18話 亡霊
それが空を覆った時、アタシ――フィロ・ラム・リェーズヴィエは死を覚悟した。
いや、その感情は覚悟と言うよりも諦めと言ったほうが正しいかもしれない。
右目と左肺は潰れ、右腕は千切れた。体の至るところにも穴が空いている。
どの道、長くは持たない。
アタシは足を止めて、暗い空を見上げる。
「ここまで……かしらね」
【マーダー・パレード】。とんでもないものに参加させられたものだわ。
人の心を壊し、殺戮を強要する極悪非道の極み。
アタシは一番に目が覚めて、説明を受ける前にその力を自覚した。
容易く人を殺せる力。なぜそんなものが与えられたのか。
初めは想像もつかなかった。けれど、星の管理者を名乗るマスターなる存在の説明を受けて納得してしまった。
止めなければと思った。だけれども、死者を召喚し、特異な能力を授けるマスターを倒すことなど不可能。創作物が作者を殺すに等しい行為だと判断した。
だから他の人たちを殺すことにした。その身が罪で穢れる前に、せめて清らかなまま眠らせてあげようと。
安直な思考。思考の放棄だ。
いつもそうだ。アタシは決断を間違える。
もしも勇花の手を取っていれば、未来は大きく変わっていたはずだ。
ここまで悲惨な状況を招くこともなかった。
既に大火、忍が殺されてしまっている。おそらくは他にも犠牲者が出ている。
そしてこの隕石によって、アタシも死ぬ。これだけの規模、もしかすると小金しか生き残らないかもしれない。
「間違いだらけの……人生だったわね。そんなアタシに相応しい……末路かしら」
膝を突き、その場に座り込んで目を閉じた。
『おい貴様。何を諦めている』
どこかから声が聞こえた。
聞き覚えのある声。勇花だ。
『私を殺しておいて、おいそれと死ぬ気か?』
死を前にして幻聴が聞こえるようになってしまったのね。
「こんな体で……何が……出来るっていうの?」
『関係ない。立て。立ち上がり、使命を果たせ』
「使命なんてないわ。ただのアタシの独りよがり。結局は殺し合いを止められなかった」
『だからなんだ。立て』
幻聴のくせして横暴ね。
死ぬ前なんだから都合のいい会話をしてくれればいいのに。
「立って……どうするの? どうせ……このまま……潰されて終わりよ」
『私の死をなかったことにするつもりか? 貴様がこのまま死ねば、私の死は意味を成さなくなる。立て。立って【マーダー・パレード】を終わらせろ。貴様にはその責務がある。全てが終わるまで投げ出すことは許さん。立ち上がれ。フィロ・ラム・リェーズヴィエ!』
そう……ね。
アタシはアナタを殺した。自分の信じる正義の為に。
そして今、身勝手にもその正義を放棄しようとしている。
怒るのも無理ないわ。
ごめんなさい。そして感謝するわ。
死にかけたくらいで、なにを諦めていたのか。
選択を間違えた? なにを言っているの。まだ結果は分からないじゃない。
確かにこれまでの選択は間違えていた。けれどこの選択の未来は【マーダー・パレード】が終わるまでは分からない。
そしてこの選択に意味を持たせるのはアタシだ。
勇花の死を無駄にするな。糧としろ。
命を持って事を成せ。フィロ・ラム・リェーズヴィエ。
「最後まで……足掻いてやるわ」
意識が朦朧とする。
それでも足で地を踏み、立ち上がる。
理想としては隕石を破壊したい。しかしそれは土台無理な話。
そもそも破壊出来たとしても、周囲に落ちた欠片の衝撃で潰されてしまうわ。
つまりこの危機から脱出する方法は下に逃げること。
目の前の地面に刃物を射出した。
アタシの能力は刃物の召喚と射出。そこに制限はない。生み出した穴に飛び込み、隕石が落下するまでの間、ひたすら掘り進める。
「生き残ってやるわ……。必ず」




