昼下がりの団地の様に
静けさが、3人の足音を包み隠す様に支配する。
進むごとに目の前の仄暗い世界は、次第に光が満たしていく。
視界に入る数々の柱は、不自然な配置。そして自然とは程遠い造り。
流行とは異なる建築様式の空間は、絢爛さは無いが荘厳だ。
違和感しかない空間には、先ほどと同じ造りの祭壇があった。
ベーゼンは探究心を押さえながらも、無意識に思考は始まる。
(クルシュノ・・・読んだ本に記述は無かったはすだけど・・・)
「クルシュノ・・・・・祭壇・・・なんだろ?」
ベーゼンの呟きに返る声はジェラール。
彼も彼女と変わらぬ表情だが思考の方向は違う。
「クルシュノは元々遺跡が多数あった町だ。
祭司たちは、神々が最後に残した都市だと言っていたな」
「ジェラール様、ベーゼン嬢に焚きつける様な発言はおやめください」
「情報共有だ・・・話していれば、私も何か思い出すかもしれないだろ」
ハイネスは、ため息を吐き制止する事を諦める。
相変わらずのハイネスだが、ジェラールは続けた。
「ベーゼン、お前が私のために燃やした本は2巻構成だったのだが覚えているか?
確か、前巻の内容は魔力の根源に対しての考察や歴史。
お前は信じるか判らんが、神の存在と彼らとの邂逅だったな・・・・
お前にも、眠くなる内容だろうな」
「確かに・・・・・神々との邂逅・・・・・」
不思議な言葉だが、ベーゼンの記憶には断片的にそれが在る。
在るが、一方的で一瞬に近い出来事。まるで狐にでもつままれた夢の様なモノ。
彼の話を聞くベーゼンの表情は、彼女の言葉と一致している。
ジェラールは、言葉を噛み締める様に俯く彼女に続けた。
「300年程前の出来事だったかな。
" 神々がお造りになった我々に、この庭園の管理任せ、彼らは旅立った " 。
んん~何だったかな・・・第二期神歴だったか?」
「だいにしん暦? 歴史資料があるんですね・・・・・・」
ベーゼンは、首を傾げながらジェラールに問う。
それは、探究とは違うただの興味。
返るの言葉は誠実で傲慢さはない。
「だろうな・・・アンシュタインの大図書館を管理する教会は、
彼らが不要だと考える情報は、統制し封印までする。」
「ですが、 ” 禁書 ” は読めました・・よ?」
「あれは、読んだところで普通は理解も、まして利用できるモノではない・・・・
異端情報ではあるが一般概念とは大きくかけ離れているからな。
著者一族を愚弄する目的もあるのだろう・・・」
眉を顰め悩む姿のベーゼンに対し、ジェラールは悪戯に微笑む。
それは挑発の様でいて、嫌味の無い激の様。
ベーゼンは、足りない情報を補う様に思考の海と往復している為だろうか、
相変わらず眉を顰めている。その上口元は尖っていた。
ジェラールは更に続ける。
「あの禁書は、外典だが真理だろう・・・それは、お前が示したことだろ?
私も今は、それを信じている。お前のお陰でここに居る訳だからな。
フッ、まぁよい。話を戻すぞ。
神が獣と庭を想像したのが第一期、この世界の誕生と言う事だろう。
そして第二期、庭師である我々が生み出された。
そして、その営みを観察しているのだろうな。」
「・・・・なんか嫌・・・陰険な性格なんですね神様って。」
「ハハハッ、お前らしくていい。好きだぞ、お前の感性。
でだ、一期と二期の間に、神々の争いがあったとされていてな・・・
言い換えれば夫婦喧嘩らしい。主神と妻である女神のだったか」
「なにそれ・・・・時代変わりする程の夫婦喧嘩って・・・」
ベーゼンは困惑する。歴史の変わり目には乱や変がある。
各ある時代の節目には、大概理念が存在したとベーゼンは思っていた。
民の為、人権の為、どれも他者の為に血が流れた。
しかし、この世界の神はどうだろう。
ベーゼンの頭の中では、女神の価値は右肩下がり。
" 神聖 " から " 避けたい身近 " にまで急下落。
それは、彼女の知る歴史にも波及。
彼女の口元は無意識に緩む。
「そんなモノなのですね・・・・神が親でも親は親って感じかぁ~」
「邂逅するくらいだ、そんなものだろう。
話が、また脱線してしまったな・・・・
ここはその時期の遺跡だ。
一文の最後には " かの地へ帰った " と書かれていたと思う」
「空では無いんですね・・・・ ” かの地 ” か。
著者は、見届けたですかね、彼らの帰宅・・・・」
「帰宅か・・・フフッ。
そうだろうな、邂逅があるなら別れもあるだろうさ」
「・・・・って事は!」
ベーゼンは、ハッとする。
祭壇は魔を封じる力を発散していた。
それをさらに覆う様に魔封鉱床。そして情報統制。
今考えれば、整い過ぎていると言えた。
彼女の口は静かに開き、言葉は漏れる。
「封印している・・・・でも通路なんてなかったはず」
「そうだな、出口は無いかもしれない。
しれないが、頭の固い学者は、こう言ったことがある。
" 神歴 とは、神が動かしている時代 "とな」
「神が動かす・・・神歴・・邂逅・・・
ジェラール様、今も神の行き来があるの?」
ジェラールは、ベーゼンの反応に笑みを浮かべた。
隣では、ため息をつくハイネスが控える。
しかし、ベーゼンの視界に在るのはジェラールただ一人。
驚きの表情は、先ほどのジトッとしたモノに戻る。
そして、ベーゼンはジェラールに問う。
「ジェラール様、嘘はお嫌いでは?
隠し事・・・私になさってますよね?」
「ハハハッ、そうではない。
思い出してきたのだ。記憶とはそんなモノだろ?
私が思い出したのは、神の受肉と言うヤツだ。
何かの節目に現れる、とされているな・・・・
たぶんだが、この神殿を利用してな。
先に進むぞ、ベーゼン」
ジェラールは、睨むベーゼンの頭をポンと優しく叩き、先を急ぐ。
それを追う彼女の視線は、逃げる様に過ぎる彼の背中からハイネスへ。
返るのは同意ではなく一礼。
ベーゼンの顔は、さらに険しさを増した。
紫の光に満ちた空間は、進むうちに青い光へと代わっている。
微かに感じる風は、外気にしては無機質。
地中とは思えない空間は、遠い記憶にあるラボラトリの様にも感じられた。
区画分けされた広大な空間。
魔力の籠る大きなゲートのある部屋、全面に見た事の無い術式が彫られた部屋。
時代にそぐわない訳の分からない機材達。
どれも現王国の技術力で出来る代物ではない。
しかし、それ以上に驚くモノがベーゼン達の前には存在した。
身構える二人の騎士。
体を駆け抜ける緊張は、光の届かぬ世界では悪夢を孕んでいた。




