表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第八話『ハイパーターボアクセルババア』
107/310

ハイパーターボアクセルババア 九

 嘶く荒馬の如く、カウボーイのエンジンが爆音を上げる。

 そして、前方のアクセルババアを追跡すべく、凄まじいスピードで疾走する。


「───っ!」

 シェリーは再び窓から身を乗り出す。

 そして三連射───全弾命中。

 真っ赤な血がアクセルババアから噴き出るが、やはりその傷も、みるみる内に治癒していく。


 しかし───アクセルババアに、初めて変化が起こった。

 突如、全力疾走を止め、右車線の更に右脇で急停止したのである。

「───!?」

 一瞬、シェリーの意識が空になった。

 アクセルババアの行動の意図が読めず、隙が生じた。

 アクセルババアとカウボーイの距離が、急激に縮まる。

 急停止した血塗れの老婆の体は、漆黒のスポーツカーに追い越され、僅かに後方に───


『グァアアアアアアアアッ!!』

 その時、アクセルババアが咆哮。

 止めていた足を再び動かし、疾走を開始する。

 アクセルババアとカウボーイが並んだ。

 同速度。

『グヒ───』

 アクセルババアが、四人を見る。

 血塗れの顔が、笑みを形作った。

 おぞましく、禍々しい狂喜の表情を───


「来るぞ!!」

 アクセルババアの意図を察知し、衛が叫ぶ。

 窓から外へと右手を突き出す。

 そして───

「───っ!」

 練り上げた抗体を一気に放出。

 鮮血を彷彿とさせる赤色の気が、車体の右側に壁の如く形成された。


『ゲヒャアアアアアアアアアァ!!』

 抗体の壁が完成するのと同時に、アクセルババアの目が輝く。

 次の瞬間───怪光線が放たれた。

 これまでに三人のドライバーの視界を奪った、件の光線である。

 しかし───その光線は抗体によって分解、消滅。

 車内の誰の目も、潰されることはなかった。


『───!?』

 アクセルババアの顔から、笑みが失せる。

 驚愕───そして動揺。

 その後、再びバリアに向けて光線を発射する。

 ───が、やはり光線は消滅。

 カウボーイへ達することはなかった。

『ギィ・・・!』

 老婆は悔しげな声を漏らす。

 歯を剥き出したその形相からは、憎悪と殺意が止めどなく溢れていた。


 すると次の瞬間、老婆が顔を正面へと向け直す。

 そして突風の如く、再び全力で走り出した。

 邪魔者を始末出来ないのであれば、当初の目的を優先させる───そういうつもりなのであろうかと、シェリーは考えた。

「させないわよ!」

 鋭く叫び、再びシェリーがアクセルを踏み込む。

 アクセルババアの背後を追いかけながら、シェリーは再び窓から身を乗り出す。

 そして愛銃の狙いを定め、発砲───


「・・・な!?」

 ───しかし、シェリーが放った銃弾は、アクセルババアに命中することはなかった。

 発砲するほんの直前、アクセルババア動きが変わったのである。

 直進から、左右にジグザグとする動きに。

 後方からの射撃を躱す為の動きである。

 先程のように、前方車輌へと一気に距離を詰めることは出来ないが、あの動きであれば、攻撃を受けることはなく、じわじわと距離を縮めることが出来る。

 やはりあの老婆には、多少なりとも知能がある───シェリーと衛は、そう思った。


「くっ───!」

 シェリーは尚も射撃を行う。

 何とかアクセルババアの足を止めねばならない───そう思い、ひたすら連射するが、銃声と同時にアクセルババアは横へと移動してしまい、弾丸は一発も命中していなかった。

 そして遂に───銃のスライドストップが働いた。

 弾切れである。

「マリー、弾を!」

「う、うん!」

 シェリーは短く叫び、愛銃を後部座席のマリーへと放る。

 それを受け取ると、マリーは予備の弾倉を装填しようとする。

 前以てシェリーから方法を教わり、練習していた為、間違えることはなかった。


 しかし───

『グオオオオオオオオオオオオッ!!』

 その間にも老婆は咆哮を上げながら、前方車輌へと迫っていた。

 左右へと大きく揺れながら、一〇〇キロを越える速度で疾走するその姿は、正に怪奇の一言。

 一般人が目の当たりにすれば、間違いなく恐怖と戦慄によって失禁するであろう。


『サどるヴぉガエぜぇエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!』

 意味不明な言葉を叫び散らしながら、アクセルババアは車輌を覗き込もうとする。

 老婆が光線を放つまで、もう時間がない。

「舞依!!念力で奴の動きを止められねえか!?」

「よっしゃ、やってみようかの・・・!」

衛の案に、舞依は一も二もなく頷いた。

 そして、妖気を練り、老婆に向けて手をかざし───

「ふんッ・・・!!」

 アクセルババアの動きを阻害するよう、イメージを送り込んだ。

 次の瞬間───

『───!?グ・・・ッガ・・・ァガ・・・!?』

 アクセルババアが、走りながら身を捩り始める。

 舞依の念力の効力によって、走る速度が鈍っていた。

 しかしやはり、老婆の疾走は止まらない。

 その足は依然として止まることなく、車両を目指して汽車の車輪の如く動き続けている。


「シェリー!」

 その時既に、マリーは銃弾を装填し終わっていた。

 投げるように、シェリーに銃を渡す。

「Thanks!」

 シェリーは銃を受け取り、短く礼を言う。

 そして再び、アクセルババアの背後に銃を向ける。

「喰らえ───!!」

 そして発砲。


 一発。

 二発。

 三発。

『グゥ───ッガ───ギ───!?』

 四発。

 五発。

 六発。

『ギャ───ァグ───ガ、ガァ!?』

 六発の銃声───そして、六つの赤黒い血の花。

 発射した全弾が命中。

アクセルババアは悶え苦しみ、走る速度を大幅に落とす。

 ───が、やはり完全停止には至らない。

 恐るべき執念で、前方車両を目指し続けていた。

「しつこいわね・・・!ならもう一度───」

 シェリーが再び、アクセルババアの背中に狙いを定める。

 そして、人差し指に力を込め───


「───!?」

 その時───シェリーの脳が、思考を止めた。

 完全に、頭の中が真っ白になっていた。

 その光景を、目にしてしまった為───そして、『それ』と目が合ってしまった為であった。


『ガ───ぁっ───!!』

 正面のアクセルババアが、こちらを見ていた。

 走りながら、こちらを見ていた。

 身体は、正面を向いていた。

 だがアクセルババアは、シェリーを見ていた。


 ───何故?

 顔がこちらを向いていたから。

 ───どうして?

 振り返っていたから。

 ───どうやって?


 アクセルババアの首が、一八〇度回転し、こちらを見ていたから。


『グアバアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 絶叫と共に、老婆の両目が、妖しい輝きを発し始める。

 先程の光線の時の比ではない。

 凄まじい輝きであった。

「来る───!」

 衛が再び窓から手を出し、正面に抗体を放出。

 壁を生み出すイメージを駆使し、バリアを形成しようとする。

 が───

(間に合わねえ・・・!)

 アクセルババアの光線は、それよりも速かった。

 執念と憎悪によって、光線の速度が、著しく上昇していたのである。


 衛が、抗体のバリアを張り終える前に───

「う───っああああああああっ!?」

 アクセルババアの光線は、シェリーの両目を捉えていた。

 次の投稿日は未定です。


【追記】

 次は、金曜日の午前10時に投稿する予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