一通の手紙
家に前に着くといつものように明かりは消えていた。巧の父親、茂樹は一日中仕事で毎晩夜遅くにしか帰ってこなかった。母親はいないし兄弟もいないので、いつも家には巧一人しかいなかった。
もし、自分のせいで母親が死ななかったら自分にも弟や妹がいたのだろうか?もしそうならば、この力は自分の弟や妹の命も奪ったということになるだろう。一体この力は何人の命を奪ったのだろう?自分が思っているよりももっと多いかもしれない。
(俺は人殺しだ……)
悲しみや、怒り、憎しみが一気に溢れてくる。その瞬間全身が熱くなるのを感じた。力が暴走する前兆である。慌てて深呼吸をして心を落ち着かせる。この力を憎んだり悲しんだりしたことは数え切れないほどあった。だがその度に力の暴走を抑えるために心を落ち着かせなくてはならない。そしてそれは新たな負の感情を産み出す。しかし、それらの感情が発散されることは決してないのだ。ひたすら溜まっていく負の感情は、まるで心の中に鉛の塊を押し込まれるような感覚だった。普段は押し殺しているその感情だが、一度頭をもたげると胸の奥がねじれるような苦痛に襲われる。心が押し付けられた鉛に悲鳴をあげているのだろうか。もしそうだとしても巧にはその鉛を取り除く術はなかった。
家に入る前に巧はいつものように郵便受けを覗いた。茂樹はいつも郵便受けを覗かないので巧が確認しないと手紙が溜まってしまうということがしょっちゅう起こるのだ。巧の家は新聞をとっていないので、基本的に郵便受けは空だ。だが、この日は違った一通の白い封筒が入っていた。しかも驚いたことにそこには葛城巧様と書いてあったのだ。
自分の部屋で封筒をもう一度確認してみる。間違いなく父ではなく自分に宛てられたものだった。切手や差出人の名前は無し。誰かが直にうちの郵便受けに入れたのだろう。だが誰が?ひょっとすると誰かのいたずらだろうか?そう思いながら封を切って中の手紙を読んでみる。それは手紙と呼ぶにはあまりにも短すぎる文章だったが、その数行の文は巧の背筋を凍りつかせる内容だった。
『あなたは、持って生まれたその力を非常に恐れていますね。
その力がなんなのか、知りたくありませんか?
私はあなたの力の正体を知っています。
真実を知りたいと思うのなら6月9日の放課後、通用門でお待ちしております。』
巧は一瞬にして頭が真っ白になった。