親の反応
Pi・・・Pi・・・Pi・・・Pi・・・Pi・・・
ランニングのために5時50分にセットした目覚ましが詩織の部屋で仕事をはじる。
いつもなら起き上がる彼女は、目覚ましを止めるとうつ伏せで再びベッドに倒れこむと枕に顔をうずめる。
昨晩の出来事のあと一睡も出来ず、涙も止まらず。彼女は眼を赤くし、目元に隈を作っていた。
-MAMA side-
母親は違和感を覚えた。
いつものように6時半に起床、新聞を取りに玄関にいくと、晴れの日には無いはずの娘のランニングシューズが残っているのに気づいたのだ。
トイレや風呂に詩織が居ないのを確認すると、彼女は2階にある娘の部屋へと向かった。
「詩織、起きてる?」
軽くノックをしながらドアの外から語りかけるが返事が無い
(返事が無い・・・風邪でも引いたのかしら・・・?)
一度リビングに戻り、体温計をもって再び詩織の部屋の前にいくとまた軽くノックをしつつ優しく話しかける
「詩織、大丈夫?ちょっと入るわね」
扉を開けると掛け布団を頭から被り、ベッドでまだ寝ている娘の姿を発見する。
(ホントに大丈夫かしら?)
返事をしない娘に不安を募らせていると掠れるような声で「・・・・だいじょうぶ」と声がした。
とりあえず意識があるのに安心した彼女は、声をさらにかける
「熱でもあるの?体温計持ってきたからちょっと測りなさい。とりあえずちょっと上半身だけでも起こして」
「ゴメンお母さん・・・測っておくからそこにおいておいて・・・。あと今日お弁当つくれないかも・・・」
「分かったわ、お弁当は私が作っておくわ。熱を測ったら一旦下に降りてきなさい。自分で降りれないとおもったら携帯でもならして」
「うん・・・わかった。ありがと・・・・・」
顔を見せようとしない娘に少し疑問を浮かべたが、頼まれた弁当の準備もある。
母はとりあえず気持ちを切り替え、キッチンに向かった。
(風邪ひいてもお弁当は作る ていつもごねるあの子が今日は無理をしない・・・か、コレは結構重症ね。急だけど有給取れるかしら?)
などと考えつつキッチンにむかった。
詩織の学校と近所の同級生に欠席の連絡をいれ終わると、詩織以外の家族が起きてきた。
「・・・詩織は?」
父親はいつもキッチンに居る娘が今日はいないことに気づき問いかける。
「体調を崩したみたい。お父さん、急だけど今日有給か午前半休とか取れないかしら。私のほうは無理って言われちゃって。あの子病院につれていかないと」
「分かった、連絡を入れてみる」
-PAPA side-
無事有給を取れた父は足早に詩織の部屋へと向かった。
その手にはお粥と水が置かれたトレイをもっていた。
「詩織、食事をもってきたからとりあえず食べなさい。入るよ」
部屋に入ると詩織は未だにベッドの中に居り、布団に包まって顔を見せようとしない。
「起きているかい?」
布団を被っていたが、頭頂部の動きで頷いたのを察した父は、このあと病院に行くと伝えた。
「熱は何度あった?」
「・・・・・まだ測ってないの」
妻が体温計を置いていったのは朝食だったはず、この子にしては行動が遅い。
そういえばまだ下にも降りてきていないし、何より顔を布団から出さないのは気になる。
この子は学校をサボろう、などと考える人間じゃない。
昨晩寝る前に挨拶をしにきたときにはいつも通りの屈託の無い笑顔をしていた。
つまり深夜から朝までの時間に何か起きたのだろう。
・・・まさか彼氏から別れの連絡でもいれられたのか?
