら?」
「・・・あ」
「そんな状態の彼女に説得をして───その途中で、彼女を説得しているのがお孫さんではなく、私達なのだと気付かれたら・・・?」
「・・・?『あのおばあちゃんがまた狂って、私達を襲うかもしれないい』ってこと?」
「そう。その通りよ」
マリーが導き出した正解に、シェリーが頷く。
その表情は、苦しげに眉根を寄せた状態である。
それは、他の三人も同じであった。
現状では、打倒も和解も不可能なのだろうか。
アクセルババアを成仏させることは不可能なのであろうか。
そんな考えが、表情に浮かんでいた。
が───
「・・・もう一度、考えてみましょう。どうすれば、アクセルババアを倒すことが出来るのか」
励ますように、シェリーは一同に声を掛ける。
その言葉に、三人は真剣な表情で頷いた。
諦める訳にはいかなかった。
ここで諦めてしまえば、アクセルババアはこのまま、あの高速道路を走り続けることになる。
そうなってしまえば、いずれ無関係な人々にも危害が及ぶ。
そして───アクセルババアも、家族に会うことが出来ない。
何としても、打開策を見つけなければ───四人は、そう思っていた。
その中でも、特に強い思いを抱いている者がいた。
その人物は───他ならぬ青木衛である。
「・・・・・」
衛は険しい表情のまま、アクセルババアへの対抗策を黙考し続けている。
そうしながら───頭の片隅で、自身の祖母のことを思い出していた。
衛には、両親がいない。
彼がまだ幼い頃、両親は他界したのである。
残された肉親は、まだ物心もついていない弟と、父方の祖母のみであった。
孫思いの祖母は、両親を失った幼い兄弟に、深い愛情を注いだ。
両親の愛を満足に受けられなかった孫達を、しっかりと抱き締め、育てていった。
衛もまた、そんな祖母を深く愛し、感謝していた。
今は家事や農業の手伝いでしか恩返し出来ないが、大人になったらしっかり稼いで、祖母に楽をさせてあげよう───そう思っていた。
しかし───その思いは、結局果たされることはなかった。
衛が成人する前に、その祖母もまた、両親の下へと旅立ってしまったのである。
彼は激しく後悔した。
もっと祖母を労ってあげれば良かった。
もっと祖母に恩返しがしたかった。
もっと早く自分が大人になっていたら。
衛は、悲しさと後悔を涙へと変え、枯れ果てるまでむせび泣いた。
しかし、涙が尽き果てても、衛の心の隅に、後悔は残り続けた。
何年も。
今日に至るまで、何年も残り続けたのである。
そして今───彼は、一人の老婆を救えるかどうかという瀬戸際にいる。
その老婆は、自身の祖母と同じく、孫思いの老婆であった。
彼女を救ったところで、祖母への恩返しになる訳ではない。
他人が見れば、ただの自己満足だと嘲笑われるのかもしれない。
それでも───衛には、見捨てることが出来なかった。
何としても、彼女を狂気の淵から救いたい───そう強く思っていた。
(何か・・・・・ないのか・・・・・?)
ぎりぎりと歯軋りをしながら、衛は黙考し続けた。
(あの婆さんを救う方法・・・・・何か・・・・・手はないのか・・・・・!?)
眉根に寄った皺の上を、汗が伝う。
それを拭うこともなく、考え続けた。
アクセルババアを───否。
馬場タエを救い出す方法を、自身の脳から絞り出そうとした。
───その時であった。
「・・・せめて───」
シェリーが不意に発した一言。
「彼女が錯乱しても、正気に戻すことさえ出来れば、説得出来るかもしれないのだけれど・・・」
その一言が───
「・・・?『正気に』・・・『戻す』・・・?」
衛の脳に───
「・・・・・・・・!」
一つの閃きを生んだ。
「・・・あった」
「「「え?」」」
衛の呟きに、女性陣が呆けた声を漏らす。
そして、衛の顔を見た。
衛の表情は───大きく両目を見開いたものであった。
何故これを思い付かなかったのだ───そんな考えが浮かんでいるようであった。
「あった・・・!これだ!」
衛は思わず、膝を叩いて立ち上がっていた。
「これなら、あの婆さんを正気に戻せるかもしれねえ!いや、正気に戻せなくとも、あの婆さんに近距離で攻撃出来るチャンスが作れる!」
「「「え!?」」」
興奮気味に語る衛。
彼の言葉に、三人もまた、大きく両目を見開いた。
「衛、一体どうするつもりなんじゃ!?」
「正気に戻すって、一体何をするつもりなの!?」
「簡単さ。あの婆さんは、まだ夢の中で孫とかけっこをしているんだ。だったら、夢の中じゃなくて、現実の出来事を体験させてやればいいのさ」
「・・・?・・・どういうこと?」
「どんなに眩しい夢も、リアルに感じる体の感覚には敵わない。現実で強烈な体験をすれば、夢から醒めるかもしれねえ」
衛が説明するも、三人は困惑し続けるのみであった。
衛が何を考えているのか、全く合点がいかない様子であった。
そんな彼女達の様子を察し、衛は、己の気持ちが必用以上に昂っていたことを悟った。
一度、ゆっくりと深呼吸をする。
その後、己が考えた作戦を、冷静に語り始めた。
「いいか?俺が考えた作戦は───」
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