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58 下哭善太郎にまつわる話【2】

 だって、大好きな両親と血が繋がっていないわけですし、僕だけが人外なわけですから、先のことを思うと好きな人に告白したり子供をこさえることもできないんですよ。


 妖怪である実感もないけれど、人間の実感も失ってしまった。

 何のために人間として生きる意味があるんですか?

 だから首を吊ったんですけど、ぜんぜん死ねなくって笑っちゃいました。

 絶対に失敗しちゃうんですよ。

 いやあ、思い出すとしみじみします。


 首を吊ろうとするとどんな縄でも勝手に切れるし、手首を切るカッターはバカになるし、車道に飛び込んだら反対側から飛び込んできた人とぶつかって弾かれたせいでお互い助かってしまうし、飛び降りると都合の良いところにクッションがあるし、車で練炭を炊くと野球ボールが飛んできて窓を破るんです。

 ヤケクソになってガソリンをがぶ飲みしたんですがめちゃくちゃ下痢になっただけで死にはしませんでした。なぜかガソリンが変質して限りなく無害になってたんですね。

 他にもいろいろ試しましたがダメです。せめて老衰で死ねたらいいんですけど、狐の窓で見る僕は老けないからなぁ……。


 僕はね、下哭善太郎として死にたい。

 両親と同じ墓に入りたいんですよ。


 座敷わらしとしての自覚がないので、人として生きる以外の道がわからないんですよね。

 何より怖いのは、僕が人並みに物忘れをするということです。

 いつまでも死ななくて、いつかこの家も朽ち、思い出が抜け落ちていったら、僕はどうなるんでしょう? 下哭善太郎のままでいられるんでしょうか?


 だから、強力な霊能者がいたら僕を除霊(ころ)してもらえないかなあって、日ごろ探してるんですよ。



 そもそもなぜ、座敷わらしが人間のおじさんとして生きてるのかって?

 こっちが聞きたいですよ。ははは。


 ……これは推測なんですが。

 両親は残念ながら子供ができない体質だったそうなんですが、諦めずにさまざまな治療法を試していたそうです。

 そして、高齢ながら奇跡的に子供を授かり、無事に産まれた子供をたいへん可愛いがったとか。それが僕なんですけど。

 変なのは、このへんの話がいつも曖昧なんですよね。アルバムにあるのも僕が二歳くらいからの写真なんです。両親の頭の中には赤ちゃんの思い出があるようなのですが、それらも結構あやふやで、聞くとまるでうろ覚えのドラマのストーリーみたいに話す。


 この家は父方の実家なのですが、おそらく僕は元々この家にいたんじゃないでしょうか。

 ずっと昔から、二歳くらいの子供の姿で。

 でも妖怪だから隠れて、ひっそりと。


 ……で、子供ができない夫婦を見た座敷わらしは、自分が二人の子供になることを選んだんだと思います。理由はわかりませんがね。


 どうやったのか、「僕はあなたたちの子供ですよ」と記憶を書き換えるとか、なにか不思議な力を使ったのかも。


 僕が男なのは、両親が男児を望んだからでしょう。こうして大人になったのも、子供にすくすく成長してほしいという親の願いの結果かもしれませんね。


 座敷わらしの自覚がないのは、何者か忘れちゃうくらいに、この家の子供としてかわいがられたからかなぁって……思います。

 幼児のころを覚えていないのは誰しもがそうなんじゃないでしょうか。

 思い出せるのは、物心ついてからの両親との記憶ばかりですよ。


 ……マザ&ファザコン? それ、まっすぐに突き刺さるんでやめてもらっていいですか? 誰が子供部屋おじさんじゃ。働いとるわ。そこまでは言ってないって? 失礼。


 さて、これでわかったでしょう?

 僕の正体を見抜けないあなたは、霊能力者である可能性がとても低い。



 それに、僕がいる家に邪気なんて()()()()()()()んですよ。



 あなたの塩が黒くなる理由が、本当に邪気を吸っているからだとしたら、それは──あなた自身の邪気を吸っているからとしか思えない。



 《《あなたが呪われているだけなのに》》、それを浄化の力と嘘をついて商売にするなんてとんだ度胸の持ち主だ。

 ねえ、桔梗さん。



 気になるのは、呪われたのがいつなのかです。

 生まれたときからなのか、野蕗ちゃんが亡くなって怨霊になってからなのか、妹の蓮美ちゃんを見殺しにしたときか、散り散りになったクラスメイトの居場所を怨霊の野蕗ちゃんに教え始めたころなのか。

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