モーグリスお義兄様との出会い
「異世界に召喚? されたのはいいとして、ここはどこなんだろう?」
乙女ゲームならば、すぐにヒーローが現れるはずなのに。
それに街中であれば何のゲームかもわかったかもしれない。今は森の中なので、よほど特徴的な森でない限りどの世界だと判断するのは難しい。
「暗くなったら大変だし、とりあえずここから動いた方がいいよね。でも、どっちに行ったらいいんだろう? 街があればいいんだけど……」
しかも見渡す限り森なので、どちらの方向に歩いて行っていいかもわからない。
「困ったな~……。でも、私がヒロインなら適当に歩いてても街に辿り着くでしょ!
余裕余裕!!」
あかりは深く考えずに町へ向かうことにした。街がどっちにあるかはわかっていないけれど。
しばらく歩いていると、茂みからガサガサッ! という音がした。
「な、なにっ!?」
あかりが思わず身構えると、出てきたのは野犬だった。大型犬で目つきは鋭く、こちらを敵認識していることがわかる。
――嘘、どうしよう!!
今のご時世、日本で野犬なんてとんと見かけない。
無意識にあかりの体が震える。
「とりあえず逃げなきゃいけないのはわかるけど、絶対走っても追いつかれるじゃん!
いっそ木に登る? でも、別に木登りが得意なわけじゃないし……。背中向けてもいい? 死んだふりは熊だよね?」
あかりは「どうしよう、どうしよう~~!」と叫んで焦る。
しかし、野犬がこちらの行動を待ってくれるはずもない。無情にも、あかりに飛びかかってきた。
「いやあああああ! 目覚めるなら早くして私のヒロインパワー的なやつ!!」
泣き叫ぶように声をあげながらも、あかりはとっさに自分をかばうようにしゃがむ。せめて急所は避けて、隙を見て逃げればチャンスがあると考えたからだ。
「危ない!!」
「――え?」
突然聞こえた自分以外の声に、あかりは目を見開いた。誰かが助けに入ってくれるなんて、望んでいたけれど、本当にそんな都合のいいことが起こるなんて思ってはいなかった。
口では強気で発言しても、あかりは知っているのだ。自分は乙女ゲームの主人公ではないし、ピンチに駆けつけてくれる素敵な人がいないことも。
――本当に乙女ゲームみたいな――。
助けに入ってくれた人物を見て、あかりは目を見開いた。
だってそこにいたのは、あかりが1番大好きなゲーム……鞄につけた缶バッチのアクアスティードとハルトナイツが出てくるあかりが一番好きな乙女ゲーム『ラピスラズリの指輪』に登場する人物だったからだ。
攻略対象者ではないけれど、ヒロインの義兄としていつも寄り添ってくれる優しい人。
穏やかな表情に、サラサラの髪。本当に、ゲームで見たそのままの姿で……あかりは無意識のうちに泣きそうになった。尊くて。
「モーグリスお義兄様……」
助けに入ってくれた青年――モーグリスは、剣で野犬を追い払うことに成功していた。見ると、数人の護衛も合流している。
「大丈夫ですか?」
「ありがとう……ございます……」
あかりを安心させるように微笑んだモーグリスが手を伸ばしてくれたので、それに甘えて起き上がった。けれど、足はまだ震えている。
「ご無事でよかった」
「助けていただきありがとうございます、モーグリスお義兄様」
「え?」
「あ」
ついついゲームをプレイしている感覚でモーグリスのことを呼んでしまい、あかりは思わず口元を押さえる。しかし発言が消えるわけはない。
モーグリスは何かを考え、「もしかして」と手を叩いた。
「今度、我が家の養女になる予定のご令嬢……?」
「そうです!」
あかりは条件反射のごとく頷いてしまった。




