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戦火の花:ゆめまぼろし

1人の女性が戦火に歪む荒野を駆ける。


「ジェラール様! もう戦わなくていいの!!

 連合国との和平協定結ばれましたわ!」


伝令を抜き去り戦場の中心へと走る女性。

肩で息をし縺れる足を強引に前に出していく。

少しずつ大きくなる2つの影。

一つは彼女と婚姻を結ぶ帝国第一王子ジェラール。

もう1つは異国の鎧に身を包む巨躯。

ジェラールの意識は、一瞬彼女の声に反応する。

しかしそれが永遠の別れへと導いた。



鮮血は灰色の世界を彩るも感情は沈むだけ。

戦火の風が吹き荒れる荒野は無情。

想い人を見つめる男は、兜を脱ぎゆっくりと歩きだす。

視線は1点を見つめるが、憎悪の感情はない。


「すまない・・・だが、その男は貴女(貴方)不幸にする。

 (わたし)は、貴女を守るために在る」


男の言葉に返る視線は一つもない。

周囲では、ぶつかり合う金属音と爆発音が響く。

しかし、二人の周りだけは静かに感じられた。

兜を抱え跪く女性の前は光が遮られ、抱えた兜に闇を落とす。


「なんで・・・どうして貴方が・・・」


嗚咽を孕んだ訴えは巨躯の男の胸を貫く。

視線の合わない言葉は互いにすれ違いを生む。


「帝国となったあなたの国は、世界を変えようとした・・・

 俺はそれを止めなければならない・・・

 その男を止めなければ我々に未来はなかった」


女性は、抱え込んだ兜を強く抱きしめ蹲る。

兜から滴る深紅の液体が女性のドレスを染め、

戦争の無情さを訴える様にも映った。


「何で貴方が・・・彼と戦わなければならなかったの・・・

 貴方は守ると・・・守ると言ってくれたのに・・・どうして・・・」


女性を覆う影は少しずつ小さくなる。

同じように少し小さくなった男の声には、以前の優しさがあった。


「俺は、貴女の悲しむ顔は見たくない・・・・

 しかし、貴女が嫌われる姿も、もう見たくはない・・・

 皆の認める”魔工の聖女”でいてほしい。

 俺は憎まれてもいい・・・

 貴女がこの世界では報われて欲しいと願っているんだ」


最後の言葉は、泣き崩れる女性には届いているか定かではない。

愛した男の首を抱え泣き崩れる女性を残し、巨躯の狼は遠吠えの様に吠える。

辺りでは、歓声にも似た明るい遠吠えが連なった。

引き上げていく連合軍。戦火の傷はあまりにも深く、

残された瞳もまた死者と変わらない。

俯き泣き崩れる女性は、ゆっくりと立ち上がる。


「ねぇ、ジェラール・・・こんなに汚れてしまったわ・・・・・

 ハイネスに叱られてしまうわね・・・・さぁ、王宮に帰りましょ」





帰還する魔工の聖女の姿に、生き残った兵士達は希望を見た。

しかし、その出で立ちと力なく歩む姿に、彼らの表情は沈み声はかけられない。

中には、力なく崩れ落ちる者さえいたが1人駆け寄る影がある。

戦場には似つかわしくない品の良い出で立ちの長髪の優男。


「ベーゼン様、御無事で!」


「えぇ、ハイネスも無事でよかった」


「それは、ジェラール様の・・・では・・・」


ハイネスは、ベーゼンの抱える兜に意識を向ける。

彼女のドレスを紅く染めるそれは未だに深紅の液体が満ちていた。

悲痛に歪むハイネスの表情に、ベーゼンは不思議そうに首を傾ける。


「何を言っているの? ジェラール様も一緒よ・・・

 今日は、ラウドトラウトの包み焼が食べたいって。

 ・・・フフッ、ジェラール様の好物ですものね、ジェラール様」


ハイネスは、眉を顰め唇を噛む。

命の味を嫌悪しながらも、視線をベーゼンから外し救護テントへ。


「・・・ベーゼン様・・・・救護兵!

 ベーゼン様、私はジェラール様と軍議がございますので・・・

 失礼致します、ジェラール様の兜は私が持ちます故・・・・こちらに」


ハイネスは、ベーゼンから王の兜を寄り添うように恭しく受け取る。

壊れた表情を浮かべる女性の背は深く悲しみに満ちていた。

送り出すハイネスの表情もまたソレに通じるモノがあるだろう。

感情を見せない男の頬を湿らせた姿に周囲もまた空気を重くした。

ハイネスは、東の空に響く遠吠えを睨む。


「ルーシア殿、何故貴方が居ながらこうなってしまったのだ・・・

 ベーゼン様・・・

 帝国はどうなってしまうんだ・・・・・」




半月後、帝国は連合国との和平を大々的に発表された。

その裏では、ジェラールの叔父の王位を主張した旧制派閥が暗躍。

ジェラールを慕った新体制をになう者達は宮廷から居場所を追われた。

それは、診療所でも同じだ。

ベーゼンを看護する医療師や僧侶は日ごとに減りる。

旧体制へと戻っていく帝国は、彼女に対し高原療養の名目で帝都から追放。

ハイネスは副文官長の座を自ら退任。

意識ある屍の隣には若い文官の慈愛の瞳。

今は亡き友の想いを守る為、彼女に寄り添う事を誓っていた。

馬車から見える風景は次第に人の姿が減っていく。

ハイネスは思う。


(何故、ベーゼン様を連合国に隣接するあの街に・・・・)


馬車が進む先には青々と広がる湖。

若き日のジェラールが好んで余暇を過ごした湖の街アンシュタイン。

当時、中立都市であった街には様々な種族が住んでいた。

若いの執事は新たな女性主人に声を掛ける。


「ベーゼン様、アンシュタインに着きますよ。」


枯れ枝の様に変わり果てた女性からは返事はない。

焦点も合わず、静かにそして暗い。

それでも湖は、あの戦火が嘘の様に光り輝き、彼女達を優しく迎えた。

ベーゼンは与えられた館へと運ばれ、温かい毛布に包まれ静かに眠る。

永い眠りは、良い事も悪い事も思い出させた。

ジェラール、ルーシアと3人で笑った記憶。

戦争の記憶・・・魔工に情熱を傾ける記憶・・・幼い頃の記憶・・・・そして。

夢幻(ゆめまぼろし)は、眠る彼女に囁く。


「まだ足りぬ・・・魔を極めよ。 

 されば、男も蘇えよう・・・異界の手駒よ・・・

 魔を極め、男を連れ戻せ・・・妾の手駒よ・・・」


囁きは幾晩も続いた。

優しく、そして妖艶に。


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