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1話 ママがこんな身体でごめんね

「ママがこんな身体だからごめんねマロティ。」

 

 マロティとその母親が森の奥に隠れ住んで5年、まだ赤子だったマロティもすくすくと育ち始めていた。

 捨て子だったマロティを拾ったネルフィリアは初めての子育てに悪戦苦闘しながらも愛情を込め今日までマロティをなんとか育ててきてはいるが森に隠れ住まねばならないネルフィリアはマロティにもっと良いものを食べさせてあげたかった。

 木の皿に盛られたこんがりと焼き色のついた幼虫をマロティはヒョイと手に取りパクリと口にいれた。

 

 「んっ。甘くて美味しいよ。それにママがたまにお肉を狩ってきてくれるし。」


 「そう…。でもそろそろ森に隠れ住むのもやめようかしらねぇ。お勉強とかは私が教えれば良いのだけれどお友達を作ったりしたいでしょう?」


 そう困ったような悲しいような顔をするネルフィリアにマロティは心配そうに母親を見つめた。


 「でも、森の外に出たらおかあさんは…。」

 「心配しないでマロティ。」

 

 ほっそりとした長い指がマロティの髪に触れ頬をなで上げる。

 30cmはありそうな異様に長い4本の指からは黒曜石のような爪が伸びていた。

 マロティの養母のネルフィリアは悪魔だった。

 2mを越える異様に長い腕と細長い4本指で一見すると絶世の美女と言ってもおかしくない顔をしていたが頭部からは左右に節くれだった樹の根のような角が生えていて上下に二股に分かれたその角は下の部分は羊の角のようにカールし前方へ伸び上へ枝分かれした部分は真っ直ぐ上に向かって伸びている。 そしてよくよくみると額には小さな黒い複眼が6つほど並んで居る。

 そして着ているドレスのぱっくりと開いた背の部分からは太く長い触手が6本ほど露出してウネウネと蠢いていた。


 「ほら、おかあさんも温かいうちに食べて。」


 マロティに促され、こんがりと焼けた幼虫を長い腕を器用に折り曲げてつまみ上げると、口元に持っていく。

 幼虫を頬張ろうと開いた口の中はサメのように鋭利な牙がびっしりとはえ、喉の奥からズルリと伸びてた長い舌が幼虫を絡め取り口内へ運んでいった。


  「ふふ。マロティと食べる食事は何だって美味しいわ。」


 マロティの育ての母親であるネルフィリアは人ならざる者でありその中でも悪魔と呼ばれる異界の怪物だ。

 しかも悪魔の中でも10段階中3番目の位階に位置する侯爵級と呼ばれる大悪魔だった。

 そんな大悪魔であるネルフィリアが人間の子を育てているのはネルフィリアが子育てに執着するという習性を持っているためだ。

 ネルフィリアは悪魔の中でもとりわけ温厚であり自ら人間に害をなそうとすることはない。

 ただひたすらに、人間の世界を彷徨い捨て子などを拾っては育てるのだがその拾い育てている愛し子に危害を加えようものなら大悪魔の名にふさわしい暴力が荒れ狂うことになる。

 そしてもう一つ特筆すべきは大悪魔にふさわしい膨大な魔力や魔術の知識を持ちながら決して人間に化けることが出来ない。

故に捨て子を拾っても受け入れられることは今までなかったがマロティは違った。

 マロティは生まれてすぐに捨てられたためネルフィリアしか他人を知らない。

 それゆえに異形の姿を持つネルフィリアはこうして人里離れた山奥にマロティと二人でひっそりと隠れ住んでいた。


 「さ、ご飯を食べたらゆっくりとお風呂に入って身体を温めて寝ましょう。」


 「うん。」


 ネルフィリアが巨石を爪で切り裂きくり抜いて作った浴槽は二人で入っても余裕なほどの大きさがあった。

服を脱ぎ裸になったマロティとネルフィリアが浴室に入ると湯の張られていない浴槽にネルフィリアが手を伸ばし魔術で水を溜めその中に手を入れ今度は魔術でお湯に変えていく。

 僅か一分足らずで大きな浴槽に湯気が立ち上るほどの湯がなみなみと張られていた。


 「さ、マロティ。ソコに座って。お湯をかけてあげるわ。」


 トプンと音を立て浴槽から湯が玉になり浮かび上がると浴室にある木製の椅子に座るマロティにそれがゆっくりと近づき全身を濡らしていく。


 「んんっ あったかい。お母さんありがとう。」


 黒曜石のような鋭い爪でマロティを傷つけないように指を折り曲げ、器用に髪を梳かしていくネルフィリアは背中からはえる触手で石鹸をとりスポンジ状になった植物とマロティの髪にそれをかけ両手で髪を、スポンジで背中を洗い始めた。


 「おかあさんみたいな立派な角はいつはえるかな?」

 「マロティは人間だから触手も角も生えないわよ?」

 「そうなんだ。便利なのにね。じゃぁ手は伸びる?」

 「手は伸びないけど背は伸びるわよ。」

 「じゃあ、おかあさんよりも大きくなるかもね。見上げないといけないくらい大きくなる。」

 「そんなに大きくなったらご飯が大変ね。」

 「そうだった。じゃぁ大きくなるのはやめるね。」

 

お風呂をでた二人は二人で寝るには少々身を寄せなければならないベッドに身を寄せ合い横になった。


  「そろそろベッドも大きくしたほうが良いかしらね。」

 「ん。でもこうしておかあさんに張り付いていると温かいから。」

 「マロティは甘えん坊ね。さ、寝ましょう。」


 そういうとものの数分でマロティは寝息を立て始め、ネルフィリアは愛おしそうに頬をなで上げ起こさぬようベッドの上から小屋の外へと空間を渡り歩く能力を使い抜け出した。


 「さて、今日こそはマロティに美味しいものを食べさせてあげるために魔獣なり冬眠している獣を狩らなきゃ。」

 ざわりとネルフィリアの足元の草が波紋が広がるように揺れるとくるりとネルフィリアは向きを変え逆関節の脚に力をこめ爪先が地面に食い込んでいき一瞬にしてかなりの距離を跳躍し始めた。

 音もなく夜の森の中を跳躍し移動したネルフィリアは、はるか先に白く輝く巨大な角をもった雄鹿を見つける。

 雷撃を放つ大きな鹿の魔獣はそれなりに強い魔獣ではあるが、大悪魔のネルフィリアにとってはただの子鹿と大差はなかった。

 鹿の魔獣がネルフィリアに気がつくより早くネルフィリアはその懐に潜り込み黒曜石のように鋭い爪でその首を撫でるようにかき斬った。


 「ごめんなさいね。でもうちの子は育ち盛りなの。」


  首を半ばまで断ち切られ血を溢す魔獣の膝が崩れ地面に倒れ伏すより早くネルフィリアの触手が魔獣の脚を掴み逆さ吊りに持ち上げた。

  人の口では発声できないような複雑な音がネルフィリアの口から紡がれ、トンと手を当てるとビクンと鹿が震え傷口から血が溢れでていく。


 「人間は血抜きをしないお肉は不味くて食べれないなんて不便ね。魔力の籠もった血は美味しいと思うのだけれど。」


 溢れ出た血が渦を巻きネルフィリアの口の中に吸い込まれていく。

 鹿の魔獣を掴んだネルフィリアは素早く眠っているマロティのもとへ帰っていく。

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