ハイパーターボアクセルババア 八
「・・・!マズい!!」
シェリーが短く叫び、運転席側の窓を開ける。
低温の風が車内に入り、生暖かかった気温が冷たいものへと変わっていく。
「予定変更よ、アクセルババアを止めるわ!衛、バリアを張る用意を!」
「ああ、分かった!」
衛も助手席側の窓を開け、抗体を練り始める。
体から僅かに、赤い光が立ち上っていた。
その間に、シェリーはダッシュボードに置いてある拳銃を左手に掴んでいた。
運転をしながら、窓の外へと上半身を出す。
そして狙いを定め───発砲。
銃声がハイウェイの風の音と混ざり、消えていく。
シェリーの射撃は、アクセルババアに命中してはいなかった。
先程の銃撃は、ダメージを与えることを狙ったものではない。
アクセルババアの意識を、前方の車から、こちらへと向けさせることを狙ったものであった。
しかし───
『ググゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ!!』
アクセルババアの意識が逸れることはなかった。
前方車輌を目掛けて、尚も爆走し続けている。
銃声など、耳に入っていなかった。
「威嚇射撃も無意味・・・なら、仕方ないわね・・・!」
そう言うと、シェリーはトリガーに触れる指に力を込めた。
威嚇ではなく、直撃を狙う。
そして───発砲。
『グギャ!?」
アクセルババアが呻く。
左肩甲骨に命中していた。
「もう一発───!」
『ゲェッ!?』
続けて発砲───右大腿部に命中。
上半身と下半身の二ヶ所から、赤黒い血を噴き出していた。
しかし───アクセルババアの疾走は止まらない。
弾丸が命中した瞬間、僅かにスピードは緩まったが、すぐに元のスピードに戻り、爆走し続けていた。
「そんな・・・!効いてない!?」
乗り出した身を運転席に戻しながら、シェリーが驚愕する。
シェリーが使用するMark23には、退魔師用の武器商人から入手した特殊強化弾が装填されている。
これには、妖魔や霊にもダメージを与えられるよう、商人によって魔術強化が施されているのである。
これまでに、この強化弾が通用しなかった化け物は存在しなかったのに───シェリーはそう考えていた。
「・・・いや、あれは効いてないんじゃねえな」
その時、衛が小さく呟いた。
その視線は、アクセルババアの肩の辺りに注がれていた。
「・・・?どういうこと」
「婆さんの傷をよく見てみろよ」
衛のその言葉に、シェリーは目を細くしながら、アクセルババアの傷を凝視する。
アクセルババアの肩甲骨と大腿部からは、今も赤黒い血が噴き出ている。
一歩走るごとに、霧吹きをするかの如く、鮮血が迸っている。
しかし───その勢いが、徐々に弱まり始めていた。
「・・・まさか・・・回復しているの・・・?」
気付いたシェリーが、呻くように呟く。
そう───アクセルババアの傷口が、塞がりつつあった。
二ヶ所の穴が、端から中心へと進むように小さくなっている。
そして───その中から、何かが突き出ようとしていた。
弾丸である。
シェリーが打ち込んだ強化弾が、治癒と共にアクセルババアの体内から摘出されようとしているのである。
そして、遂に───弾丸が、アクセルババアの身体から零れ落ちた。
二つの弾丸は、一度道路にバウンド。
そのまま、後方を走る車の天井に当たり、遙か後方へと消えていった。
「何てこと・・・凄まじい回復力ね・・・」
「ああ。退治するのに苦労しそうだな」
シェリーの言葉に、衛は目を鋭くしながら相槌を打つ。
「・・・!見て!前の車!」
その時、マリーが叫んだ。
同時に、アクセルババアの前方を走る車に向かって指差す。
その車は、一度左右に揺れたかと思うと、凄まじい爆音を上げていた。
そして急激に加速し、不安定な動きを見せつつ、爆走し始めたのである。
『ゲギャギャギャギャギャギャ!!』
それに続くように、アクセルババアも両手足を更に大きく動かし始める。
一つ動かすたびに、スピードが急上昇する。
そして、前方の車両を目掛け、突撃を続けた。
「・・・どうやらあの車、アクセルババアやわしらのことに気付いたようじゃのう・・・!」
「ああ。ちょっと遅すぎる気もするけどな」
舞依の言葉に同意しながら、衛は顔を歪める。
アクセルババアは民間人の車を狙い始め、ターゲットとなった車のドライバーはパニック状態。
状況は最悪であった。
一刻も早くアクセルババアを倒さなければ、あのドライバーに被害が及ぶ。
四人はそう思い、これまで以上に気を引き締めた。
「うかうかしてられないわね・・・!皆、しっかり捕まってて!!」
シェリーが叫ぶ。
そして、アクセルを踏む足に更なる力を込めた。
次の投稿日は未定です。
【追記】
次は、金曜日の午前10時に投稿する予定です。




