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洋楽きっちゃ組 6

どうも初めまして。

1をご覧になってくれた方は、またお会いできて光栄です。

なんて発言は置いておきましょう。

ところで、夢っていいものですよね。

睡眠中でも、人生のでもどちらでも構いませんが、とりあえずは生きていく中で持つ方に焦点を絞りましょうか。

夢は誰しも、必ず一度は持つものです。それは将来の展望だったり、即物的なものだったり、はたまたぐわしができるようになりたいとか、どうでもいいことだったりと様々です。

それは年齢を重ねていくにつれ、雲を掴むようなものが現実的になっていく。進学・就職はペンを掴み、スポーツは勝利を掴む。

そうしていつしか実現した日には、いくらかの達成感と少しの虚脱感を手に入れることになる。

それが幸か不幸かは手に入れてみなければわからない。絵に描いた餅を食べられるのはヤギだけなのだ。ある意味うらやましい。

僕にも夢を持っていた時期があった。若い頃、といっても小学生の頃に何度かだけ。

その夢は叶えられなくてやぶれてしまったから、苦い思い出にカテゴリされて、思い出の中で鍵をかけられて奥底に埋もれている。

思い出そうとしても思い出せない、ブラックボックスと化している。

しんみりするのもいやなので、ここで話を変えて、睡眠中の夢にフォーカスしていこう。

夢について一家言持っていることもないので、少しだけ知っている知識を披露すると、夢というのは潜在的な欲求を満たすために見るものだと言われています。

自分が無意識のうちに求めてやまないもの、そして手に入っていないもの。

欲求は満たされない限り、フラストレーションを溜めるだけの不毛な感情です。

それを少しでも抑えるために、夢というものは機能する。

人間は視覚に頼って生きている生物です。ですので、視覚的イメージによって短時間でもその欲求を満たすことができれば、フラストレーションはかなり抑えられます。

それを担っているのが夢、だったはずです。

小難しいことは置いておくと、寝ている間に見る夢は自分の欲求です。

とはいっても、ストレートに出てくるわけではないので、よくわからなかったりすることが多いようです。

夢は、見ているぶんにはいいものです。

それがやぶれたときの喪失感というものは、はかりしれません。

特にスポーツではそれが顕著です。

たゆまぬ鍛錬によって磨き上げられた肉体、そしてそれによって生み出される記録。

この二つはスポーツをする人にとって自らの誇りのようなものです。特に努力の人にとっては。

そうしてそれは自信にも繋がり、ひいては夢に繋がる。

少しずつ記録が伸びることで、自分の成長を知り、そうして次の記録へ思いを馳せる。

他人の記録という壁があらわれるまでは。

記録は伸びても、いつか必ず限界がくる。

そうして限界が見えると、今度は劣等感が見える。

自分はあの記録に届かない、と自らを卑下することしかできなくなる。

そうして行き着く先は夢を放棄すること、妥協。

あれには届かないから、せめてこのくらい。勝つことの棄権。渇望の諦め。

僕はそんな人を何人も見てきた。

かなり重たい話になったけれど、これは高校の話なので、夢やぶれた人たちはみんな大学に向けて努力しているところである。

若い頃の失敗は、取り戻せるのだ。

そうして、その人達は揃ってこういう。

いつか、リベンジをしてみせる、あの六目門夢摘に。


六目門 夢摘(ろくめかどむつみ)


というわけで、むつみさんです。こんにちわ。

「どーもご丁寧にこんにちわ。今日はどうしたのー?」

六目門という珍しい名字を冠しているけど、何かに由来があるわけでもなく、ただ単に珍しい名字というだけらしいむつみさん。

父方の家系が陸上関係に秀でているらしく、その血をしっかりと受け継いでいるおかげで、スポーツ関連は敵無しである。

ちなみに母方の家系は代々主婦が多いらしく、そこら辺の血は受け継いでない、と言い張っている。

「ぼくは運動しか取り柄がないからねー。家庭的なことはもうさっぱり。この前なんか縫い物やろうとして手に針刺しちゃってさー。なめたら治ったけど、あのまま無理して続けてたら血染めのマフラーが出来上がってたところだよ」

