突然の報告
「たっだいまぁ!」
家の扉が勢いよく開かれた。
フィリックと母は、そちらの方を向く。
「と、父さん!?」
「パパ!」
「フィリック、アンナ。ただいま」
フィリックの父は、ニコニコと微笑みながら家の中へ入ってきた。
「父さん、どうした……」
「パパ、もう! 心配したんだからぁっ!」
フィリックの母、アンナは素早く立ち上がると父、ロベルに抱きついた。
「パパったら全然帰って来ないんだもの。どうしたのかと思っちゃったわ」
「そうだよ、父さん。母さんに連絡もしな……」
「あぁ、悪かったよ、ママ。今度からはちゃんと連絡入れるから」
「本当? 本当なの? ちゃんと約束してよ?」
「おい、あんたら俺の話……」
フィリックを完全に無視して、両親は二人だけの世界に入ってしまった。
「約束するとも。ほら小指だして」
「だから、話を聞けって……」
「え……指? こ、こう?」
「そうそう。指きりげんまん嘘ついたら……」
「針千本のーます、指切った! って、やぁだパパったら。子どもじゃないんだから」
「良いんだよ、若返った気になるだろ? あ、ママは若いし美人だけどね」
「あぁ、そうか。そうやって無視する気なんだな、お前ら。いい加減にしておけよ?」
「美人だなんて……。パパも、パパもカッコ良いわよ」
「 本当かい、ママ!?」
「きゃあ、やだ恥ずかしい」
「恥ずかしがってるママもかわい……」
「いい加減にしろって、言ってんだろうがよぉっ!! ……ったく、お前らは」
両親に向かってフォークを投げつけたフィリックは、ドカッと椅子に腰かけ直す。
フィリックが投げたフォークは、壁に突き刺さっている。
「やれやれ、怖いねぇ最近の子は」
ロベルはそう言いながら、壁に突き刺さっているフォークを抜いている。
「パパ、これが反抗期ってやつなのかもしれないわ。……そっか、フィリックも大人に近づいているってことなのね」
「そうか、そうだよなぁ。フィリックだってそういう時期……」
「おい、また俺を無視し続けるって言うんなら、次はこれ、投げるぞ?」
フィリックの右手には、ナイフが握られていた。
いつ投げられてもおかしくはない。
さすがにもうふざけられないと思ったロベルとアンナは、真剣な表情を作る。
「パパが帰ってくるなんて、三か月ぶりよ? 一体どうしたの?」
「あぁそうそう、フィリック。話があってな」
「おう、だからなにがあったのかって聞いているのに、無視するから俺は!」
「わかった、わかった。すぐに怒るんだから、フィリックは。そんなんだから彼女もできな……」
「親父っ!」
フィリックは、握り拳をテーブルに叩きつけた。
カップに入っている塩辛いコーヒーが、波打つ。
「おお、怖い。父さん呼びじゃなくて、親父呼びになったところを見ると、真面目になったほうが良さそうだな」
「いや、いつでも真面目でいろよ!」
「聞いて、フィリック。お前、今日から付き人になったから」
ロベルの口から飛び出してきた言葉に、フィリックはしばらく反応できなかった。
「な、なんだって?」
三分ほどかけて、やっとこれだけ言うことが出来た。