突然の報告による混乱
「は、なに? 付き人?」
「そう、付き人。魔王様の側についてお世話をする人だよ。学校で習っただろ?」
騎士団に入るためには、4年間学校で学ぶ必要がある。
4年の間に、武器の使い方や、自分が向いている部隊を見つけたり、訓練をしたりする。
「そりゃ、習ったけどさ……。急過ぎてなにがなんだか……」
フィリックは、まだ混乱していた。
「まぁな、今朝決まったことだし」
「今朝!? 誰と決めたんだよ?」
「ん? 私とお偉いさんたち数人」
「……なんでその中に、俺が入っていないんだ!? 普通、その……選ばれたやつも一緒に加わって話をするんじゃ……」
「まあ、そこは私の息子だしね。推薦しておいた」
ロベルは現在司書として魔界城で働いているが、その昔はフィリックと同じように騎士団の一員だった。
足を怪我してしまったため、今は騎士として活躍してはいない。
ただ、過去の実績のおかげで、こうした重大な会議のときなどは、参加できる。
「推薦って……。俺に聞かないでなんで勝手に決めるんだろうなぁ、父さんは」
フィリックは、軽く頭をかかえた。
「ちなみに、お前に早く知らせなかったのは、怒ると思ったからだ」
「当たり前だろ、そんな重要な仕事、勝手に決めやがって! 」
「だって、フィリック怒ると怖いんだもん」
「男のくせに、「もん」とか言うな! ……はぁ、でも。決まっちまったもんは、仕方ねぇか……」
「お、意外にやる気なのか?」
「……親じゃなかったら、ぶん殴っているところだぞ」
「怖い怖い。でも、話がわかる息子で、父さん助かった」
「でもよ、言っておくが、ちゃんと出来るかわからねぇぞ? 大変なんだろ?」
「うん、大変だよ」
「はぁ……」
フィリックは溜め息をつくと、手首にはめていた輪ゴムをくわえて、髪を一つにまとめだした。
「じゃあ、朝ご飯食べて行ってらっしゃい、フィリック。あ、どうせだから、パパも朝ご飯食べて行ったら良いんじゃないかしら?」
アンナの言葉に、ロベルは改めてテーブルの上に乗っている毒々しい色をした料理を見つめた。
「そ、そうだな」
ロベルは苦笑いしながら椅子に腰掛けた。
朝食を終えたフィリックとロベルは、家をでた。
左足を怪我しているロベルは、少し引きずるような歩き方をしている。
フィリックは腰に、お気に入りの愛刀を差している。
「ママ、また一人にさせてしまうな……」
「うん。でも、俺も強くなりたいしさ。心配ではあるけど」
「……無理はするなよ」
「おう。わかってる」
フィリックとロベルは、掌をギュッと握ると、拳同士を軽くぶつけあった。
自然と笑いあった。
見慣れた家が、小さくなっていく。
デルケントの城下街を抜けて、中心街を目指す。