話し始めたらなかなか止まらないのは、どこか主婦っぽいけれどね。

運動しか取り柄がないと言うとおり、勉強に関してからっきしなのは確か。先生に当てられたときは必ず言いよどみ、英語の発音はたどたどしいところが多い。数学の宿題を手伝っていたときには、頭から湯気を出していた。

それでもテストは上の上なのが不思議である。

この高校は珍しいことに、テスト上位者は廊下に名前が張り出されるのだ。順位つきで。いつ教育委員会からお触れが来るかこっちが冷や冷やするほどの蛮行である。

あれだけ酷評しておきながら、僕はむつみさんに勝ったことが一度もない。

勉強は教える立場なのだけれど、テストでは負けるのがさだめなのだ。

「僕もよくわからないまま終わってるんだよね。選択問題は指運で、空欄は聞いたことあるような言葉を書いて。そしたら、意外と合ってるんだよねー、不思議なことに」

まあその話は僕がみじめになるからさておき。

むつみさんは、お世辞にもスタイルがいい方ではない。

身長147cmと女性にしても少し小柄な方で、胸に関しても、その、あまり

「気にしなくてもいーよ。僕だってもう育つとは思ってないからさー。うんとねー、それでもBはあるんだよ。見てみる?」

さすがに僕にも理性というものがあるし、一応いっぱしの男だからそういう行動言動は控えてね。

まあともかく、あまりスタイルはよくない、一見。

確かに見た目上はよくなくても、そのスペックは非常に高いのである。

確かに胸部は豊かな方ではないが、スポーツをやっているだけに残りのWとHは引き締まっているのだ。

しかもそれでいて女の子の柔らかさというものは残している。二の腕なんかは筋肉がついているはずなのにもちもちすべすべという。

そして一部のフェチにはたまらない、タンクトップとスパッツの組み合わせ。

それから垣間見えるチラリズムや曲線美に見せられ、彼女に見とれる生徒は数多、星の数よりも多いとちらほら。

「そんなことないよー。ぼくいまだにラブレターだってもらったことないし、告白だってー」

髪型はショートカットより少し長めなくらい。どこかおっとりした雰囲気を持っているけど、少年的な顔つきのせいで男に見られることもしばしば。

幼さの残る声のトーンや間延びした口調で、高校生に見られないことは日常茶飯事らしい。

「映画館に行くときとか、電車乗るときなんかも半額料金だねー。お得だよお得ー」

スポーツをやっていると前に言ったとおり、運動に関して右に出るものはいない。

だって、この学校に残っている運動部のレコードは、全てむつみさんのものなのだから。

「入学してまずはトラック全部更新してー。それからフィールドでしょー、PKの連続成功、フリースロー、水泳ー、あとわかんないや。部活動の数なんか数え切れないくらいあるんだもん」

むつみさんの言うとおり、記録と名の付くもののレコードホルダーは全て、むつみさんなのだ。

それも入学当初から半年で全てやってのけるというのだから、この人の潜在能力は計り知れない。

一時期は『夢喰いバク』なんてあだ名されたこともあったらしい。

運動部のエースがこぞって戦いを挑んだが、その全てに敗北味あわせたことからついたと聞くけれど、えげつないことするね。

「ぼくのお父さんが、戦いを挑まれたならば完膚無きまでにたたきのめして敗北という土の味を覚えさせるのだ、ってうるさくてねー。まあ、ぼくも負けるの嫌いだからいいんだけどさ」

