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夢の中で、言ってみませんか 1

どーも初めまして。

前作等からご覧になっている方は、今後もどうかよろしくお願いします。

メタ発言は、お好きでしょうか。


僕は最近、夢を見た。

最近というものの、夢を見る機会はめっきり減っていた。

だから夢を見るという事自体、とても珍しかった。

そのせいか、僕はその夢の内容をしっかりと覚えていた。

覚えていたのだけれど。

それを本人に告げていいものか、とても悩んでいます。

その夢にでてきたのは、睦月院一子さんだった。

彼女はぱりっとしたスーツを着こなして、ハイヒールも履いていた。その姿はとてもさまになっていて、社会人と言われても何ら違和感がない。

そんな彼女が、1つの小箱を持って、僕に近づいてきた。

一応僕の姿も見てみたけれど、なぜかいつもの制服だった。意味がわからない。

かずねさんは僕の前まで来ると、いきなり僕の左手を握ってきた。

すると、僕の手にその小箱をちょこんとのせた。

表情をうかがってみると、照れているように笑っていた。

「あけてくれ」

そう言われて、僕はゆっくりとその小箱を開けてみた。

その中には、とても簡素な、銀のリングが入っていた。何か宝石がついているわけでなく、ただただ丸い、銀色の指輪が。

それに僕が困惑していると、かずねさんが口を開いた。

「きみと私はパートナーとして、随分長い間時間を共にしてきた。けれど、それは仕事での話に過ぎない。だからきみさえ良ければ、それを受け取って、私のところへ来て欲しい」

まさに、衝撃の告白だった。


『私のところへ来て欲しい』


睦月院一子は、とても頭を悩ませていた。

それは成績が落ちたわけでもなく、体育で何かドジをやらかしたわけでもなく。

そもそも、今挙げた二つが該当するような人物でもなく。

それなのに彼女は、もう放課後だというのに、自らの席に座ったまま、頭を抱えてうなり声を上げていた。

彼女のクラスメート達にしてみれば、これは初めてのものだった。

彼女のイメージは、完璧と言うほかなかった。成績は常にトップ。運動でも、右に出るものはそうそういなかった。統率力もあり、人望もある。ついでに言えば、資産もある。

こんな彼女が、頭を抱えて何やらふさぎ込んでいる。

それだけで、彼女のクラスは騒然ものだった。

とは言っても、放課後ということもありごく少数が遠巻きにそれを見ている程度だが。

誰か声をかけよう、という空気が出始めているものの、彼女の力になれる考える者もまたそうはいなかった。

しかしそれでも、いないわけではない。

そこを通りがかった者が1人、彼女の姿を目ざとく見つけて、足を止めた。

その足で彼女の前の席に陣取ると、明るい声でこう言った。

「どうしたのーいっこ。何か悩み事ー? ぼくでよければ相談にのるよー」

クラスメートの1人、六目門夢摘。

彼女の友人の1人であり、よく一緒にいる1人でもある。

無邪気な声でそう聞かれると、彼女は何を返したものかと悩んだ。

声をかけられただけでマシとも思えたが、いざ聞かれるとまた返答に困る内容でもあった。

それでも、まだ六目門であるだけいいと考えたのか、睦月院はゆっくりと顔を上げる。

彼女はゆっくりと口を開けるが、ためらったように口を閉じ、また開いては口をつぐみ。

それを何度か繰り返して六目門を困らせたあと、ようやく意を決して声を絞り出した。

「実は、今日見た夢の話になるんだけれど……」


彼女、睦月院一子が見た夢は、先の八葉六十四が見た夢と相違なかった。

夢というものは、本来的にその人の深層的欲求が顕在化したものであり、つまりその夢を見たということは、自分自身がそれを望んでいる、ということに繋がる。

それを改めて考えてみると、自分は八葉六十四をそういう相手として今まで認識していたのか、という結論に至ったのである。

そのことをあまり自覚していなかった彼女は、青春らしく自らの感情に対して葛藤を抱いていた、というのが事の真相だった。

その全てをとくとくと聞かされた六目門夢摘はというと、非常に返答に困らされていた。

確かにそういう相手と見なしてはいないものの、多少は親しく付き合っている男性の1人である。そう言われては意識せざるをえない。

そんな状況下で、友人に何を言ったものか。

睦月院一子の告白は、新たな悩みの種を植え付ける結果となった。

「うーん……そういうのは、思い切って本人に言ったほうがいーんじゃないかなー、なんてー」

六目門は、ごまかすようにそう言って、おもむろに席を立った。

「それじゃあ、ちょっとひとっ走りしてくるねー。また明日ー」

早口でそう告げると、すぐに教室から飛び出していった。

睦月院一子は1人、ぽつねんとその場に座りつくしていた。


六目門夢摘にアドバイスらしきものをもらってから、睦月院一子はというと。

「やっぱり、正直に白状したほうが、気も楽になるかしらね……」

すっかり諦観を決め込んで、八葉六十四の元へ向かっていた。

睦月院は、よく六目門に相談を持ちかけていた。

その相談内容は大抵、青春関連のものばかりであったが。

六目門に相談してからこなした案件は、その多くが成功に導かれていた。良い結果、というほうが正しいか。

そのため、睦月院自身は六目門夢摘に非常に重い信頼を寄せていた。六目門はそのことに全く気付いていないが。

そのため、今回もその言に従い、八葉六十四のいるだろう、例の喫茶店に向かっていた。

上の空というのは良くも悪くも、時間が経つのを早く感じさせる。何も考えていないが故に、時間が経つという概念を忘れさせる。そのため、それを思い出したとき、時間が早く流れたと感じるのだ。

