魔王登場
エレベーターを下りると、すぐに扉が閉まった。
廊下が続いており、突き当たりのところに金色の扉が見える。
「あれが、部屋か」
「そうだよ」
ロベルはそう言うと、歩き出す。
真ん中まできたあたりで一度、足を止める。
右側に扉があった。
「ここは、付き人の部屋。自由に使って良いからね」
「おう。後で見にいくよ」
フィリックは自分がこれから暮らす部屋を見るよりも、7歳の魔王と出会うことのほうが気がかりだった。
「じゃあ、いよいよだね。……起きてるかなぁ?」
ロベルは一瞬躊躇したが、すぐに扉を数回ノックした。
フィリックは、ゴクリと唾を飲み込む。
「……はーい?」
三回ほどノックしたとき、部屋の向こう側からか細い声が聞こえてきた。
「陛下ですか? ロベルです、開けていただけますか?」
「……うん」
鍵の外れる音がした。
ゆっくりと扉が開いていく。
開いた隙間から、黒髪の目がパッチリとした少年が、ひょっこりと顔をだす。
「こいつが……」
いつもの調子でしゃべろうとしたが、フィリックはすぐに口を閉じる。
いくら小さくても、目の前にいる少年は、この世界を牛耳る魔王なのだ。
「……なぁに?」
少年は軽く首を傾げながら尋ねてくる。
フィリックの姿は、目に入って来ていないらしい。
体の小さな少年と話しやすくするため、ロベルは、片膝をついた。
「おはようございます、陛下。お加減はどうですか?」
「うーん、まだ……ちょっと、ぐあいわるい」
「そうですか。今日は、と言いますか……今日も陛下と仲良くしてくれそうな付き人を……」
「あの人は、嫌だ!」
少年は顔を歪ませると、勢いよく扉を閉めてしまう。
「陛下、違うんです! 昨日の付き人とは、違う者を連れてきたんです!」
ロベルが慌てて言うと、数秒無言だったが、再び扉の開く音がした。
「……ほんと?」
「本当ですとも、陛下。……ほら、こっち来て、しゃがんで!」
ロベルは、フィリックの方を見ずに手でおいでおいでをする。
フィリックはあわててロベルの隣に、同じようにして、膝をついた。
「ほら、陛下。 私の息子のフィリックです」
「あ、あぁ……ど、どうも。フィリックです」
フィリックは、ぎこちない笑顔を少年に向けた。
「フィリック、こちらがエドリー・ファベット陛下ですよ」
「よ、よろしくお願いします」
少年、エドリーは黙ったままフィリックを見つめた。
「……いいよ、はいっても」
エドリーが部屋の向こうから勢いよく扉を押した。
大きく開けられていく。
それを見て、ロベルは笑顔を作り、フィリックは小さく息を吐いた。
どうやら気に入ってもらえたようである。
「それじゃあ、ご対面もしたことだし。後は仲良くなるだけですね。フィリック、頑張って」
ロベルは立ち上がりながら言うと、フィリックの肩にポンと手を置く。
「え? ……え、マジで? いきなり一人?」
「そうだよ。二人っきりじゃないと、私が邪魔で、仲良くなれないだろうし」
「ま、まぁそうだけど……」
フィリックもロベルと同じように、立ち上がりながら言った。
「なんとかなるよ! 私は図書室にいるし、なにかあったら、呼んでくれれば良いから」
「あ、あぁ。……うん」
ロベルは来た道を戻って行ってしまった。
フィリックとエドリーだけが、同じ空間にいるだけとなった。