そんなむつみさんの悩みはというと、汗である。

「う……きみ、なんで知ってるのそのこと」

幼少期からスポーツをやってきたむつみさんではあるが、とある時期、詳しい時期は僕も知らないけれど、むつみさんは男子のグループと話をしていた。

「そ、それってぼくとその男の子達しか知らない話、っていうかその子達すら忘れてて」

たわいのない話だった。昨日のサッカーがどうの、バスケがどうの。

そこで、ある男子がほんの少しの違和感に気付いた。

気のせいかもしれないほどの、些細なほころび。

一人が顔をしかめると、もう一人、もう一人と連鎖的に気付いていく。

気付いている者同士、こそこそとその感じた違和を報告しあい、それぞれ同じものであることが判明する。

そうしてその男子達の視線は、結論づけられた一点に収束する。

そう、むつみさんである。

むつみさんはみんなが黙り、自分だけを見つめている意味にまったく気付かない。

ただ無邪気な笑顔を振りまき、頭にはてなマークを浮かべたまま。

「……ねえ、もう、そろそろ」

次第にむつみさんも男子達の視線が自分を責めるようなものだと気付き、少しずつ動揺し始める。

男子達は何か言いたいながらも言いづらい雰囲気を醸しだし、むつみさんは何が何やらわからずじまい。

周りには重たい空気が停滞し、何もかもができない状態。

その空気に耐えかねて、一人の男子が遂に口を開いた。

「やめ、てよ……」

その一言は確かに一筋の光だった。

その場の空気を一変させるに足りる重みがあった。

しかし、それは言ってはいけない一言だった。

この空気の中では、決して紡いではいけなかった。

皆がとまどいを隠せない中、そのある男子はこう言った。

『お前、ちょっと汗くさくね?』

その一言で、むつみさんはがふっ。

「いわないでったらー!」


「もう、なんできみがそんな昔のこと知ってるのさ。ぼくだって今まで忘れてるくらいだったのに。だいたい、そのこと知ってる男の子達はみんな別のところに行っちゃって、もう連絡がつかないくらいなのに」

前回に引き続き、ぼくの脈絡もない捏造発言によって沸点を超えてメルトダウンしてしまったむつみさんの手によって、正気に戻されたのでした。

「正気に戻ったついでに、そのことは忘れること。いい?」

サー、むつみさん、サー。

「まったくもう、きみだからよかったものの、他の人だったら話し始めてすぐに脳天たたき割ってたところだよ」

中々怒ることのないむつみさんだけど、こうやって少し落ち着いた頃の表情は、妹が拗ねてぷりぷりしているような微笑ましさを彷彿とさせて、非常に可愛らしいのだ。

「そんなとこ褒められても嬉しくないのー。少しは反省してよねー」

そんなジト目で言わなくても。

まあそれはともかく、悩んでるのは確かなんだよね。

「うーん……それはそうだね。昔っから汗っかきでねー。お父さんから代謝がいいって褒められるけど、汗くさいのはちょっと」

普段男の子っぽい発言が多いから、こういう女の子らしい発言が飛び出たときにファンが急増するんだよね。

「そんな変態的なファンはきみだけで十分だよ。それより話戻してよー」

ああそうだったごめん。

単純な話、制汗スプレーとかはもうお試し済みだよね。

「とっくの昔にねー。確かに少しの間は大丈夫なんだけど、効果が切れるの早くてさー。すぐに汗でべとべとー」

だったら、もっと手軽にタオルを常備しておくとか。

「軽ーく言うけど、それがけっこう悲惨なんだよ。使ってるとあっという間にびしょびしょになって、すぐかわりを出さなきゃならなくなってさー、おまけに放っておくとにおいが取れなくなって廃棄処分。そのせいでぼくのお気に入りが何枚も……あのウサギさん柄、好きだったのになー……」

僕が悪かったから、そんなに遠い目をしないで。

うーん、目立って運動しないから言えるのかもしれないけど、そこまで気にすることなの?