それは完璧超人である彼女にも適用される。

話そうか話すまいか。

それだけを考えていた彼女は、学校をいつ出たかもわからないまま、喫茶店の前にいた。

気付けば、いつもの香りにいつもの音楽。彼女にしてみれば、教室からここまでワープしたようなものである。

ここまで来てしまった、ということもあり、彼女は目の前の扉を押し開けた。

いつものように、古めかしい鐘が出迎えてくれる。

中を見回すと案の定、マスターと、八葉六十四の姿があった。

八葉はいつもの笑顔で、睦月院に手を振った。

睦月院はそれに手を振り返すと、八葉の近くの席に腰を下ろした。

「こんにちは、かずねさん。今日はどうしたの」

いつもながら、八葉は礼儀正しい。

同じ夢を見ているというものの、外っ面だけ見れば八葉に何ら変化はなかった。

「ああ、実はだな、その……」

睦月院は八葉の顔を見るも、すぐに目を逸らして床の色を見つめてしまった。

その仕草に、八葉はすぐ反応を示した。

「床なんか見てもつまんないですよ。話をするときは、人の目を見るものです。さあ、かずねさん」

八葉はいやになるほどの笑顔で、睦月院の肩にぽんと手を置いた。

無論、彼の嗜虐心を満たすために。

ある一時からというものの、彼は睦月院の困り顔や照れた表情を見るのが楽しみでしょうがなかった。

そのために何度も彼女を困惑させるような言動を繰り返し、その結果に喜んでいた。

そのせいか、会話の主導権を握るのは八葉であることが多かった。睦月院が反論しにくい発言も多かったためもあるが。

しかし、今回ばかりは。

「ええと、じつは、その」

「ええ、なんですか?」

「今日見た夢の話になるのだが……」


「……はあ、なるほど」

その内容をカミングアウトされて、八葉は不思議に思っていた。いくらなんでも、全く同じ夢を見るものなのか、と。

確かに、可能性としては決してゼロではない。かと言って、わずか1%でも確率的には多過ぎもする。お互いに夢の内容がかぶるなんてことは。

睦月院の発言を聞いて、八葉は自分も見たということを言わなかった。

「それで、夢の話はそうですが、実際に睦月院さんは僕のことを、どう思ってくれているんですか」

「え。あ。う。」

無論、こういう展開に持っていきたいがために。

八葉自身、睦月院から多少なり、好意を寄せられているのには気付いていた。睦月院がそれに自覚をしていないということにも。

そのため、このような発言をすれば、睦月院が照れた表情で困り果てているのを見られる、ということを理解していた。

男女の関係ではないので、あまりその好意に応えるというのもかんばしくない。そういう思いも、多少はあるのだが。

「そういう話を、僕はあまり他人から聞かされたことがないもので。そういう夢を見てくれるってことは、少なくとも僕のことを多少はいい友人だと思ってくれていると信じたいのですが、その辺はどうなんでしょう」

「いや、まあその、確かに、きみはいい友人の1人だし、夢に出てきたように、パートナーとしての立場にいてくれるのも、別に、その……」

睦月院は目が泳ぎ、ついでにその動きに顔も追従していた。

それを見て、八葉はとても満たされていた。

そうして、調子に乗った。

「いや、そんなに評価していただけているなんて、とても光栄ですね」

「そ、そうか。じゃあ、そろそろ」

「いいえ、まだですよ。1つだけ重要な部分を聞かせてもらいます」

「重要、って、どこかだ」

「いえ、あったじゃないですか。かずねさんが僕に一生ついてきてくれと言ってくれた場面が」

そこまで言うのを聞き、睦月院はニヤリと表情を崩した。

逆に、八葉はしまったとまでに口を押さえ、明後日の方向を向いた。

睦月院はゆっくりと立ち上がり、八葉のほうへと近づいた。

「おかしいな。私は確かにきみに指輪を渡しはしたが、そんなセリフまでは、言わなかったはずだが」

睦月院の声は段々と喜色を帯びていき、八葉の表情からは色が消え失せていた。

「どうしてきみは、そんなところまで知っているのかな?」

嬉しげな睦月院の声が、これほどまでに恨めしいと思ったことは、八葉にはなかった。

実はというものの、睦月院は恥ずかしさのあまりに、最後に放ったセリフのことだけはばらさなかったのだった。

それは結果として、彼女に反撃の隙を与えることにはなったが。

今回、八葉は調子に乗りすぎたあまり、墓穴を掘ってしまった。

先程まで猛威を振るっていた彼は、今では身を縮めて彼女からの攻撃をただただ聞き流している。

その姿を見て、睦月院は。

「そうだな、当ててみよう」

嬉しげな表情で。楽しそうな声音で。

「きみも、私と同じ夢を見たのでは、ないかな」

「うっ。あ、今のはその、別に」

「別に、なんだろうか」

慌てふためく八葉の姿を見て。

「そうだな、黙ってしまっていてはわからない。ちゃんと私の目を見て、洗いざらい白状してもらおうじゃないか」

こんな彼の姿を見るのは、非常に心を揺さぶられる。もっと見たい。もっと見たい。

期せずして、睦月院の隠れた部分を発掘してしまい、主導権すらも渡してしまったのだった。

この後、八葉はあられもない姿を見せ続けることになったのは、言うまでもなく。

睦月院は、こういう関係も悪くないか、と1人思ったのだった。

また別の形式で書いてみました。

次回はまた登場人物の紹介です。

読んでいただければ、幸いです。

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