魔王に会いに
フィリックとロベルは、騎士団長室をでて、また一階に戻ってきた。
一階は、大広間になっている。
赤い絨毯が敷かれており、どこまでも続いているように見えた。
通路が5つに分かれている。
ロベルとフィリックは、一番真ん中の通路からでて、またホールに戻ってきたのだ。
紙の書類を抱えながら早足で急ぐ者、これから任務を行うのか重たそうな装備品を身につけている者。
城内は、多くの騎士たちが忙しそうに歩き回っていた。
魔界城内に、もちろん一般庶民は入ることなどできない。
入ることができるのは、魔王とその付き人、騎士たちと、魔王の料理を作ったりするメイドたちだけだ。
魔王に会いたい者は、いくつか手続きを行う必要がある。
フィリックはロベルの後をついていく。
ロベルは5つに分かれているうちの、一番左側へ歩いて行く。
長い廊下を歩きながら、右に左にと曲がっていく。
魔界城内は、迷路のように複雑な造りになっている。
「え!? ど、どこ行くんだ?」
「こっち、こっち」
フィリックは、眉をひそめながら、ただついていくしかなかった。
2人がたどり着いた場所は、行き止まりだった。
「えぇっと……父さん?」
「よく見ててね、ここに手をあてて……」
「……うーん。どうみても、ただの壁じゃ……」
「だから、よく見てなさいってば」
ロベルが壁に右手で触ると、ドアをノックするかのように3回小さく叩く。
すると、縦に3列横に3列の、合計9個のボタンが浮かびあがった。
「おぉっ!? な、なんだこれ?」
フィリックは、浮き上がったボタンを、まじまじと見つめた。
「魔王のいる部屋は特別だからね。順番にボタンを押していくんだよ。はい、順番覚えて」
「お、おう……」
「当たり前だけど、この順番は、誰にも教えちゃいけないよ? ちなみに、月に一回ぐらいで変えたりすることもあるからね」
「あぁ、わかった」
ロベルがボタンを押し終えると、なんの変哲もなかった壁に穴が開いた。
ちょうど、2人がギリギリ入っていけるぐらいの穴だ。
「はい、中に入って」
ロベルはそういうと、先に穴の向こう側へと足を踏み入れる。
それに、フィリックも続く。
2人が向こう側へ消えた瞬間、穴はあっという間に塞がってしまった。
トンネルのようにどこまでも続いているのかとフィリックは考えていたが、そこは小さな部屋のようだった。
「これに乗って、最上階まで行くんだ」
2人が入っていった穴は、魔王の部屋がある階まで案内してくれるエレベーターの入り口だった。
ロベルがしゃべり終わるとほぼ同時に、体が上へ上がって行く感覚を感じる。
「陛下、あまり体の調子がよくないみたいなんだよね」
「そうなのか?」
「うん。色々あって疲れちゃったみたい。熱が下がったり上がったりしてるんだ」
「そうか……でも、そうだよな。親が死んじまったんだ、体悪くしてもおかしくないよな」
「フィリックが付き人になったことで、治ると良いんだけどねぇ」
「それはわからねぇな。……まずは、気に入ってもらえるようにしないと」
エレベーターが停まった。
正面の扉が、横にスライドしながら開く。
「いよいよ、だな」
フィリックはそう呟くと、背筋を伸ばした。