夢であって欲しい体験
「ここはどこ?何で裸??・・浮いてる??」
目が覚めるとベッドで寝ていたはずの私がいたのは雲の上でした。
辺りを見回し少し落ち着くと、目の前に広がる景色に息を飲み、思わず呟きます。
「綺麗・・・・・」
空にはオーロラや、いままで見たことが無い数の星が輝き、あたり一面の空間に蛍のような光が飛び回っています。
服を着ていないはずなのに寒くも暑くも無く、心地よい風の感触がします。ヌードは嫌ですがこの風景は動画にして残したいです。
それにしても、風を感じるなんて変な夢です・・・・
《こんばんは、突然お呼びたてして申し訳ありません》
「っ・・・!?」
突然頭の中に声が響くと、目の前に光が集まり虹色の人の形になりました。
すごくビックリした。半透明の同じく裸っぽい人が突然現れたんです。でも不思議と怖いとか不安にはなりません。
「え・・・えっと、こんばんは。はじめまして?」
《ふふふ・・・初めまして、ではないですね。貴女は記憶にないでしょうけど。あ、お気になさらず。あの時は貴女は意識が無い状態でしたので》
とりあえず、何を言っていいのかわからいので挨拶です。・・・なんかちょっとアホの子っぽいですね私、笑われましたよ。
どうしたらいいのか分からず混乱していると光の人から説明がはじまりました。
《では、まずは自己紹介をさせていただきますね、詩織さん。私には特に名前は無いのですが、人間たちに仏とか神とかガイアだとかその他もろもろ色々な呼び方をされているものです。私のことは詩織さんのお好きなようにお呼びください。次に、ここは世界と世界の狭間。就寝中の貴女の魂を私がここにお招きいたしました》
仏!?神!?ぶっ飛びすぎじゃないでしょうか、今日の夢は。とりあえずガイアという分かりやすい名前があったので使わせてもらいましょう。
「えっと、じゃあガイさんって呼ばせてもらいます。ガイさん、なんで私をここへ?」
変な夢だと思いつつ、とりあえず話に乗ってみることにしました。
ためしに全力で、血が出るほどの力で左腕をつねくると激痛が走ります。
アレ・・・・?夢じゃない?
痛いのに目が醒めない・・・なにこれ・・・
《貴女とお話をするためにです。そして内容はこれからの貴女の未来についてです。あと、夢ではありませんのであまりご自分を傷つけるのはおやめください。魂状態でもそのダメージは身体に直結いたします》
「私の未来?どういうことです?」
混乱してる私に、ガイさんは少し悩んだ後に思いもよらぬ、そして最悪な情報を教えてくれました。
さっきまでの優しい感じから急に真面目な雰囲気になり、まっすぐこちらを見てきます。
《・・・・あまり先延ばししても意味がありませんので単刀直入に言います。ここにお呼びしたのは貴女の身体、『相川 詩織』がこの世界での死に近づいているのを教えるためです。そして、なぜそうなるのかを説明いたします》
・・・・・え?
私が死ぬ?冗談ですよね。
悪い冗談にもほどがあります。こんなところに呼んでおいて。
仏やら神って人が一個人にドッキリを仕掛けてどうするんでしょう。
どっきりや夢じゃないとすると、今の幸せな生活を捨てろというのでしょうか、それだけは絶対に嫌。
やっぱりコレは夢です、嫌な夢は早いところ醒めてもらいたいです。
混乱で不機嫌な気持ちが体中からもれていたのか、光の人はさらに言葉をさらに続けました。
《信じられない、ふざけている・・・と思われるでしょう。ですが、納得できないでしょうが、してください・・・としか私は言えません。私や他の神や仏といった存在でもあなたの肉体の死を止めることはできません。少し長いですが説明をいたします。落ち着いて聞いてください。》
は?納得なんてできるわけないじゃない!
