64 棧野蕗【2】
「うん。知識として善きふるまいは理解してるけど、本質的には善悪に興味ない。好きなものだけが好きなタイプ。そんで、あなたの場合は人の不幸が好き。話してるときの顔を見たらわかるよ」
「……そんなことないですけど、じゃあ、認めます。私は野蕗ちゃんに協力していました。でもね、いじめられて死んだ野蕗ちゃんのほうが被害者なんですよ。成仏できず、復讐の相手も見失って。かわいそうに。良い行いでは確かにないけれど、私はあの子の復讐を手伝っただけ。敵をこらしめたの。それってそんなに悪いことですか?」
「へぇ、ヨシさんにはそういう感じで押し切ったんだ? 良い人に囲まれて育った坊ちゃん特有の共感能力があるから、やりやすかったでしょ」
「どうしても信じてくれないのね」
「だって、本当はただ面白かっただけでしょ? 怨霊を飛ばした先で人が不幸に死んでいくのが」
「あは」
桔梗さんは顔を歪めて笑った。やっと取りつくろうのを止めたらしい。
「そもそも桔梗さん、そんなに接点がない野蕗ちゃんのことを結構細かく覚えてるのもさ、好きだったからでしょ。クラスでいじめられてる野蕗ちゃんを眺めるの」
返事はない。その貼り付けたような微笑みは肯定だ。
そして、ほぅとため息を吐いた。懐かしむような、惜しむような。しみじみと窓の外を見やる。
「見たかったなぁ……。野蕗ちゃんがトイレで死んじゃうところ。毎日の楽しみがなくなって、ずっとさみしかった。そうしたら、あの子は会いに来てくれた。初めは復讐されるんだと思いました」
「でも違った。助けを求められた」
「ええ、そう。友達を作る手伝いをしてあげたの。私は彼女がお友達を作る様を見られればそれで満足。いい関係でしょう?」
「否定はしないよ。そんなに仲良しになったから、産んであげようと思ったんだ」
桔梗さんはヨシさんの正体を知ったわけだから、私と敵対しても無駄だと理解しているだろう。
「私ね、初経がこなくて子供が産めない身体だって診断されてるの。でも、試しに野蕗ちゃんを受け入れたら、あの子の声は消えて、この子がお腹の中にいた。夫には悪いけど、あの人は関係ないと思うわ」
「それって、人間なわけ?」
すやすやと眠るこの赤子を奪い取って揺すったら、途端に空が暗くなって雷がとどろき、病院の避雷針が折れて帰り道の私に突き刺さったりするのだろうか。
私がお見舞いに来た理由はそこだ。桔梗さんの呪いと怨霊の力の両方を引き継いだスーパーベイビーかどうか見に来たのだ。
「検診は問題ないし、人間よ。……意外だわ、あなたはそこまでわかっていて私を見逃してくれるのね」
「成長を見守りたいくらいだよ。──私が許さないときは、あんたがヨシさんを傷付けたときだけ」
「心得ておくわ。末長くステキな女友達でいましょうね」
赤ちゃんがぱちりと目を開けた。みるみる顔をくしゃくしゃにしてふにゃふにゃ泣き始めた。電灯は割れないし、ベッドが浮いて暴れることもなければ、雷もとどろかない。普通のベビ泣きだ。
「お乳の時間みたい」
「じゃあ私はこれで。困ったことがあったら連絡してね」
「ええ。心里ちゃんもいつでも遊びに来てくださいね」
ふふふ、ヒヒヒ、と笑い合った。




