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【46話】潜入

長くなったので分割

【46話】潜入


 土曜深夜、1時50分。  横浜港D地区は、深い静寂と潮風の音に支配されていた。  俺は取引現場である第7倉庫を見下ろせる、巨大クレーンの操縦室に潜んでいた。眼下では、統一された装備に身を包んだ男たちが慌ただしく、しかし規律正しく動き回り、最後の警備体制を整えている。まもなく、取引相手である海外マフィアが到着するだろう。


「…時間だな」


 俺は【収納】空間から手製の装備を取り出し、最終確認を行う。衝撃で炸裂するよう調整した「閃光茸」のポーチと、濃い煙を発生させる「煙幕苔」の袋。そして、腰には『影刃』。準備は万端だった。  最後に、俺は今回の作戦の要となるスキルを発動させる。


「【変身】」


 意識を集中させると、俺自身の肉体が軋むような感覚を覚えた。鏡はないが、顔の筋肉が微かに動き、骨格がゆっくりと変形していくのが分かる。偵察時に記憶した、巡回警備兵の一人。目つきの鋭い、ありふれた顔。身長を数センチ伸ばし、肩幅を少し広げる。服の下で筋肉の付き方が変わっていく。それは魔法のような変化ではなく、もっと生々しい、物理的な再構築だった。


 ほんの十数秒で、俺は「飯野風雅」ではない、名も知らぬ警備兵の一人に成り代わっていた。


 クレーンから静かに降り立ち、俺はごく自然に警備の列に紛れ込む。俺の新しい顔に、誰も疑問を抱かない。これも黒川さんの情報のおかげだ。彼ら特殊警備部「KSS」の警備兵は複数のチームから集められた傭兵で構成されており、互いの顔を知らない者も多いという。すれ違う警備兵の装備を見る。全員が『G-フレーム』と呼ばれる強化外骨格を装着しており、微弱な駆動音が響いている。並の身体強化スキル持ち程度の腕力はあるだろう。油断はできない。


 倉庫の内部に足を踏み入れる。中央では、スポットライトに照らされて、まさに取引が始まろうとしていた。  白衣の上に高級スーツを羽織った男――株式会社黒鉄技研の代表、織田鉄斎(おだてっさい)と、屈強なマフィアたちがテーブルを挟んで対峙している。テーブルの上には、鈍い金属光沢を放つ大型の銃器が鎮座していた。あれが試作型携帯レールガン『雷神』か。


 そして、織田のすぐ隣に、その男はいた。『不動』井川賢二(いかわ けんじ)。微動だにせず、しかしその視線は部屋の隅々までを鋭くスキャンしている。まるで機械のような精密さ。あれが【絶対領域(ドミニオン)】の使い手か。


(…計画通り、奴を孤立させる)


 俺は警備の配置につきながら、懐の煙幕苔の袋にそっと触れた。  …取引が始まり、マフィアが『雷神』の砲身を検分し始めた、その瞬間だった。俺は【影】を使い、倉庫の反対側、資材が山積みになっている暗がりへと、煙幕苔の袋を音もなく滑り込ませた。


 ボンッ!


 鈍い破裂音と共に、苔の胞子が周囲に濃い白煙を撒き散らす。


「何だ!?」「敵襲か!」


 KSSの警備兵たちが一斉にそちらへ銃口を向ける。マフィアたちも動揺し、取引は中断された。


「織田様、こちらへ!」


 G-フレームを着た警備兵たちがリーダーの周りに壁を作る。だが、『不動』の動きは違った。彼は織田の安全を他の兵士に任せ、自らは脅威の根源である煙の発生源へと、冷静に歩を進め始めた。


(…かかった!)


 『不動』が織田から離れ、他の警備兵たちの死角に入る。その一瞬を、俺は見逃さなかった。  俺は壁の影に溶け込むように移動し、『不動』の進路上に回り込む。そして、懐から閃光茸のポーチを取り出した。  俺と『不動』の距離が、5メートルを切る。  彼は俺の気配に気づき、鋭い視線を向けた。だが、もう遅い。


「これで、チェックメイトだ」


 俺は閃光茸のポーチを足元に叩きつけ、強烈な光が炸裂するのと同時に、地を蹴った。  闇と静寂に包まれた倉庫は、一瞬にして光と混乱の渦に叩き込まれる―――はずだった。

次回、【47話】飽和攻撃

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