「・・・何か悩みがあるのか?」
返事は無い、当たりか。この子はあまり人に頼らず抱え込む癖がある。
手のかからないようで手のかかる、可愛いが困った子だ。
「とりあえず、暖かいうちにお粥を食べなさい。あと、顔ぐらいは見せて欲しいものなんだが」
悩み事をすぐに打ち明けられる性分じゃないしな、暖かいものでも食べれば少しは気も落ち着くだろう。
こういうときに娘にかけていい言葉が思い浮かばない。我ながら情けない気持ちになる。
ゆっくりとした動きで上半身を起こした娘の顔がやっとみえた、ひどいやつれっぷりだ。
なんて言葉をかけてやればこの子の不安を取り除いてやれるだろう・・・。
俯きつつ詩織はゆっくりとお粥を口に運び始めた。
怯える子犬のように見えるその姿に、衝動的に詩織の頭をなでていた。
ビクッ・・・という音がしそうな身体の動きの後、娘は固まったようにこちらを見ている。
思わずとった行動だが、何か言ってやらねば・・・。
「食べながらでいい。詩織、聞いてくれ。もし何か悩み事があるなら、俺でもいい、母さんでもいい。家族に言ってくれ。もしかしたら人には言えないような事をなのかもしれないが、もしそうでないなら誰かにいうだけでも気持ちが軽くなると思う。それに・・・もし人にも言えないようなことでも俺たちは家族なんだ、俺はなんだってお前の言葉を受け止めてやる・・・そういう気持ちでいる。俺も母さんもお前より少しは長く生きている。何かしら役に立つこともいえるかもしれない。だからなんていうか・・・もっと俺たち家族を頼ってくれ。」
言い終わると詩織はまた俯いてしまった・・・うまく伝わらなかっただろうか。
「お父さん・・・ありがと・・・。でも、もう少しだけ・・・考えさせて」
「・・・分かった」
いえることは全部言った。後はこの子がどんなことを言ってくるか・・・だ。
男がらみじゃなければいいが・・・。もしかして一方的に弄ばれて捨てられた、なんてことはないよな?
もしそんなことがあったら、あんなセリフを言った俺だが冷静に居られる自信は無い。
熱はないということだし、病院は大丈夫だろう。
詩織の気持ちが固まるまで今日はゆっくりと時間を潰させてもらおう。
-詩織Side-
お粥を食べつつ先ほどのことを思い出す。
「どんなことでも受け止めてくれる・・・か、私が3ヶ月ぐらいで死ぬかもなんて言ったらどうするのかな」
優しい言葉、そして行動。素直に嬉しいと思う。しかし、もしあの夢のような出来事が本当に夢でなかったら、私は近いうちにそれらを失うことになる。そう思うと涙が自然と溢れてくる。
たかが夢、と思えれば楽なのだろう。
しかし、鮮明に覚えている。腕をつねったときの痛み、風が肌に触れる心地よい感触、そして温度を。
そもそも自分自身が異世界からの訪問者であるという自覚もある。
「でも・・・もしアレが夢で無いなら、先送りにしていてもしょうがないよね・・・」
自分に言い聞かせるように呟く。
今日の夜に父と母に話してみよう。3日後の夜にまたあの夢を見なければそれでいい。
もし見てしまった場合は、悩んでる間に私は貴重な時間を無駄に費やしたことになる。
意を決して1階にいる父の元に行き、夜中に両親に伝えたいことがあると話した。
父は黙って頷いた。
そして、午前0時。姉と弟が寝室に入ってからしばらくったったのを見計らい私は両親に短い言葉できりだした。
「もしかしたら、私はあと3ヶ月ぐらいで死ぬかも」
・・・何言ってんの?この子 ていう顔をされてます、当然ですよね。
私は続けて昨夜の夢のような出来事のことを話します。
話し終わっても両親は信じていないようです。
「その夢の話を信じろというのか?お前がもうすぐ死ぬというのを。」
「私だって信じたくないし、ただの夢だと思いたいよ・・・。でも左手にまだ残ってるけど、痣だって残ってるし。風や温度を感じたの。それに私が異世界から転生してきたっていうのもあるし。もし3日後、あ、もう日付変わってるから2日後に同じところに呼ばれたらし「詩織!!」ぬん・・・はい。」
父に言葉をさえぎられました。
「それは悪い夢だ、それ以上言うな。」
「そうね、悩んでる詩織には悪いけど、私はその話を信じられないし信じようとも思わないわ」
「明日はいつも通りに学校に行きなさい、もし嫌なら2日間ならやすんでもいい。・・・朝、お前の悩みを全部受け止める、俺はそう言った。だけど詩織、お前が死ぬなんてことは受け止められない。もし明後日同じ夢を見たならまたこの話を聞こう。今日はここまでだ。」
そういって両親は寝室へと引っ込んでしまった。
「私だって・・・信じたくないし・・・。でも・・・でも・・・」
私の嘆きはリビングに空しく溶けていった。
翌朝、私は努めていつも通りの朝の行動をとることにした。
とりあえず今はどうしようも出来ない、結論は持ち越しにした。
「ちょっと身体が重い、寝てる時間が少ないし、昨日サボっちゃったからなぁ・・・」
早々にばててきたのでいつものように朝の支度をする。
朝食のとき、姉と弟は体調を心配してきたが、両親は昨日のことがなかったかのように接してくる。
いつもと変わらない・・・でも少しギクシャクとした貴重な時間が過ぎて行った。