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旅立ち

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●月●日



朝、ランニングのために起きるとそこにはすでに両親の姿がありました。

昨日の体験を二人ともしっかりと憶えていて、私の余命についても信じたようです。

1週間ぐらいは色々準備や日程調整に必要だけど、まずは家族全員で旅行に行こう、ということになりました。

場所は私の好きなところでいいそうです、今日中に決めておいてくれと言われました。


姉と弟は何故急に旅行?と一瞬しかめっ面になりましたが、純粋に旅行は嬉しいらしく上機嫌になり、あそこに行きたい、でもあの場所も捨てられない、などと盛り上がりました。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●月◇日


旅行に出発です、なんと期間は2週間。張り切りすぎじゃないでしょうか。

父は余命の短い娘のために1ヶ月ほど休みをください、と土下座して社長さんに頼んだそうです。

社長さんはこの前病気で娘さんを亡くしたばかりで、父の嘆願を快く了承してくれたそうです。

そのときにポケットマネーで結構なお金を父に下さったとか。いい人です。


母は『労働の割りに賃金が低いし、近くのショッピングセンターの影響で先の無いデパートだから』といって、退職をしたそうです。旅行が終わった後にまた軽く働ける場所を探すといっています。



行き先はまずヨーロッパに飛んで本場のおいしい料理を堪能、そしてお買い物と史跡見学。

イタリアとヴァチカン→フランス→イギリス→ドイツ→オーストリアの順で回ります。

そして残り4日(移動で1日潰れますが)で日本に戻り、東北の隠れ里的な温泉でノンビリとすることになりました。

ヨーロッパ行きは姉の希望をそのまま取り入れました。

なんでも将来ゲームを作りたくてヨーロッパの町並みを直に一度見たかったらしいです。


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■月●日


ヨーロッパから無事帰ってきました。

素敵な所だらけだった。

イタリア料理は本当においしくて、自分でも作ってみたくなりました。

ひとつ残念だったのは、ドイツ料理が案外口に合わなかったっていうこと。

ちょっと酸味の強い料理も多かったし、本場のソーセージより日本のソーセージが私にはあってるっぽいです。


それにしても温泉は落ち着きます、ここは有機野菜を使った料理が売りらしいので楽しみ。

残り少ない日程だけど、最後まで楽しみたいな。


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■月○日


夜中、お父さんが私のこれからの為にといって、色々な資料を持ってきた。

なんでも、この世界から異世界に飛ばされる系の小説を読み漁って必要と思われるものをピックアップしているらしいです。

あくまで空想の話なんだから・・・とは思いますが、素直に勉強しておきます、本当に役に立つかもしれないですし。内容は小麦粉の挽き方、種類などから始まり。料理、ガラスの製造方法、製鉄のノウハウから日本刀の精製方法までさまざまです。それにしてもどこから日本刀の作り方の資料を持ってきたのでしょうか。


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▲月○日


最近身体が重くて運動が満足に出来ない、朝のランニングをしたいなぁ。

登下校の自転車も厳しい。真琴と和美は一緒にバス通学しようといってくれているけど、可能な限り自転車通学を続けたい。


そう思ってたけど、今日は授業中に意識が飛んだらしく気づいたら病院のベッドの上。

暫くは入院になるって言われた。

もしかしたらもう学校に自分の足ではいけないのかもしれない。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

▽月●日


腕を動かすのも辛いです。

昨日の夜、久しぶりにガイさんに呼ばれた。

あと1週間ほどで私はこの世界とお別れしないといけないと告げられた。


ダメもとで聞いてみたところ、写真とかをこの世界から持って行く方法があるという。

私の火葬のときに一緒に燃やしたものは聖霊本の中に刻み込めるかもしれないらしい。

沢山の写真と色々花とか野菜の種を棺に一緒に入れて欲しいとお父さんにおねだりしておいた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

▽月◇日


昨日からいろんな人が私の病室を訪ねてきてくれる。

体力的に辛いけど一生懸命お喋りした。


たぶん今日明日だよね。

みんなありがとう、さようなら。


結局皆に何もできず甘えてばかりで本当にごめんなさい。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――






私は今、寝ている私だった身体の横にいる。

周りには最期を看取ってくれた家族と、真琴と和美とそのご両親。

皆泣いている。私はここに居るよ、お願いだから泣かないで。

みんなの頬に触るけど誰も気づかない、もう"私"を見れる人は周りには居ない。

私本当に死んじゃったんだ。こういう風に見ているとまだ生きているような気になる。

でも声は出せない、そしてみんなに触ってもほほに伝わる涙さえ拭ってあげられない。




それからはあっという間に時間が過ぎ、葬儀が執り行われた。

葬儀が終わるまで家族は徹夜でずっと私の身体のそばに居ようとしてたけど、お坊さんに寝るように諭されていた。

お坊さんグッジョブ、倒れられたら死んでも死にきれません。

それにしても、死んだ後も匂いを感じるとは思いませんでした、直接触れないけどお香や花の香りがします。



そしてついに、私の身体は窯の中へと安置された。

火葬の火と煙にのって上へと押し上げられていく。



《こんにちは、とうとうこの日がきましたね》


いつもとは違う、青空の中にガイさんはいた。


「はい、今までお世話になりました」


《いえいえ、私はたいしたことはしていませんよ。さて、詩織さんの棺に入っていたものは無事本の中に刻まれたようです。その本の力があれば、行った先の世界で同じものを複製することができるでしょう。名残惜しいのですが、あまり時間も残されていません、貴女をお送りします》


ガイさんがそういうと、私の周りを虹色の膜が覆う。

なんだろう、この中に居ると安心する・・・それになんか眠い。


《それではお別れです。》


「ガイさん、本当にありがとうございました。あの・・・最後に、やっぱりなんでここまでしてくださったのか教えてもらえないですか?」


意識が朦朧とする・・・

ガイさんは微笑みながら小さな声でささやくように言う。


《それは、あなたの魂が美しかったからですよ・・・、私のいだい・・・じょうは・・で言うと・・・こい・・・》


「えっ・・・なんて?」


最後のあたりが聞き取れません・・・・

段々ガイさんの姿が小さくなっていく。

少しのゆれの後、私は世界を覆っていた膜の外に飛び出していた。




「さようなら」



私は愛しい世界、ガイアに別れを告げ、眠りについた。

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