悪役令嬢に転生したけど前世で弁護士だったので第一皇子を訴えます!
短編小噺シリーズ
レイヴァルト王国の王城では、春の夜会が盛大に開かれていた。
煌びやかな音楽と笑い声が響く中、一人の令嬢だけが冷たい視線を浴びていた。
公爵令嬢――ヴィオレッタ・エーデルシュタイン。
彼女は“悪役令嬢”として王都で悪名を轟かせていた。
そして壇上には、この国の次期国王候補である第一皇子アシュレイ・レオンハルトが立っていた。
彼は隣に寄り添う“聖女”ミレイユの肩を抱き、高らかに宣言する。
「ヴィオレッタ・エーデルシュタイン! お前はミレイユへの度重なる嫌がらせ、そして王家への侮辱行為を行った! よって私は、お前との婚約を破棄する! 」
会場は歓声に包まれた。
貴族たちは皆、この瞬間を待っていたのだ。
だがその瞬間、ヴィオレッタの脳裏に激しい痛みが走る。
(……ここ、どこ?)
蘇ったのは、前世の記憶。
日本で弁護士として働き、企業訴訟を専門にしていた女性の人生だった。
膨大な契約書。厳粛な裁判所。徹夜続きの資料作成。
そして彼女は理解する。
(私……法律の専門家だったの!?)
ヴィオレッタは静かに顔を上げた。
「異議があります、殿下」
その一言で、会場は静まり返った。
「……異議、だと? 」
アシュレイ皇子は眉をひそめる。
ヴィオレッタは一歩前へ出ると、冷静に言葉を続けた。
「まず確認いたします。今の発言は正式な告発でしょうか? 」
「当然だ! 」
「でしたら証拠の提示をお願いいたします」
「証拠なら皆が見ていた! 」
「“皆が見ていた”は証拠能力として極めて曖昧です。具体的日時、行為、被害内容を提示してください」
貴族たちがざわつく。
誰も聞いたことのない言葉だった。
ヴィオレッタはさらに続けた。
「加えて、婚約は公爵家と王家の正式契約です。一方的な破棄には相応の違約責任が発生します」
「……違約責任? 」
「簡単に言えば、慰謝料です」
ざわり、と空気が変わる。
公爵家は国内最大級の財力を持つ名門。
もし正式に争えば、王家の信用問題にまで発展しかねない。
焦り始めたアシュレイは、隣のミレイユへ視線を向けた。
「ミレイユ、お前が証言しろ! 」
しかしミレイユは怯えた表情で口を閉ざした。
ヴィオレッタはその様子を見逃さなかった。
(妙ね……)
まるで“何かを隠している”ようだった。
その時、後方から低い声が響く。
「面白い議論だな」
現れたのは、第二皇子セドリック・レオンハルト。
冷静沈着で“氷の皇子”と呼ばれる男だった。
「兄上。証拠もなく断罪するのは、さすがに軽率では? 」
「セドリック、お前まで! 」
「王家の信用に関わります」
セドリックは静かにヴィオレッタを見つめた。
その瞳には、興味の色が浮かんでいた。
その後、そのまま夜会はお開きとなりヴィオレッタは屋敷へ帰る馬車に乗っていた。
その道中、突然何者かの襲撃を受ける。
馬車を取り囲むようにして黒装束の男たちが刃を向けた。
「悪いな、お嬢様。あんたのことは知らねえが仕事なんでね。殺させてもらう」
だがヴィオレッタは冷静だった。
「随分と胆略的な手段ですのね」
彼女は咄嗟に馬車のランタンを倒し、炎で敵の視界を奪う。
そこへ駆けつけたのはセドリックだった。
刺客たちは逃亡。
セドリックは険しい表情で呟く。
「兄上ではない。だが王城内部の者が動いているな」
調査の結果、驚くべき事実が判明する。
聖女ミレイユは偽物だった。
彼女は貴族派閥に担ぎ上げられた存在であり、本物の聖女ではない。
さらに、ヴィオレッタへの嫌がらせの証拠も全て捏造だった。
アシュレイ皇子は真実を知らぬまま操られていたのだ。
そしてヴィオレッタは決意する。
「……なら、私は正式に訴えます」
「誰を? 」
「第一皇子アシュレイ・レオンハルト殿下。そして偽証と捏造を行った貴族派閥全てを」
王国史上初。
王族を被告人とする裁判が始まった。
大法廷。
貴族も民衆も、全員が固唾を飲んで見守っていた。
ヴィオレッタは証拠を並べ、証人を尋問し、完璧に論理を組み立てていく。
追い詰められた貴族たちは次々に罪を認めた。
そして最後に、第一皇子アシュレイが立ち上がる。
彼は苦しげにヴィオレッタを見つめた。
「……私は、間違っていたのか」
ヴィオレッタは静かに答える。
「間違いは誰にでもあります」
「なら、なぜ私を許さない?」
「許すことと、責任を取ることは別です」
その言葉に、法廷は静まり返った。
判決の結果、アシュレイは皇位継承権をはく奪。
黒幕だった貴族派閥は解体された。
そして数か月後。
ヴィオレッタは王立法務院の特別顧問として迎えられていた。
執務室で書類を読んでいた彼女に、セドリックが笑いかける。
「相変わらず働きすぎだな」
「誰かさんのせいで案件が増えてますので」
「なら新しい職をやろう。――未来の王妃とかどうだ? 」
ヴィオレッタは盛大に顔をしかめた。
「それ、労働環境の悪化では? 」
セドリックは珍しく声を上げて笑った。
こうして、“悪役令嬢”と呼ばれた一人の女性は、法によって王国を変えた伝説の人物となるのだった。
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