叫ぼうとした私を少し強めの風が包み込みます。
私が少し風で頭を冷やしたのを確認した後、ガイさんは私がこの世界にやってきた理由を説明してくれました。
彼(彼女?)がぼろぼろの状態で世界の海を漂っていた私の魂をみつけ、この世界に引き寄せて救助したこと。
そしてマナの量の少ない人間のいる世界に生を与え、高濃度のマナで傷ついた魂の治癒を行ってくれていたこと。
ある程度魂の治療を終えたのが私が中学1年のときだったこと。そして、今日までこの世界と私の魂の相性を判断す
るためにずっと見守っていてくれたことを話してくれました。
世界の海は『マナ』や『魔力』と呼ばれる力でできていて、あのまま放置していたら消え去ってしまっていたらしい。
マナはあり過ぎると塩が水に溶けるように魂分解されていって最終的になくなってしまう。かといってマナ無い状態でも魂は存在できない。
この世界は少し厚い膜のようなもので包まれて世界の海の中に存在していて、その膜を少しずつマナが浸透してくる。世界を保護している膜のようなものが厚いため、この世界のマナはあまり多くないという。
そして、ガイさんたちがいる世界の内側に、今私の住んでいる人間のいる世界はある(シャボン玉の中にもうひとつシャボン玉が入ってるような形)ため、さらにマナの入りは悪い。
死が近づいているという理由は、私の魂は異世界で生まれたもので、この世界に入ってくるマナの量との釣り合いが取れていないため、このままでは周囲に悪影響が生まれる。そして、魂自体が人間の身体では耐えられないほど強いために肉体がそろそろ限界を迎えるとのことだった。
私の周りにだけマナを供給量を増やすことは不可能ではないが、私の魂はマナの必要量が多いために遠くない未来にそれも限界を迎えてしまうという。
《とりあえずはこんなところでしょうか、何か質問はありますか?》
私が異世界から来た、ということは納得できます。聖霊本のこともありますし。
そうなると私がもうすぐ死ぬというのも嘘ではないのでしょう。消えかけていた私を助けてくれた人(?)がここで嘘を言ってもしかたないでしょうし。でも私はこの世界に居たい。死なないのならばどんな痛みを与えられてもこの世界に留めて欲しい。
「まずは、助けていただいたことに感謝を。本当にありがとうございました。お蔭様で幸せな生活をすることができました。あの・・・それで・・・この世界に合うように魂に手を入れる なんてことはできないのですか?」
《いえいえ、そういっていただけると私も嬉しいです。さて・・・その質問の答えなのですが、残念でしょうけどそれはできません。今の貴女の意識を残しつつ魂を変質させるというのは不可能です。もし意識を残さないでもいいと思われても、変に弄ったのなら魂そのものの消滅もありえます。あなたの魂は幾度もの転生を繰り返し複雑になっていますので、こちらも不可能でしょう》
「魂の治癒とはどういったことをされたのでしょうか?」
《魂の治癒は適量のマナを与えつつ自浄作用で回復を促すことです。私が行ったのはあなたの周りだけ供給するマナの量を調節していただけです》
無理のようなきがしてきました・・・、嫌だな・・・家族を悲しませることになるみたい。
「では、別の質問です。私は・・・いつ死ぬんですか?」
まだ死というのを認めたくない気持ちは大きいです、でも目の前の人は嘘を言ってるように見えません。
だから、もう迫り来る死の回避が無理なのなら・・・あとどれだけ生きていられるかだけは聞いておきたいです。少しでも時間があるならその間に家族や友達に今まで一緒に居てくれたお礼をしたいですから。
《自力で満足に動けるのはあと2ヶ月弱、その後はベッド中心での生活になると思います。この期間が1~2ヶ月でしょう。これが私の用意できる最長の時間です》
半年も無いのですか・・・短いです。
ショックすぎて何も考えられません・・・
《気持ちの整理がいるでしょう、今日はここまでとしましょう。また何か質問したいことができるかもしれないので、あまり時間も無いことですし・・・そうですね・・・3日後、また3日後にここに貴女をお招きします。ご両親にこのことを伝えるか、この後どうしたいか など考えておいてください。私に出来ることならば協力を惜しまないとお約束いたします》
沈黙を続ける私が、今すぐ考えを出せないと察したガイさんが提案してくれました。
そして、ガイさんが霧散して行くと視界が真っ暗になった。
再び目を開けると私はパジャマを着た状態でベッドの中にいました。
時計を見るとまだ午前1時、変な夢だった。いえ、夢だった思いたい。
ふと左腕の痛みに気づき、パジャマの袖をまくると、夢の中で力いっぱいつねった場所に血がにじんでいます。
夢じゃなかった・・・・?
私はあふれ出る不安と恐怖、そして涙を抑えることができず、枕に顔をつけて声をもらさずに泣き続けた。