7 ギョームの妹アデルと叔父レナード
ギョームの死を巡る噂は、村の隅々にまで広がり、不安と疑念を生んでいた。
その中で、特にギョームの家族たちが抱える複雑な感情を知ることは、この事件の核心に近づく鍵となるはずだった。私はギョームの親族たちに話を聞くため、朝早くから、ギョームの屋敷の敷地内に建つ、ギョームの妹アデルの家の扉を叩いた。
案内されたのは、小ぢんまりとした応接室。壁にはギョーム家の歴史を物語るような肖像画が飾られ、手入れの行き届いた家具が整然と並んでいた。しかし、その美しさとは裏腹に、空気には張り詰めた緊張感が漂っていた。
そこにいたのは、ギョームの妹アデル、そして義理の叔父にあたるレナードだった。二人ともそれぞれに違った表情を浮かべながら私を迎え入れた。
アデルは物静かだが、どこか苛立ちを抑え込んでいるような雰囲気を漂わせていた。私はまず彼女に口を開くよう促した。
「お話を伺う前に、ギョームさんが亡くなる直前の様子について教えていただけますか?」
彼女は少しの間考え込んだ後、言葉を選びながら話し始めた。
「兄は……最近、何かに悩んでいるようでした。私には詳しいことを話してくれませんでしたが、夜遅くまで書斎で帳簿を眺めたり、何かの書類を読みふけったりしていたんです。時折、家族にも分からないような溜息をついていました。」
「悩みというのは、家業に関することだとお考えですか?」
アデルは首を横に振った。
「それだけではないと思います。兄はもともと家業には熱心でしたから、多少の問題があっても動揺することはなかったはずです。でも、ここ数ヶ月の彼の様子は、何かもっと個人的な問題を抱えているように見えました。」
話を聞いている間、レナードは黙って腕を組み、私たちの会話を見守っていた。私が目を向けると、彼は無言のまま頷き、話す準備ができていることを示した。
「レナードさん、あなたはギョームさんの相談相手だったと聞いています。彼が何か特別なことについて話していた様子はありませんでしたか?」
レナードはしばらく黙り込み、目を細めた。彼の言葉は慎重で、しかし重みがあった。
「確かに、ギョームとはよく話をしていた。家業のことはもちろんだが、最近では村の人間関係についても気にしていたな。地主として、村の発展に力を尽くしたいという思いが強かったからだろう。」
「村の人間関係、というのは?」
「彼は、何人かの村人が彼に反感を抱いていることを気にしていたようだ。特に、収穫祭の準備を巡って、村の若者たちとの間に溝ができていたようだな。祭りの資金の使い道を巡って意見が対立したと聞いている。」
「そのような対立が、彼の死に関係している可能性は?」
「それは分からない。ただ、彼の死が村人たちにとって都合が良いと考える者がいたとすれば、疑念が湧くのも無理はない。」
「ギョームさんの死因について、毒殺の可能性が取り沙汰されています。そのような噂が広まった理由について、何か心当たりはありますか?」
私の質問に、アデルは眉を寄せた。
「それは……レナード叔父さんが見つけた薬草のせいかもしれません。父が亡くなった日、台所に見慣れない薬草が置かれていたんです。レナードは誰が持ち込んだのかエミールに尋ねましたが、結局分からずじまいでした。そしてアラン先生が言うには、毒殺の可能性があると……」
「その薬草について、詳しく調べることは?」
アデルは首を振った。
「そんな余裕はありませんでした。父が倒れた後は、家中が混乱していて……誰もその薬草のことを気に留めていませんでした。いつの間にか、失っていました」
レナードがそこで口を挟んだ。
「村の医者に見せるべきだったな。だが、あのときはギョームがすでに亡くなっていて、それどころではなかった。」
話が進むにつれて、アデルとレナードの間には微妙な緊張感が漂っていることに気づいた。二人の間に直接的な対立は見られないが、どちらもお互いに完全には信頼していないようだった。
「レナード叔父さん、あなたは父の後を継ぐつもりだったんじゃないの?」
突然、アデルがそう言ってレナードを睨んだ。彼は少しも動じることなく、静かに答えた。
「私はギョームの手助けをしていただけだ。その立場を超えて、家の財産をどうこうしようという考えはない。」
「でも、兄さんが亡くなった今、家の責任を負うのは叔父さんじゃないの? それを望んでいる人もいるんでしょう?」
アデルの言葉には棘があった。その背後には、ギョームの死がもたらした家族内の力関係の変化が透けて見える。
話を聞き終えた私は、彼らの家を出ながら複雑な思いを抱えていた。ギョームの死を巡る状況は、村の中での不和や家族内の緊張を浮き彫りにしていたが、それが誰かの殺意に繋がる決定的な証拠にはなっていなかった。
だが、薬草という手がかり、そして親族たちの間に潜む微妙な不信感は、この事件の背後に隠された真実を指し示しているように感じられた。次に進むべき方向が、少しずつ見えてきた気がした。