ハイパーターボアクセルババア 十四
8
四人の姿は、再び居間のソファーの上にあった。
彼らが囲うテーブルの上には、煎れたばかりの緑茶が湯気を立てている。
ゆらゆらと揺れるそれを見つめながら、四人は未だに沈黙を保ち続けていた。
「・・・・・。・・・なんかさ・・・」
その時、マリーが沈黙を破った。
他の三人が、彼女に注目する。
「・・・ちょっと・・・ショック受けちゃったな・・・」
「・・・・・」
意気消沈した表情で呟くマリー。
何に対してそう思ったのか、彼女は口にしなかった。
しかし、他の三人は、その思いが誰に対して向けられたものなのか、言われずとも分かった。
当然、アクセルババアに対してである。
「・・・ご近所さんが、『お孫さんとよくかけっこしてた』って言ってたよね・・・。・・・もしかして、あのおばあちゃんが高速道路で走り回ってるのって───」
「・・・・・。・・・ああ」
衛が、小さく頷く。
瞳には、悲しみの光が宿っている。
次の言葉を続けようと口を開いた時、僅かにその光が強くなった。
「多分・・・あの婆さんは、生前の習慣を繰り返してるんだ。走っている車をお孫さんと思い込んで、かけっこをしてるつもりなんじゃねえかな。・・・自分がもう死んでるってことも思い出せず、まるで幻覚を見ているか、夢遊病にでもかかったみたいに」
憐れみの感情を言葉に乗せながら、衛はそう語る。
その言葉に、シェリーは静かに頷き、口を開く。
「でも───心の奥底では、自分と家族が事故にあったことを覚えているのかもしれないわね。・・・彼女が今までに襲った車は、蛇行運転、過度のスピード違反、そして飲酒運転───かつて自分達を下敷きにしたトレーラーと共通した行動をしている。きっと、それらの運転を見ることで、その瞬間の記憶がフラッシュバックするのよ」
「そして、狂気に身を委ね、錯乱状態になる訳じゃな。家族が死んだという悲しい記憶に耐えられずに・・・怒りと憎しみを燃料とし、車を襲っとったんじゃろうな。もういない家族を取り戻す為に・・・。・・・悲しいものじゃのう・・・」
眉根を寄せつつ、舞依が呟く。
他の皆と同様、その表情には悲しみが。
自らが死すとも、その現実を受け入れられず、優しい夢の中で孫とかけっこに興じるアクセルババア。
何と憐れな怪物か───今や、四人の中にある彼女への印象は、大きく形を変えていた。
「・・・・・終わらせてやんなきゃな」
衛が呟く。
「このままで良い訳がない。今はまだ死人は出てねえけど・・・その内、何の罪もない人が殺されるかもしれない。・・・家族のところに、ちゃんと送ってやんなきゃ」
衛は、三人を諭すように言葉を絞り出す。
その目には、先程と同じ悲しみの色が。
しかし、それ以上に───強い決意の色が満ち溢れていた。
次の投稿日は未定です。
【追記】
次は、土曜日の午前10時に投稿する予定です。




