暴走の後
逃げるように不良のもとを立ち去った巧はそのまま学校近くの公園に来ていた。木々の生い茂る大きな公園で、巧はその中でも一番大きな木の根元にあるベンチに腰掛けた。木の下とはいえこの土砂降りでは雨はしのぎきれなかったが、すでに先ほどのやり取りで体の芯までずぶ濡れになっていた巧は全く気にならなかった。今考えているのは力の暴走のことだけだった。体が未だに熱い。巧はこの熱が暴走の余韻なのか、自分が興奮しているからなのかは分からなかった。ただ間違いなく今の巧は後悔していた。力が暴走したのは何年ぶりだろう。しかもあんなに激しく傷つけでしまった。今までは相手にも軽いやけどをおわせる程度で済んだというのに……。力の暴走で炎が発生したのは初めてだった。あんなにひどい傷を負わせたのも……。また、無意識のうちに人を傷つけてしまった。悔やまずにはいられなかった。
だが、巧の中には別の感情が生まれてきた。
(今回は学校きっての不良だった。制裁を加えただけだ。傷つけて何が悪い?)
理にかなっているようにも感じられたが、巧は静かに首を振った。
(いいや。それは力が暴走したことに対する単なる言い訳に過ぎない)
今回は相手がたまたま不良だっただけで、次暴走した時には巧の大事な人を傷つけることになるかもしれない。
(気をしっかり保たなくては)
巧は自分に言い聞かせると、ベンチから立ち上がった。体の熱は収まっていた。上を見上げると太い幹と枝が見えた。この土砂降りの中でもそれらは決して動じてなかった。自分の心もこんなふうになれたらいいな。そう思いながら巧は家路につくのだった。
家には相変わらず誰もいなかった。濡れてしまった制服を風呂場に干すと、部屋に戻った。机にしまっておいた手紙を取り出す。
『私はあなたの力の正体を知っています』
自分の力の正体とは何なのだろう?母を殺し、友を奪い、今日他人の右手に大やけどをおわせたこの力。正体を知りたいと思う気持ちは今日の一件でより強くなった。だがそれと同時に力に対する恐怖がまた一段と高くなっていた。知りたくない気持ちと知りたいと思う気持ち、両者の意見は平行線をたどっていた。明日実際行くべきなのか行かないべきなのか結論が出ないまま日は暮れ、夜になっていた。