第22話 ひとりぼっちはいや
うーん、みんなどこにいるんだろ? 全然見つからないなー。ぴいな、早くみんなに会いたいのになー。
とっても大きな岩が落ちてきて服は汚れるし、メイクも落ちたし、お友達はみんな使えなくなってホントに最悪。
「あーあ、ユウくんに会いたいけど、飽きてきちゃったなー」
お手頃なサイズの石を蹴飛ばしながら散策していると、キラッと空が光った。
なんだろう、あれ。
「鳥?」
あっ、落ちた。
急ごう急ごう! きっとあそこに新しくお友達になってくれる子がいるよ!
瓦礫の上をぴょんぴょん飛んで、落ちた場所に向かう。
近くまで来ると、そこには黒いウェディングドレスを赤く染めた姫ちゃんと、カウボーイちゃん、ロリータちゃんがいた。姫ちゃんの近くには、誰だか分からない死体もある。
あれ? みんなまだぴいなに気付いてない?
なんだか険悪ムードが漂ってる。喧嘩中?
だったらチャンスだ!
カッターで手首を切る。出てきた血で鎌を作って姫ちゃんに斬り掛かった。
でも――
完全に不意打ちだったのに……。防がれちゃった。
ギリギリと刃同士が擦れる嫌な音が鳴る。
「赤音姫奈……」
「わぁ、嬉しい! ぴいなの名前覚えてくれてるんだ!」
弾き合って距離を取る。
確か、姫ちゃんは包丁をたくさん飛ばせたはず。このまま距離を空けるのは危険だよね。
ボロボロで真っ青な顔。でもだからって遠慮はしないよ!
「ぴいなとお友達になろうよ!」
「こと……わる!」
連続で斬り掛かるけど、全部弾かれちゃう。
ボロボロなのによく動けるよ。尊敬しちゃう。火事場の馬鹿力ってやつ?
カウボーイちゃんとロリータちゃんを狙ってもいいけど、そうなると姫ちゃんが攻撃してくるからなー。
ま、いいや。先に姫ちゃん殺して、お友達になっちゃおう!
大振りの一撃を放つと、姫ちゃんが大きく後ろに飛ぶ。
着地の隙を狙おうとしたんだけど……。
姫ちゃんの周りの空間が歪んで、大量の包丁が飛んでくる。
「ヤバ……」
直撃不可避。
でも大丈夫!
ぴいなは拾ってきた盾を構えて、包丁の雨を弾いていく。
ものすごい衝撃で腕が取れちゃいそう。
でも……。
「ぴいな、負けない!」
もう一度ユウくんに会いたいから! 会わないといけないから!
だから盾を振るい続けた。
それは時間にして一瞬だったけど、体感的には何時間にも感じられた。
雨が止むと、ぴいなは無傷で立っていた。
すかさず距離を詰める。
姫ちゃん、驚いた顔してる。そうだよね。倒したと思ったもんね。
でも残念! ぴいなの勝ちだよ!
鎌が首を捕らえた……と思ったのに。
「ふぇ?」
突然、姫ちゃんの姿が消えた。
鎌は空を斬って、地面に突き刺さる。
「姫ちゃん? どこ行ったの?」
辺りを見渡すと、少し離れた場所にカウボーイちゃんが玩具みたいな銃を構えていた。
「キミがなにかしたの?」
「まぁ、そういうことになるよね」
「そっか、ありがとう。助けてくれたんだよね」
「んー、なんでそうなるかな……」
カウボーイちゃんは困ったみたいに頭を掻く。
なんだ、ぴいながピンチだったから助けてくれたんじゃないんだ。
「そっか。でもまぁいいや。お友達になろうよ」
「ごめん。それは無理かな。僕の友達はかりんだけだから」
グイッと怯えた様子で隣に立つロリータちゃんを引き寄せた。
ロリータちゃんは赤面して照れている。
その光景に胸の奥が針で刺されたみたいに痛んだ。
なにこれ? 辛い? 悲しい? 苦しい?
