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光の先:現実逃避

どの位眠っていただろうか、男は天井を見つめていた。

しかし、その見つめた先が本当に天井なのかすら怪しいものだ。

男は自身の手を見つめ、その動きを確かめる。

そこには2本の腕、それぞれに10本の指は変る事のない動きを繰り返す。

ただそれは、現実逃避している行動にも思えた。

デービットは動きを止め、深くため息をつき自問する。


「ハァ・・・融解して消滅・・・あり得ない。

 そんな事、私の計算ではありえない・・・・・

 いや待て・・・・・本当に起こりえない事象か?」


頭の中で再計算し、理論を順に追う。

幾度繰り返すもそこにあの事象は起こりえない。

しかし、あの様だ。

ブツブツと繰り返すうちに、それは男の心を落ち着かせた。

何気なく天井と思っている空間を左右に眺める。

しかし、真っ白いそれは、不思議と端が見当たらない。

むしろ壁や床があるのか不安な程だ。

物音一つなく、ただ聞こえるのは自分の声のみ。

男は場違いに置かれた無機質なベットから起き上がり恐る恐る足を降ろす。

影一つない世界には床と呼べる空間は存在した。




目の前の光景に男は混乱する他はない。

その不審な挙動は、小さく品のいい笑いを引き寄せる。


「フフフッ、ようやくお目覚めかえ?」


先程迄は、鮮明に見えていた視界に靄でもかかったのだろうか。

男の視線の先に在る筈の()()の姿はぼやけ虚ろに映る。


「助けてくれたのは貴女か? その事については感謝するが、ここは何処だ?

 何故私はここに居る。そして貴女は誰だ?」


男は声の主に疑問を投げ掛ける事しかできなかった。

それは、矢継ぎ早に投げかけられたが、返ってくるのは笑いだけ。

次第に彼の視界は鮮明さを取り戻す。

そこに映りだした姿に男は一瞬たじろいだ。


「・・・ミュージカルでも見せられているか!?

 アンタ、その恰好の目的は何だ? 混乱を誘う為か?」


男は、微笑を浮かべ聖書に出てくるような姿の女性に苛立ちを覚え始めていた。

映画やミュージカルでしか見る事無い服装。そして相手を舐めたような表情。

しかし、彼の記憶には、この存在に覚えがある。


「アンタ、私の事を知っているだろ?

 私が原子物理学者のデービット・ハーケンだという事を・・・」


デービットの言葉に目の前の存在は反応が薄い。

だた、微笑を浮かべ彼の反応を楽しんでいる様にしか見えなかった。

デービットは眉を顰め視線に想いを乗せる。

そして、可能性を探るべく思考の海へと浸かり始めた。

彼の脳裏に映る答えはどれも的を得ない。

しかし、それ以上に的を得ないのは正面の存在。

世捨て人の様になったデービットですら視線を反らせない存在。

それは人の形を成すが、まったく別の神々しい存在にも思える程だ。

しかし、同じ光景に彼は出くわしている。


「おいアンタ、テキサスで一度会っているよな?

 CIAか?それともFBIか?・・・まぁいい、誰でも構わない。

 私を元の場所に返してくれ・・・研究が欲しいというなら話を聞こう・・・

 頼む、この精神を追い込むような空間から出してくれ!」


目の前の存在は一転、微笑は嘲笑へと変わる。


「フフッ、アハハハハッ、尚も面白い人型よ。

 妾には何をのたうっておるのかわからん。

 しかし、その取り乱し様は微笑ましい・・・

 まぁ良い、主の知りたい事を教えてやろう。

 ここはアルカディア・・・ヌシのいた世界ではない。

 我が愛しき方の作りし世界・・・フフフッ」


「アルカディアだと・・・よく戯言をいう・・・戯言は服装だけにしてくれ」


何かへ想いを馳せ恍惚の表情を浮かべる存在。

向けられた視線は一変、冷たい視線がデービットを襲う。

そこに、初めて人にも似た憎悪があった。


「ヌシの様な下等な存在には分からぬよの・・・

 フッ、あの方の作りだした人型とは似て非なるモノだったか・・・

 多少の知性はあれど、ただの獣よ・・・とは言え、その挙動は面白い。

 教えてやろう、ヌシは死してこの世界に招かれた。

 この言葉、その凝り固まった頭で理解はできたか?」


デービットは目を細め存在を睨むが、怒りではなく混乱からだ。


「何の冗談だ・・・現に私はここに居る。死などあり得ない。

 望みはなんだ? 金か? それとも研究か?」


存在もデービットにあわせる様に眉を顰める。

しかし、侮蔑以外の何ものでもなかった。


「受け入れられぬか・・・それも良い・・・・だが何も変わる事など無い。

 ヌシは、妾の手駒となった・・・

 そうじゃなぁ、ヌシの問いに返すとすれば探求心じゃ。

 ヌシはアルカディアで事を成せ。

 そして妾にあの方のアノ表情を・・グフフフッ」


そこに在る笑みは美しいそれではない。どこか深く深淵の様だ。

デービットは、背筋に冷たいものを感じつつも彼の存在の言葉を思い返す。

その中で、いくつかの言葉から自身が拉致されたことを理解した。

しかし、アルカディアなどという国に心当たりはない。




繰り返す自問自答は自身が置かれた状況に怒りを募らせた。

それは、男の行動に現れる。

影を落とさぬ空間を男はゆっくりと存在の元へと進みだす。

男の腕は存在の首元を目掛け伸びた。


「いい加減ふざけるな!!」


それは、デービットの体重を乗せ加速する。

しかし、存在を通り過ぎ、有り余る重量は自身のバランスを失わせた。

存在を素通りした男は、そのまま白い空間へと倒れ込む様に吸い込まれていく。

彼の後方からは、返答など求めない様な言い回し。


「ヌシは、私利私欲の為に全てを捨て研究を続けた。

 妾は嫌いじゃない。フフフッ、記憶だけは残しておいてやろう。

 あの方のアルカディアでヌシの野望を叶えよ・・・・・・グフフフッ

 ・・・・ほぉ、やはり面白いな」


嫌な笑い声に見送られ薄れゆく意識。

そして新たな人生が始まる。

アルカディアは、まだ生み出されたばかりの世界。

人と獣が共に生き、互いを尊重し合う世界。

異界に放り出された命は消えゆく意識の中は呟く。


(碌な夢ではない・・・夢なら覚めてくれよ・・・・)



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