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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第八話『ハイパーターボアクセルババア』
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ハイパーターボアクセルババア 十二

「あ、じゃあまずはあたしから!」

 最初に挙手したのは、マリーであった。

 疲れが吹き飛び、意気揚々とした表情になっていた。

「車の中でも話してたけど、アクセルババアの正体って、やっぱり人間なのかしら?どこかのおばあちゃんが何か未練を持ってこの世に留まって、それで悪霊になっちゃったのかな」

「そうね、おそらくはそれで正解よ。あの時はまだ明確な答えは出せなかったけど、今なら分かるわ。あの憎しみの感情・・・間違いなく、現世の怨みが未練となって、悪霊になったのよ」

 マリーの疑問に、シェリーが断言の言葉を返す。

 その内容に、三人も頷いて同意した。

 あの時、アクセルババアの様子が豹変した瞬間、四人は心で理解し、感じ取っていた。

 アクセルババアが抱く、狂おしいほどの絶望と、絶えることのない憎悪を。


「だとしたら・・・アクセルババアは、何に対して憎しみを持ってるんじゃろうな?それに、アクセルババアが襲ってくる条件も全く分からん」

「そうだな・・・あの時、アクセルババアは俺達に襲い掛からなかったのに、前を走ってたあの車を見つけた瞬間豹変した。どんな条件が重なったらあの婆さんは襲って来るんだ・・・?」

「「「ううん・・・」」」

 居間に呻き声が響く。

 誰一人として分からなかった。

 アクセルババアが発していた、異常とも言うべきあの執念───一体何が、彼女に憎悪をもたらしたのであろうか。


「ん~~~~~。・・・。・・・?あっ───」

 ふと、マリーがはっとした表情になる。

「どうした?」

「えっと、えっとね。襲って来る条件と関係あるのかは分かんないけど・・・あのおばあちゃん、前の車に向かって、何か叫んでなかった?」

「え?・・・ああ、確かに叫んでおったのう。ああ・・・何と叫んでおったんじゃったけ・・・?」

「えっと、確かね───」

 そこでマリーは、アクセルババアを彷彿とさせる、鬼気迫る表情を再現する。

 そして、叫んだ。

「『サどるヴぉガエぜぇエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!』って叫んでたわ」

「お前の物真似何でそんなクオリティ高ぇの?」

「ぷっ・・・ク・・・クク・・・」

「笑いのツボ浅すぎじゃろ」

 迫真の演技をするマリーと、そのクオリティの高さに笑いを堪えるシェリー。

 衛とマリーは、呆れるような顔で2人にツッコんだ後、再び顔を引き締めて話し始めた。


「でも、確かにそう叫んでたな。『何か』を『返せ』って叫んでたのか?」

「うむ、多分そうじゃろうな。『サどる』・・・『サドル』?自転車のサドルのことかのう?」

「まさかあのおばあちゃん、『愛用の自転車のサドルを盗まれて、その恨みでこの世に留まって、悪霊になった』のかしら?・・・。・・・いやいやいや、流石にそれはないわ~・・・」

