第19話 手遊び
巨大化させた石の威力は凄まじい。
街並みは崩壊し、一帯は岩山が乱立する地と化した。
どんな魔法少女でも耐えきることは不可能だろう。
オレ――大兼小金はパラシュート代わりのハンカチを縮小させて降り立つ。
「全員死んだな。おい、マスター! 終わりだ、終わり! 出てこい」
空に向かって呼び掛けるが返事はない。姿を現すこともない。
声が空に溶け、不安定な岩山の崩れる音だけが鳴る。
その結果にたまらず舌打ちが出る。
「まだいるってことか? ダル過ぎんだろ。この下ってことだr――」
地面――岩が大きく揺れ始めた。
それだけじゃない。ガンガンと地下から音が響き始める。
「おいおいまさか」
音が大きくなってくる。地上に近付いてきているんだ。
こんなことをするのは誰だ? 能力を考えればアイツしかいねぇよな。
「生きてたか。フィロ・ラム・リェーズヴィエ!」
包丁の束が地下から噴き出してきた。
そして予想通り、発生した近くの穴からフィロが姿を現す。
息も絶え絶え。小突けば死にそうな状態だ。
だが気は抜かない。手負いの獣が一番怖いんだ。なりふり構わないからな。それになにより覚悟の決まった目をしている。
砕けた石を適当に回収。戦斧を構えて、戦闘態勢をとる。
「さぁ、きっちりと殺して――」
すると今度は離れた位置から、火柱が上がった。
「どいつもこいつも」
無事で済むような攻撃ではなかったはずだってのに生き残りやがって。
まぁいい。もう一度殺せばいいだけだ!
距離の近いフィロを先に仕留めにかかる。
まずは石を飛ばして牽制。巨大化で視界も封じる。
フィロは刃物を発射して石を壊すが想定通り。
左にオレと同じくらいの大きさの石を飛ばし、オレは右側から回り込む。
オレが石の陰から飛び出すと、フィロは逆方向を向いている。
石の方をオレより少しだけ先に見つけるように飛ばしたからだ。
まんまと作戦に嵌ってくれた。
戦斧を巨大化させ、叩き切ろうとした。
だが――
「チッ!」
予測されていたのか、振り向きもせずに刃物が飛んでくる。
咄嗟に戦斧で弾くと、刃物は逸れて岩山を破壊する。
続けて何本もの刃物が射出される。
全てを弾くのは無理。走って回避する。
背後に爆撃と勘違いする音が響き続ける。
うぜぇな。
際限なく刃物が飛んでくる。
オレは空中に石を撒いて巨大化させ、それらを足場に立体的に移動しながら避ける。
「どうした!? そんなんじゃ当たらねぇぞ!」
上空へと移動し、フィロに向かって投げた石を巨大化させた。
フィロが何十発と攻撃してようやく壊せるほどに巨大な盾だ。
壊さなければ潰される。あの体では逃げることすら出来ないだろう。故に、大きな隙が生まれる。
オレは足元に石を放り、それを巨大化させた反動を利用し、地面に降り立つ。
続けざまに同じく巨大化の反動を利用して、フィロ目掛けて自分を打ち出す。
だが――
「引っ掛かるとでも?」
予測されていたらしい。
まぁ、何度も似たような手にかかるわけがないか。
「は! おもし――」
射出前に戦斧を巨大化させて胴体を泣き別れにしてやる。
そう思い、振り被ると、炎の弾がオレたちに襲いかかってきた。
咄嗟に巨大化させた石を蹴ってその場から離脱。着地し、迎撃態勢をとる。
「いいとこだったのに邪魔すんなよ、ゾンビ野郎!」
足から炎を出し、上空から黙ってこちらを見ている五十嵐大火のその脇には、黒い燃えカスを抱えられていた。
あれはなんだ?
燻っているのか煙を上げている。
「ああ、火傷野郎か。お仲間を助けようとして燃やしちまったみたいだな」
地面を熱で溶かして上がってくる際に燃やしてしまった。そんなところか。さすがゾンビ。思考もイカれちまってるらしい。
その証明とでもいうように、燃え尽きた火傷野郎を投げ捨てやがった。
まぁそんなことはどうでもいい。それよりも両方を相手取るのは至難の業だがどうするかだ。
足裏に石をセットする。
「ま、ごちゃごちゃ考えたって仕方ねぇよな!」
石の巨大化の反動による人間大砲で五十嵐大火に迫る。
真正面からの特攻だ。当然、五十嵐大火はカモが来たと炎の弾を撃ってくる。
だけどそんな馬鹿正直に突っ込むわけがねぇ。
石の足場を作り、斜め前方に跳び、巨大化させながら戦斧を振るう。
だが相手も一度見た攻撃。上昇して避けやがった。
掛かったな。
腹から飛び出して伸びた腸を掴む。
「熱っ!」
手が爛れるほどの熱さだ。
でも放さねぇ。
「おらよ! テメェにやるよ!」
フィロ目掛けて、全力で五十嵐大火をぶん投げた。
「……」
フィロ周辺の空間が歪むと、数え切れないほどの刃物のゲリラ豪雨が五十嵐大火を襲う。
どれだけの高温だろうと、圧倒的物量をぶつけられ続ければ耐えられない。
五十嵐大火の体は一瞬にしてバラバラになった。
「ナイス連携だな」
着地し、軽口を叩いてみるが反応はない。
その代わりと言うべきか、フィロの周囲の空間が歪みだす。
もう会話はしてくれないらしい。
攻撃が来る――かと思うと。
「がはっ……!」
フィロが突然吐血し、倒れた。
なにも不思議ではない。体が穴だらけなんだ。限界が来たんだろう。ここまで立っていたことのほうが驚きだ。
「んだよ、つまんねぇ終わり方だな」
踵を返し、他にも魔法少女がいないか探しに行こうとした。
カタカタ。
なにかが這う音が背後から聞こえた。
嫌な気配を感じて振り向くと――
「が……ッ!」
大火の両手が自立して首を絞めてきた。
なんて馬鹿力だ。力を抜けば首を千切られてしまいそうだ。
引き離せない! 息が出来ない!
「ぐっ……」
地面に倒れ、必死にもがくがびくともしない。
クソクソクソクソクソ! こんな終わり方あってたまるか!
幸いと言うべきか、炎を出していたリングはない。手を退けれさえすれば……!
だが動かない。引っ張ろうが、引っ掻こうが、なにしようと力を込め続けてくる。
苦しい。死にたくない。死にたくない!
顔付近の血が止まって張っているような感覚に襲われる。肺が息を吸おうと勝手に動く。
「―――――――――――」
声にならない声で叫んだ。
暴れて暴れて、ひたすらもがいた。
だけど全てが意味を成さない。
意識が朦朧とする。指が首に入り込んでくる。
嫌だ! 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
こんな終わり方……。
もう一度、人生をやり直したかった。
今度は鳥籠の外に出て、空を飛びたいと思った。それが願うと思ったのに……。
ゴキンッ




