洋楽きっちゃ組 5
どーも初めまして。
前作から読んでくれた方々は、これからもどうぞごひいきに。
今日も今日とてメタるにいきます。
ところで、恋や愛というものに興味はおありでしょうか。
人にとって密接なものであり、それは身分にも富にも左右されずにいつか出会う。
決して他人が理解できるものではない、自分自身のみが有する絶対のもの。
けれど理解されないがゆえに、容易に表へと出すことができないものでもある。
自ら創造できる数少ないものであるがゆえに、それが否定されると自分の根底が揺らいでしまう。
自分が生み出したものの否定は、自分の否定とつながるものがある。
それがゆえに、人は恋や愛に対して臆病な側面を持つ。
少し重い話題になりがちなので、ここで話題を転換しましょう。
先ほどから恋愛という一括りの表現にしてしまわないのには僕なりの理由があるからなのです。
僕が考えるに、恋と愛はその意義を全く異にするものです。
恋とは他人の外見や行動その他もろもろを見聞することで生まれ、それは自分の中にいくらでも蓄積されていく。その人のことを考えれば考えるほど無意識的にそれはたまっていき、その量は際限を知らない。けれどその容量は人によって違うから、もしあふれてしまえば奇行に走ってしまう。何も難しくない、自分が他人に対して抱く単純なもの。
それに対して愛は他人へと送るものである。形はなんにせよ、好意をもって他人に何かをしたならば、その根底には必ず愛が存在する。それは恋と同じく際限を知らず、その気になれば無制限に愛は放出される。恋と違って内にはたまらない、外へと出でるもの。
だからこそ、恋と愛はいっしょくたにしてはいけない。
確かに恋は愛の原動力になりうるが、必ずしも恋にのみ依存して生まれるものではない。
恋をせずとも愛は生まれ、愛をまかずとも恋はいつかその量を減らす。
けど愛と違って恋は行き着く先がある。
砂糖菓子よりも甘い成就の道と、苦虫をかみつぶしたよりも苦い崩壊の道と。
どちらの道も行きついてしまえば後は衰退の一途をたどり、決して昇っていくことはない。
だからこそ成就してからはそれが衰えないよう努力しなければならず、崩壊してからは別の道を探さなければならない。
存外、恋の生み出すエネルギーは巨大なのだ。
ゆえに、生半可なことではその穴を埋められない。
徐々に衰退していくのも一挙になくなるのも、全くなくなることに変わりはない。
維持と補間。これを欠いてはいけないのだ。
長くなりましたが話は変わって。僕の知り合いに恋愛という言葉が嫌になるほど似合う子が一人いるのです。
その子は見ているだけで心の内に秘められた保護欲を引き出され、思わず見守りたくなるほど。
天真爛漫で可憐。小説や漫画の中からそのまま飛び出してきたと言われても何ら疑わない。
そのあどけなさと純真さにあまたの男性が誘惑され、やんわりと袖にされているらしい。
その中には僕のクラスメートも含まれているっぽいから、これ以上は言わないでおくけれど。
まあともかく、その子は見ているだけで胸焼けしそうなほどに表情も、言動も、何もかもが甘ったるいお姫様なんです。
そんなこと知り合いになれたことは僕にとって少なからず光栄で、単純にうれしい。
けれどそのせいで、ほんの少しだけ困ったことにも、いつもなりかけるのです。
あの少しわがままなお姫様のせいでね。
『五家回 いつも』
というわけで、いつもさんです。こんにちは。
「こんにちはお兄ちゃん。今日は珍しく礼儀正しいのね」
僕はいつも礼儀正しいつもりだけど、まあ確かに今日はちょっと特別かな。
「なんで今日は特別なの? 誰かの誕生日とか、それとも記念日?」
そういうのじゃないんだけどね。まあしいて言うならいつもさんと出会ってからはいつもさんと顔を合わせた日がぜんぶ記念日だよ。
「ぶー、なんかごまかされてる感じ。ちょっと嘘くさ-い」
あはは。言ったことは嘘じゃないから安心してね。これからちょっとだけ変なことするからそこを見逃してくれればいいから。
「えっちなことならここじゃないほうがいーんだけど」
うれしい誘いだけど、その誘いに乗ったら扉の隙間から漏れ出してる殺気が怖いからやめておくよ。
