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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第八話『ハイパーターボアクセルババア』
109/310

ハイパーターボアクセルババア 十一

6

「完全にしてやられたわね・・・」

「ああ・・・」

「うん・・・」

「うむ・・・」

 シェリー、衛、マリー、舞依の四人は、ソファーに腰掛けたまま、頭を抱えていた。

 一同が口にしている話題は勿論、ハイパーターボアクセルババアについてである。

 表情は皆暗く、これからどうするべきか、どうやってアクセルババアを退治すべきか、考えあぐねているようであった。


 あの後衛達は、自分達があの現場にいたという情報や痕跡を可能な限り消した。

 そして、ドライバーの携帯電話で救急車を呼び、そそくさとその場を後にした。

 撤収する前に、アクセルババアに襲われたドライバーに、舞依が強力な幻術を施した。

 あの場で何が起こったのか、彼はもう何も覚えてはいない。

 飲酒運転による、自業自得な事故───警察はそう処理するであろう。


 その後、四人は一旦衛の自宅に戻った。

 そして、アクセルババアを退治する作戦を、もう一度練り直すことにしたのである。

 だが───

「・・・・・どうすりゃ良いってんだ・・・・・」

「「「はぁ・・・・・」」」

 良い案は、一向に浮かばなかった。


 遠距離から攻撃を仕掛けても、驚異的な回復能力によって、すぐに完治してしまう。

 ならば、ギリギリまで近寄って、強力な一撃を叩き込んでしまえば良いのだが───ただでさえアクセルババアは、凄まじいスピードで疾走している上に、迂闊に近寄ろうものなら、怪光線でこちらの視力を奪おうとしてくる。

 防御する手段は、衛の抗体によるバリアのみ。

 しかし、使用出来る回数は限られている上に、バリアを形成し終えるまでに時間が掛かる。

 数時間前のように、バリアを張るよりも速く怪光線を撃たれてしまっては、何の意味もない。

 正に手詰まりの状態であった。

「近寄っても駄目、遠ざかっても駄目・・・。畜生・・・どうすりゃ良いんだ・・・?」

 顔をしかめ、片手で頭を掻きながら、衛がぼやく。

 自分の頭の回転の悪さを歯痒く感じながら、作戦を考え続けた。


「んんん~・・・・・。・・・あ、閃いた!」

 唸り続けていたマリーが、突然高いを上げた。

 表情も、眉を寄せた暗いものから、ぱっと明るいものへと変わっていた。

「何だ?」

「衛には光線が効かないんでしょ?だったらさ、衛が車を運転すれば良いのよ!アクセルババアが光線を撃ってきても、衛の体に流れてる抗体が自動的に打ち消してくれるから、バリアを張らなくても大丈夫って訳よ!これならどう!?」

「いや、駄目だ」

「うむ、駄目じゃな」

 マリーが出した案を、衛と舞依は即座に却下する。

「え、何で!?」

 マリーが訊ねる。

 自信のある案をあっさり切り捨てられ、少しむっとした様子であった。

 それに対して、衛と舞依は理由を述べるべく口を開いた。

 衛はむっつりと。

 舞依は呆れたように。


「前、飯食ってる時に話してなかったっけ?俺の運転の腕は、ペーパードライバーに毛が生えた程度なんだ。免許を取ってからあんまり車を運転したことがねえからな。俺が運転してる時に、もしアクセルババアが妙なことをしようとしたら、対応出来る自信がねえ」

「そもそも、仮に衛が運転することになったとしたら、一体誰がアクセルババアに攻撃を加えられるんじゃ?昨日見たように、シェリーの銃ではアクセルババアに致命傷を与えることは出来んかったんじゃぞ?」

「う、ぐ・・・・・」

 マリーが言葉に詰まらせる。

 二人に指摘されて、以前食卓で交わした会話と、自分が提案した策のデメリットに気付いたようであった。

 両の腕を組み、再び唸り始めた。


 それから十分の間、四人はソファーに座って考え続けた。

 言葉を交わすものは、誰もいなかった。

 代わりに聞こえてくるのは、付けっぱなしになっているテレビの音。

『ダイナ~♪ダイナ~♪ダイナく~ん♪ぼくらをたすけてダイナく~ん♪』

 テレビの中で緑の恐竜が踊り、愉快そうな女性の歌が流れている。

 世界でトップクラスのシェアを誇る製薬企業、大名製薬(だいみょうせいやく)のコマーシャルである。

 マスコットキャラクター『ダイナくん』が登場するこのCMは、視覚的にも聴覚的にも記憶に残りやすく、子供達だけでなく、大人の間でも人気となっている。

 聴けば元気になってくる───多くの世代からそんな感想が寄せられる、正にブームの曲であった。

 しかし───この居間にいる四人は、現在この曲を聞いても、全く元気になれなかった。

 アクセルババアと交戦して帰宅した後、四人は不眠で考え続けたので、疲労困憊であった。

 しかし、このままでは良い作戦など思い付かない───そう思い、シェリーは僅かに残った元気を無理矢理振り絞り、三人に声を掛ける。


「このままじゃ埒があかないわね。ちょっと気分転換でもしましょうか」

「気分転換?」

「何をするんじゃ?」

「アクセルババアの正体について考えてみるのよ」

「・・・?正体について?」

 微笑みながら提案するシェリー。

 彼女の言葉に、衛は思わず不思議そうな顔を見せる。


「どういうことだよ?」

「簡単な話よ。私達は数時間前、アクセルババアと初めて接触した。それによって、それまで噂話だけを耳にして、曖昧だった彼女の姿が、はっきりとしたものになったわ」

「・・・」

「だから、改めて考えてみるのよ。アクセルババアがどういった経緯で生まれた存在なのか。何故彼女は、車を襲ったり襲わなかったりしたのか。そうやって彼女の正体に迫ることで、もしかしたら突破口が掴めるかもしれないわ」

「・・・なるほどな───」

 口元に手を当て、少し考える衛。

 数秒後、シェリーの目を見て、小さく頷いた。

「・・・良いかもな。早速考えてみようぜ」

 その言葉を聞き、シェリーも微笑みながら軽く頷いた。

「ええ。それじゃあ、気になることをそれぞれ上げていきましょうか」

 そして、マリーと舞依を交互に見る。

 どんな些細なことでも構わない───そんな意思を、視線に混ぜて注いでいく。

 次の投稿日は未定です。


【追記】

 次は、土曜日の午前10時に投稿する予定です。

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