【51話】トドメ
青い炎が霧散したかと思われたが、崩れ落ちた漆黒の甲冑の隙間で、種火のように小さく揺らめいていた。しぶとい。流石は深層クラスのレアモンスターだ。首の断面にあたる部分で、最後の命脈を保っているらしい。
「はぁ……はぁ……」
俺は荒い息を整えながら、動かなくなった巨体に歩み寄る。左腕の感覚はまだ戻らないが、勝負はついた。今はただ、勝利の報酬を受け取るだけだ。
『おい、火が消えるぞ。急げ』
グリムに急かされ、俺は膝をついて、その儚げな青い炎に手をかざした。熱さは感じない。むしろ、背筋が凍るような冷たさを感じる。俺は意識を集中し、その魂の核に触れた。
瞬間、指先から冷たい電流のようなものが流れ込んでくる。それは力強い鼓動となり、俺の体内で新たな回路を繋いでいく感覚。脳裏に、景色がコマ送りのように飛ぶイメージが焼き付く。
『【瞬動】だな。予備動作を完全に消し、短距離を一瞬で詰める歩法だ。お前の反射神経と【速攻】があれば、文字通り「消える」動きができる』
グリムの解説を聞きながら、俺は掌を握りしめた。あの理不尽なまでの加速。認識の外側を駆ける移動術。それを俺自身が使えるようになった。これだけでも、今日の死闘の価値はある。
だが、まだ終わりじゃない。俺は残った力を振り絞り、腰の鞘に納めていた漆黒の短剣――『影刃』を抜き放った。
「いい練習相手だったよ。……あばよ」
俺は短く告げると、揺らめく青い炎の中心に、影刃を無慈悲に突き立てた。
ジュッ……
水が蒸発するような音と共に、青い炎は完全に掻き消えた。それを合図に、黒い甲冑がサラサラと砂のように崩れ落ち、黒い霧となって霧散していく。
カラン、ゴトッ。
重厚な音が静寂な森に響いた。霧が晴れた後に残されたのは、二つのアイテム。
一つは、青白く輝く拳大の魔石。『デュラハンの魔石』。オーガやウルフのものとは比べ物にならない、高密度の力を感じる。
そしてもう一つは、デュラハンが振るっていたあの武器だ。
「……でかいな」
俺は地面に突き刺さったままの大剣を引き抜こうと手を伸ばした。 『首狩りの大剣』。 身の丈ほどもある刀身は漆黒に染まり、刃の部分だけが不気味に赤く脈打っている。ずっしりとした重量感が腕に伝わる。重心が極端に先端に寄っており、遠心力で叩き斬ることに特化した武器だ。 今の【身体強化】がある俺でも、片手で扱うには骨が折れそうだ。
「ま、俺のスタイルじゃないが、売ればいい値になるだろ。あるいは、いざという時の重量兵器として取っておくか」
俺は【収納】を開き、大剣と魔石を放り込んだ。 空間に吸い込まれていく戦利品を見届け、ようやく俺は大きく息を吐き出して、その場に大の字に寝転がった。
「……帰ろう。流石に、限界だ」
このままデュラハンの魔石を売ったらランクアップ試験受けさせられそうだし断るのもめんどくさいから帰ろう。
空を見上げると、木。 最強の盾【絶対領域】の検証と、新たな移動スキル【瞬動】の獲得。そしてレアモンスターの討伐。 十分すぎる戦果だ。
俺は痛む体を起こし、重い足取りで帰路についた。横浜の件も、今日のデュラハンも、全ては生き残るための糧だ。次の一週間も、きっと俺は生き延びる。
暗い森を抜ける俺の足取りは、疲労とは裏腹に、どこか確信に満ちていた。




