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4 医者アラン


村は祭りの喧騒が収まった後の静寂が包み込んでいる。


だが、村の医者、アランの家に向かう道すがら、ダリーはいくつもの視線を感じた。人々は窓越しに、あるいは扉の陰からこの捜査官を見つめていた。彼の存在が村に波紋を広げていることは明らかだった。


ダリーは何人かの村人から声をかけられたものの、彼らはどこか不安げで、言葉を濁すばかりだった。疑念と恐れが村中に満ちているのを肌で感じながら、彼はその原因を明らかにしなければならないという責任感を胸に抱いていた。


アランの家は村の外れにある簡素な建物だった。小さな庭にはいくつかの薬草が植えられており、整然とした手入れが行き届いている。ダリーは扉をノックすると、中から低い声で「どうぞ」との返事が聞こえた。扉を開けると、薬草の香りが漂い、木製の棚には多種多様な薬瓶が整然と並べられていた。


医者アランは中年の男性で、落ち着いた態度と鋭い眼差しが印象的だった。彼は小さな机に向かって仕事をしていたが、ダリーが入ってくるとすぐに立ち上がり、手を差し伸べた。


「あなたが捜査官のダリーですね。修道士シモンから話を聞いています。どうぞ、おかけください。」

アランは椅子を勧めながら、静かな口調で言った。


ダリーは礼を述べて椅子に腰を下ろし、単刀直入に切り出した。

「ギョームの死因について詳しくお聞きしたい。修道士シモンから手紙を受け取り、この事件に興味を持ちました。」


アランは深く息を吸い、静かに語り始めた。

「ギョームの遺体を診たとき、外傷も病気の兆候もありませんでした。ただ一つ、奇妙な点があったのです。彼の口元にわずかに泡立った痕跡があった。それは、毒物を摂取した際によく見られる症状です。しかし、この村ではそんな毒物が簡単に手に入るとは思えません。」


ダリーはメモを取りながら続けた。

「村には毒性のある植物が自生している場所や、それを扱える人間はいますか?」


アランは一瞬考え込み、首を横に振った。

「この辺りでは特に危険な植物は見当たりません。それに、私の知る限りでは、村人たちに毒物を扱える知識や技術を持つ者はいないはずです。ただ…」

彼は言葉を濁した。


「ただ…?」とダリーが促すと、アランは少し声を潜めて言った。

「ギョームは健康に気を遣っていて、定期的に薬草を使っていたようです。彼が自らの健康のために取り寄せた薬草の中に、何らかの混入があったのかもしれません。しかし、それを確認する術はありません。私が診察する前に、それらはすでに片付けられていましたから。」


ダリーの眉がわずかに動いた。

「片付けたのは誰ですか?」


「エミールです。」アランは間を置かず答えた。「父親の遺体を片付けた後、部屋を清めるためだと言っていました。確かに、ギョームの部屋は非常に整然としていました。しかし、彼が片付ける過程で何か重要な手がかりが失われていた可能性も否定できません。」


ダリーはさらに質問を続けた。

「村の祭りの準備中、ギョームとエミールの間に何か争いがあったという噂を聞きました。何か心当たりは?」


アランは少し躊躇した後、答えた。

「正直に言えば、ギョームは家族との関係が円満とは言えませんでした。特にエミールとは頻繁に口論をしていたようです。しかし、それが命を奪う動機になるとは思えません。」


ダリーは一呼吸置いて、話題を変えた。

「ところで、修道士シモンについてもお聞きしたい。彼の人となりや、事件後の様子について何か情報はありますか?」


アランの表情が微かに陰った。

「シモンは非常に信心深く、正義感の強い人物でした。何事にも疑問を持ち、真実を追求する性格です。ただ、それが彼を危険な状況に追い込むこともありました。事件後、彼はギョームの死について独自に調べているようでした。」


「具体的にはどんな調査を?」

ダリーが身を乗り出すと、アランは静かに首を振った。


「彼は、ギョームが愛用していた薬草や、それらがどのように扱われていたかを詳しく調べていました。そして、毒物の可能性を排除するために、私に何度か助言を求めてきたのです。しかし、彼が見つけたものについて、彼は多くを語りませんでした。それが何を意味するのかを解明しようとしていた矢先に…」


「何か起きたのですか?」


アランは声を落として答えた。

「実は、彼をここ数日見かけていないのです。いつもなら礼拝堂で村人と祈りを捧げる姿が見られるのに、突然いなくなった。心配しています。」


ダリーはシモンの不在が事件と関係しているのではないかと直感し、険しい表情でメモを閉じた。

「ありがとうございます、アラン。あなたの話は非常に重要です。村を調べる中で何か掴めるかもしれません。」


アランは軽く頷き、ダリーを見送った。

「この村の人々は皆、事件の解決を願っています。私もできる限り協力しますので、何かあればいつでもお訪ねください。」


ダリーは礼を述べ、医者の家を後にした。彼の心にはいくつもの疑念が渦巻いていた。ギョームの死、エミールの行動、シモンの行方不明。これらがどのように絡み合い、一つの真実を紡ぎ出すのか、まだ分からなかった。しかし、全ての手がかりがこの村にあることは確信していた。

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