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王様の付き人  作者: 水無月綾
第一章 少年、付き人になる
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本題へ

「あぁ、なるほど。お前がロベルの息子か」

ハービスは、自分がいつも座っているお気に入りの椅子に座りながら言った。偉そうに足を組んで座っているが、先ほどのセクハラ行為を見た後だと、威厳はほとんとない。

もうセクハラができないように、彼の首元には、ナイフの刃先が当てられている。

そのナイフを持っているのは、アイリスで、ナイフを突きつけながら、ハービスを睨みつけている。

ハービスは酔いも覚めてきたらしく、アイリスをからかうのをやめた。

「そうか、そう言われると、若いときのロベルに、目元なんかよく似ているなぁ。で、付き人になるんだって? はははは、大変だなぁ。推薦しておいてなんだが。面倒だぞ」

「やっぱり大変なんですね」

「おう。四六時中誰かしらが、魔王の命を狙っているからな。それに、今度即位する魔王様は……あぁっと、確か7歳だったか? だから、尚更だ」

ハービスの発言に、フィリックは思わず食いついた。

次の世代の魔王が7歳だというのは、初めて聞くことだ。

「な、7歳!? そ、そんな子どもが……」

「詳しく言うと、7歳の2年目だね。名前はエドリー・ファベット陛下だよ」

悪魔は、基本的に長生きだ。

4年にひとつ年をとる。

「父さん、知ってたのか。なんでまた言わないんだよ」

「次の代の魔王をほいほい大声で 、教えられるわけないでしょ? お披露目するのは、もう少し後だから一般の方々だって知らないよ。それにさ、フィリック、子ども苦手でしょ? 子ども相手だと、付き人やりたがらないんじゃないかと思って」

ロベルにそう言われ、フィリックは実家の近所に住んでいる子どもたちのことを、ふと頭に浮かべる。

近所の子どもたちは、フィリックのことを完全に下に見ており、よくからかわれているのだった。

悪意のない、子どもたちの純粋な言葉が、何度もフィリックの逆鱗に触れてきた。

逆鱗に触れたあとどうなったのかは、その子どもたち以外、誰も知らない。

「あぁ、まぁ……あまり得意ではないな。子どもと接するのは」

「まぁ、子どもとは言っても7歳だ。オレから見れば、お前だって子どもみたいなもんだしな」

「ハービス団長も、十分子どもみたいだと思いますよ」

「アイちゃん……相当怒ってる?」

「私に話しかけてこないでください」

アイリスの口から、氷のような冷たい言葉がハービスに向けて放たれた。

そしてそっぽを向かれてしまう。

アイリスの機嫌を治すのには、相当な時間がかかりそうだ。

「とにかく、可哀想な子なんだ。あんなに小さいのに、お父さんとお母さんがもういないのだから」

「……え?」

「陛下を産んですぐ、母親は亡くなったんだ。それだけではなく……今回父親まで死んでしまうとは、思わなかった」

「と、父さんはその子を見たことあるのか? ハービス団長も」

フィリックの問いに、2人は頷いた。

「そんなに悪い子じゃないよ。ただ今は……凄く寂しい思いをしているだろうから。……となると、付き人になる人は、できる限り若い子のほうが良いのかなと思ってさ。フィリックは、騎士団に入って3年目……正確に言うと、12年てことになるのかな? いや、今は18歳の3年目だから……あぁ、もうめんどくさい! とにかくフィリック、お前は若い」

「そうそう。頭の固いオッサンが側にいるより良い」

「でもよ……。俺と同期のやつなんて、たくさんいるだろ?」

フィリックはまだ胸を張って、付き人になるとは、とてもではないが言えなかった。

魔王は想像していたよりも幼い。

父親と母親を小さなうちから亡くし、その心はどうなっているのか。

自分は男で、女性にあるような母性愛を持っているとも思えない。

一度グルグル考えだしてしまうと、そこにば かり集中してしまう。


考え込んだまま黙ってしまったフィリックを見て、ロベルは話しかける。

「フィリック……無理をする必要はないぞ?」

「父さん?」

「私の勝手な考えで決めてしまってすまなかったね。付き人と言う役職は厳しいから。今回は特に、魔王様が小さいから……よく考えてみると私さ、物凄く大変なことを押しつけちゃったんじゃないかって、今後悔してる。……フィリックがもし、やっぱり難しいと言うのなら、辞退してくれても構わないよ? もう一人、付き人になるのが良いんじゃないかなって候補の子もいるし」

「うーん……」


「一つ、提案があります」

アイリスの一言に、三人はそちらを向く。

「フィリック君には3日間、お試し期間と言うことで、陛下の付き人を体験してもらうんです。そこで自分が付き人としてやっていけるのかどうか、判断してもらうと言うのはどうでしょう? それまでは、付き人としての手続きも保留ということで」

「……なるほど、お試し期間か」

アイリスの提案に、ハービスがふむふむと頷く。

「でも今まで、お試し期間なんてやったことないよ?」

「今回だけは仕方ないと思いますよ」

「そうだな。魔王さんがフィリックに懐かないって場合もあるし。魔王にとっても、付き人にとってもお試し期間ってことでさ」

「と、とりあえず、その方向でお願いします」

フィリックは頭を下げる。

「じゃあ、決まりだな」

ハービスがニヤッと笑いながら言う。

「そうと決まればフィリック、陛下のところへ行こうか?」

「あぁ。案内頼むよ、父さん」

親子は、幼い魔王がいる部屋に向かって歩き出した。




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