「ぼくとしては大問題。女の子達にとっては環境問題なんて6の次くらいまでの生死に関わる問題。においってすごい気になるんだよ。男の子達にはわからないかもしれないけど、香水だってそういうの気にしてるからなんだよ」

そういうものなんだ。僕のまったく関知しない世界だね。

って、今話にでてきた香水はつけたことあるの。何となく話の先は見えてるけど、一応。

「たぶんお察しの通りだと思うよ。少しつけただけで効果はてきめん。男の子達もすっかり気付かなくなって、おまけにいいにおいがする、なーんて褒められちゃったりしてー」

頬に手を当てて照れるなんて仕草が似合うむつみさん、話の続きをどうぞ。

「……そうしてうきうきしながら帰ったら、お父さんに気付かれて、いいにおいだなって褒められたの。それで喜んだ次の瞬間にはげんこつが飛んできてさ、こんな軟弱なものをつけるんじゃなーい、って怒られたの……ぐす」

だいたい、想像通りだったね。ほら泣かない泣かない。誰かに見つかったら僕が泣きを見る羽目になりますので。

「そんなだから、今でも悩みの一つなんだよねー。体質の改善って難しくてさー」

簡単にできたら医学界からスカウトが殺到しますよ。

でも、いいと思いますけどね。むつみさんの汗。

「へぇ?」

このアスリートらしい絞られた肉体美、かつ少女らしさの残った柔らかさに吸い付くような肉感。日が当たれば白く光る艶。一つの芸術作品ですよ。

それを滑るようにして流れる数滴の汗。タオルとスポーツドリンクが似合いますね。

そこにトラックを走り終えた少しの疲労感を加えれば、惹かれない男性はいないほどの魅力になるのです。

「ええと、な、何を熱弁しているのさー」

そうやって押しに弱いことも加味すると、最高ですね。

それでこの汗のにおい……くんくん。

「わぁ! ななな何をしてるのさー!?」

この素晴らしい汗のにおい。まるでフェロモンのように嗅げば嗅ぐほど引き寄せられる要因。これをかいでたたなければ男じゃありません。

「たっ……変なこと言わないのー! って、そこは嗅いじゃダメー!」

この汗でむれたワキのにおい、僕の中の男性ホルモンが血気だってますよ。

失礼ですが、なめてもよろしがふっ。

「いい加減に目を覚ましてー!」


「まったくもう、きみの変態さは天井知らずだね。前々からわかってたことだけどさー」

本当にすいません。もう切腹するしか道はないくらいの狼藉をはたらいたいてしまいました。この罪は首をくくるか責任をと

「まだ暴走してるから少し頭を冷やしてねー。ほらスポドリ」

ありがとう。あとで飲むよ。

話を戻すけど、僕の考えられる対策はこれくらいしかないね。

あとはもう、あまり水分をとらないようにするくらいだけど、あまりすすめられないしね。

「落ち着いてくれて助かったー。きみの変態レベルはようやく6くらいまで下がったかなー。ともかく、考えてくれただけで嬉しいから、あとは自分で何とかするよー」

正直な話、汗フェチの人と付き合っていくのが一番なんだけどね。まあそんな人見たこともないからこれもおすすめできないし。

「きみ、ときどき自分を客観視できないよねー。気持ちだけで十分だから、今日はこれくらいで」

勘弁しといてやらあ。

「明日はなしの方向でお願いします師匠。それじゃあねー」

これから走り込み?

「うん。体力落ちるのいやだしねー。じゃあー」


はい、そういうわけで六目門夢摘さんでした。

颯爽と走り去っていく姿は凛としててかっこいいんだけど、かわいいって言われたい年頃のむつみさんには言わないことに。

実は最後の手段として、運動をしないという選択肢もあったけれど、あの様子だとそれを選ぶことはなさそうだね。

そんな青春まっさかりの、六目門夢摘さんでしたー。




まだまだ続きます、この形式。

飽きられた方はコメントをお寄せください。できるだけ努力します。


※書いている最中、重大な誤植に気付き、即座に訂正。

ある部分が、食い合わせ、となっており、かなり危ない表現になっていました。

気付いてよかった。

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