 マリーは、自分が口にした予想を、即座に否定する。

 三人も、その考えだけは絶対にないと思った。

 サドルを盗まれただけで、あれほどの憎悪が育つとは思えなかった。

「『サどる』・・・何のことかは分からねえけど、ちょっと頭の端っこに留めとこうぜ」

 衛のその言葉に、女性陣が同時に頷く。

 きっと重要な手掛かりになるに違いない。

 四人はそう確信していた。


「じゃあ次は、アクセルババアが襲って来る条件に迫ってみましょう」

 シェリーが次の話題へと進行する。

「それなんだけどよ───」

 彼女が言い終えた後、衛は小さく挙手をした。

「ちょっと聞きたいことがあるんだ」

「『聞きたいこと』?」

「ああ。今までに、アクセルババアが襲った車のドライバーに、何か共通する特徴とかあるか?」

「『共通する特徴』?」

「何でも良いんだ。性別、年齢(とし)、車種、本当に何でも良い」

「・・・。そうね───」


 シェリーは眉を寄せながら、スマートフォンを取り出す。

「これを見てもらえるかしら───」

 何度かタッチやフリックを繰り返した後、三人にも見えるよう、中央のテーブルに置く。

 画面に載っているのは、これまでに襲撃されたドライバーの特徴をまとめた文面であった。

 最初のドライバーは四十七歳の男性で、軽トラックを運転していた。

 二人目は、二十七歳の男性。

 普通自動車を運転していた。

 そして三人目は、女性であった。

 十九歳で、軽自動車を運転している。


「・・・バラバラだな」

「・・・バラバラね」

「・・・バラバラじゃのう」

「そう。バラバラなのよね」

 三人の小さな呟きに、シェリーも同調するように呟く。

 一見、共通点はなかった。

 性別も年齢も車種も、まるで一致していない。

 では、何故アクセルババアは彼らを襲ったのであろうか。

 気分次第で、見逃したり襲ったりしたのであろうか───衛は一旦、そんなことを考えた。

 が───

「・・・そんなはずはねえ」

 そう呟き、即座に自分の考えを否定した。

 ただの気紛れであれほどの憎しみをぶつけるなど考えられない。

 必ず、何らかの共通点があるはずに違いない───そう思っていると、衛の頭の中に、ある疑問が浮かんだ。


「・・・なあシェリー。今までに襲われたドライバーなんだけど、ひょっとして全員飲酒運転してなかったか?」

「え?」

「いや・・・さっきのドライバー、飲酒運転してたろ?しかも、かなり深酒だった。もしかしたら、それが原因で襲われたってこともあるんじゃねえかって思ってよ」

「ああ、そういうことね」

 納得のいったという顔をするシェリー。

 その後、静かにかぶりを振った。

「・・・けど、はずれよ。全員、素面のままで運転してる時に襲われたらしいわ」

「そうか・・・」

 当てが外れたことに、衛は一瞬顔をしかめた。

 だがすぐに元の仏頂面に戻り、再びシェリーに質問を投げ掛ける。


「・・・なら、何か変わったことはやってなかったか?飲酒運転とはいかないまでも、何か交通ルールを違反してたりとか───」

「ああ、それなら───」

 そこでシェリーは、再びスマートフォンを操作。

 更に詳しい資料を開き、三人に内容を伝えた。

「二人目と三人目は、規定速度を三十キロ以上オーバーしてたらしいわ。特に、二人目の被害者は相当なスピード狂だったらしくてね。一五〇キロで走行してたらしいの」

「スピード違反か・・・。最初の被害者は?」

「スピードは出してなかったみたい。・・・だけど、深夜ということもあって、ウトウトしてたみたいなの。やや蛇行運転気味だったみたいね」

「・・・ううん・・・」

 衛が呻く。

 蛇行運転、スピード違反───そして、飲酒運転。

 共通するのはただ一つ。

 どれも『危険運転』だということである。

 下手をすれば、死亡事故に発展してもおかしくはない。


「・・・死亡事故・・・か・・・」

 ぼそりと、衛が呟く。

 もしや、アクセルババアはこの高速道路で事故に遭い、死亡したのでは。

 その恨みを忘れられず、現世に留まり、あのような悪霊になったのでは───そう思った。


「・・・なぁシェリー。あの高速道路で過去に起こった事故について調べてみねえか?もしかしたら、この三つの条件が重なった事故があるかもしれないぜ」

「そうね。・・・そして、その事故で亡くなった人物こそが、アクセルババアの正体なのかも」

 衛とシェリーが同時に頷き、立ち上がる。

 それに遅れ、マリーと舞依も慌てて立ち上がった。

 向かう先は書斎───その中のデスクに置かれたパソコンの下である。

 次の投稿日は未定です。


【追記】

 次は、木曜日の午前10時に投稿する予定です。

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