ううん。どれも違う。けど全部に似た感覚。
答えを見つけようとしても見つからない。
多分、ぴいなの知らない感覚なんだと思う。だから考えるだけ無駄。
切り捨てて、地面に刺さった鎌を抜く。
「ぴいなはね、生き残るの。愛の為に」
「いいじゃん。そういう考え、僕は好きだよ」
カウボーイちゃんとはいいお友達になれそう。
体の捻りを活かして、ブーメランみたいに鎌を投げる。
避けるかと思ったんだけど――
「かりん! なにしてるんだ! 戦うのは緊急時だけだって言っただろ!」
いきなり巨大化したうさぎのぬいぐるみが現れて鎌を受け止めた。
その後ろで、ぐったりとしたロリータちゃんを抱えながらカウボーイちゃんが逃げていく。
逃さないよ。
走りながら手首を切って、流れてきた血をぬいぐるみに向けて飛ばす。
「赤星ドーン」
たくさんの血の粒を棘状に巨大化させる。
ぬいぐるみなんだからズタズタにしちゃえば、おしまいでしょ。
さっきの鎌みたいには止められない。
予想通り、棘がぬいぐるみの体を貫く。
だけど足りなかったみたい。
綿を撒き散らしていても、ぬいぐるみは倒れない。
「へぇ、面白――」
ぬいぐるみが掴みかかってきた。
ぴいなは後ろに飛びながら鎌を作る。
真っ二つにしてあげようと思って、振りかぶったんだけど――
躊躇なく懐に潜り込んできて、鎌を振るうのが間に合わずに抱きつかれてしまう。
「もぉ、なに? 放してよ」
喋れないのかな?
黙ったまま強い力で放してくれる様子もない。
「むぅ、ぴいなやることあるから邪魔しないで」
ぬいぐるみが首を横に振った。
声は聞こえるんだ。
まぁなんだっていいや。ぴいなの邪魔するのなら、かわいいぬいぐるみでも遠慮しないよ。
腕から流れている血を操作して、たくさんの大きな刃を作り出す。
ゼロ距離からの斬撃だ。ぬいぐるみは一瞬にして綿の塊に変わり果てた。
「ぴいな、こんなのじゃ止まらないから。逃さないよ」
まだ二人は視界に映ってる。
ガサリ
背後でなにかが動いた音がした。
なんの音? 姫ちゃんも消えて、今は近くに人はいないはず。
瓦礫が崩れた音だと判断して、ぴいなは確認をしなかった。
けど、それが間違いだったとすぐに思い知らされることになる。
風が鳴いた。
次の瞬間、左腕が飛んだ。
え?
間を置かずに体中に無数の穴が開く。
痛みを感じる暇すらなかった。
体が浮いている。勝手に倒れていく。
嗚呼……時間がすごく遅く感じる。
頭の中に勝手に映像が流れ始めた。
これは走馬灯ってやつかな……。
仄暗いアパートの一室で、煮立った鍋から泡が溢れ出している。
倒れているのは誰? ……ぴいなだ。
ぴいなの前に立っているのは……ママ。
この光景、覚えてる。確か、これまでで一番怒られた日だ。
ママの恋人をぴいなが取ったって、お腹にお湯をかけられた日。
あのときは熱かったなぁ。痛かったなぁ。
でもその後、ママがギュッと抱きしめてくれた。「ごめんね、愛してるよ。大好きだよ」って。愛してるから手が出てしまうんだって教えてくれた。
それからママはしばらくしたらいなくなった。愛がなくなったんだと思う。愛がなくなったから、ぴいなのことがどうでもよくなって消えちゃった。
ぴいな死にたくない。生き返ってユウくんを助けないと。愛してもらわないと。愛がないとみんな離れて行っちゃう! 嫌だ! ぴいなは愛されたい! もう一人ぼっちは――




