1 辺境の村からの手紙
王国捜査官ダリー様
謹啓
この度、辺境の村で起きた不審な事件に関し、調査の手を差し伸べていただければと筆を執っております。
ご存知の通り、当村は王国の辺境に位置し、普段は静かな生活が営まれております。しかし、今年の祭りの日に起きたある事件が、村全体を大きく揺るがすこととなりました。
事件の発端は、村の有力者であり地主でもあったギョームが、突然命を落としたことです。彼は普段より健康には気を使い、日々を穏やかに暮らしていた人物であり、事件が起きる前日も何事もなく平穏に過ごしていたと聞いております。それが一夜明けて彼の遺体が発見された時、彼の体には外傷もなく、病気の兆候も見られませんでした。
村の医者であるアランが遺体を調査したものの、死因を突き止めることができず、家族や村人たちの間には不安と疑念が広がりました。ギョームの親族は、彼が毒殺された可能性が高いと主張し、遺産相続の立場にあった息子エミールに疑惑の目を向けました。確かに、エミールには相続人としての動機があり、彼が何らかの手段で父を毒殺したのではないかという噂が急速に広がりました。
疑惑が渦巻く中、村の長老たちは事件の真相を探るために何かしらの決断を下す必要があると感じました。しかし、証拠が何もない状況では、法的な裁きも行うことができませんでした。そのため、司祭アントンの提案により、村で伝統的に行われる「神明裁判」が実施されることになったのです。これは、神の御加護によって罪を浄化するという古い儀式で、今回は「火掴みの試練」が行われました。
エミールは神への信仰が篤く、試練を受けることを受け入れました。「火掴みの試練」は、灼熱の鉄を掴み、それに火傷を負わなければ無実が証明されるというものでした。村の人々は息を呑みながら試練を見守り、彼が無事にその鉄を掴んで聖堂にたどり着いた時、彼の手には火傷が一切見られませんでした。人々はこれを「神の御業」とし、エミールの無実を信じ、歓声が湧きました。
神明裁判の結果により村の疑念は鎮まりましたが、私はいくつかの疑問が残っております。村の捜索中に、ギョーム様の家に見慣れぬ香草があることに気付いたのです。この香草は一般的なものではなく、村に自生しているものでもなく、ましてや村人が日常的に使用するものでもありません。この香草がどうしてギョーム様の家にあるのか、そしてそれが急死に関係していないのかを考えずにはいられませんでした。
この香草は、通常村の外でしか入手できないものであり、何者かが意図的に持ち込んだ可能性があります。もしそれが毒性を持つものであれば、ギョーム様の急死が偶発的な事故ではなく、計画的なものかもしれません。この村には毒物の扱いについて精通した者は少なく、誰か外部からの手が関与しているのではと危惧しております。
王都からお力添えを賜りたく存じます。村の信仰と安寧が保たれることを祈りつつ、何卒ご助力くださいますようお願い申し上げます。
敬具
修道士シモン
王国捜査官ダリー視点で物語は進みます。