「あの人たちかぁ……まいーや。今日はお兄ちゃんがかまってくれるみたいだから、いつもは大抵のことは許しちゃうのです」
ありがとう。それじゃあちょっと始めるね。んんっ。
いつもさんは先ほどまでのやり取りの通り、校内でもお姫様で妹のような存在です。
僕と同じ年齢ながら睦月院さんとはまた違った意味で、それを感じさせないお人です。
「なあに、誰に向かって私の紹介してるの? お兄ちゃんにしか見えない妖精さん?」
それが見えたら僕はおとぎの国に就職するよ。
長い金髪にいつも大きめのリボンをしていて、ひらひらふりふりのドレスをいつも着ているせいで、どこからどう見てもお姫様ルック。
おじいさんが英国出身の紳士らしくクォーターで、髪の色はその血を継いでいるとのこと。
「グランパはかっこいいのよ。もう80近いけれどパイプとハットとステッキがとても似合うの。たまにイギリスに行ったらよく遊んでもらっててね」
こうして無邪気で楽しそうにするいつもさんを見ていると、確実に高校生には見えないのです。
身長は154cmと小柄で、ありていに言えば童顔の持ち主。
そのせいもあって、今までに最高で中学生に見られるのが限界だったとのこと。
そのせいかクラスの皆さんも妹とか近所の子ぐらいの気持ちで接することが多い。
僕の知り合いでもあるかずねさんやむつみさんも、どこか年下の子と接しているところはある。
「ほんとにみーんないつものこと可愛がってくれるけど、同い年として意識はしてくれないのよねー。だから、いつものこと女の子としてもてなしてくれるのはお兄ちゃんだけなの。だからいつもはお兄ちゃんのことがだーい好きなんだよ」
うーんとね、そう言ってくれるのも、こうして体でスキンシップをとってくれるのも僕はすっごく嬉しいよ。
けれども、この状態があと何秒か続くと本当に殺される寸前までいきそうだから、もうちょっと距離をとってくれるともっと嬉しいな。
「えー…あの人たちのことなんてお兄ちゃんが気にしなくてもいいのよ? なんなら追っ払ってあげる」
好意はありがたいけど、一応あの人たちも善意でやってることだからそこまで無下にはできないよ。
さっきからいつもさんが「あの人たち」と呼んでいるのは、彼女のファンクラブの人たちだったりします。
このご時世にファンクラブもどうかと思うのですが、それもひとえにいつもさんのかわいらしさが原因なのですから何も言えません。
ファンクラブはいつもさん非公認で、基本的にいつもさんの周りのお世話を「勝手に」こなしている方々なので、いつもさんはよく思っていないみたいです。
「あの人たちがいると、お兄ちゃんと2人っきりになってる気がしないんだもん」
こういった嬉しい発言が飛び出すと、胸がときめくのと同時に背後からの怨念で胃がキリキリ痛むという板ばさみに陥ってる状況です。
「お兄ちゃんおなかいたいの? さすってあげる?」
その申し出は嬉しい限りだけど、そろそろ強行突入してきそうな雰囲気が漂ってるから、今回は遠慮しておくよ。
「むー。あの人たちのせいでお兄ちゃんに何もしてあげられない……」
学校以外でも2人っきりになる時間はいくらでもあるんだから、その時にね。
「はーい」
そろそろお迎えの時間だよ、いつもさん。
「あら、もうそんな時間。楽しい時間はすぐ終わっちゃう」
ふてくされてないで、待たせるのも悪いですから。
「はーい。じゃあまた明日ねー、お兄ちゃーん!」
そう言って教室の外へ駆け出してくいつもさんを手を振って見送った後、いつもさんファンクラブの方々が教室の中にぞろぞろと入ってきたので、恒例行事のごとく学校内を逃げ回ったのでした。
そんなこんなで、五家回いつもさんでしたー。
いつもさんはふりふりだったりロリータっぽい服装をよくしているのですが、中には自分で作ったものもあるとか。
裁縫が趣味のようで、シャツのほつれを縫ってもらったこともありました。
その時は放課後にファンクラブの方々と熾烈な追いかけっこが開催されたわけですが。
無邪気なその笑顔とお姫様のような言動は、周りの空気を和ませて、誰からも好かれています。
どちらかといえば愛でられてるのかもしれませんけど。
そんなみんなに愛されてる、五家回いつもさんでしたー。