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【44話】標的選定

ここらへん曖昧

 自室の机の上で、新しくなったDランクの冒険者カードが鈍い光を放っている。世間的に見れば、それは確かな前進の証のはずだった。だが、今の俺にとって、それはただの飾りでしかない。


「ケッケッ…浮かれている場合か?お前の命の砂時計は、もうほとんど落ちきっているぞ」


 部屋の隅の影から、グリムの声が響く。その声は、俺の焦りを的確に抉り取ってくる。


「分かってる…カッコつけた言い方をするな」


 俺は応え、椅子に深く座り直した。リミットとの戦いで露呈した、己の弱点。それがあの敗北寸前の状況を生み出した。


「俺の戦い方は、あまりにも力と再生に頼りすぎている」


 口に出して、問題を整理する。【身体強化】で押し、【再生】で耐える。それは格下の相手や、単純な力比べでは通用する。だが、リミットのような特殊な領域スキルを持つ相手には、あまりにも無力だった。ペナルティによる内部破壊を、【再生】で無理やり治しながら戦うなど、消耗戦ですらない。ただの自殺行為だ。


『ようやく気づいたか。お前には決定的に「守り」と「対応力」が足りん』


 グリムの指摘はもっともだった。攻撃をいなす、無効化する、あるいは予測する。そういった、相手の土俵に上がらないためのスキルが必要だ。


「次のターゲットは、それで決まりだ。防御系か、あるいは特殊な移動系のスキルを持つ能力者…」


 問題は、そんな都合のいい相手がどこにいるかだ。闇雲に探している時間はない。俺はスマートフォンを手に取り、一つの連絡先に電話をかけた。呼び出し音が数回鳴った後、落ち着いた男の声が聞こえる。


「……もしもし」


「黒川さんか?俺だ」


「ええ、分かっておりますよ、飯野さん。それで、ご用件は?」


 情報屋、黒川修司。彼の声はいつも通り、感情が読めない。


「次のターゲットを探している。条件は二つ。一つは防御、あるいは回避に特化したスキルを持っていること。もう一つは…奪っても後腐れのない、悪党であることだ」


 電話の向こうで、黒川が小さく息を呑むのが分かった。


「…なるほど。随分と具体的なご依頼ですね。もちろん、情報がないわけではありません。ですが、タダとはいきませんよ」


「金ならある。」


「わかりました。」


 黒川は手元の資料をめくる音をさせながら、いくつかの候補を挙げ始めた。違法な賭博の元締め、敵対組織を潰して回る殺し屋…どれも悪党ではあるが、俺の求めるスキルとは少し違う。俺が黙って聞いていると、黒川は「…とっておきが一人います」と続けた。


「その男は、とある武器密売組織の専属警護役。通称、『不動』。彼のスキルは【絶対領域(ドミニオン)】。自身の周囲に不可視の障壁を展開し、あらゆる物理攻撃を遮断する、まさしく鉄壁の防御スキルです」


【絶対領域】。その名を聞いただけで、俺はゴクリと喉を鳴らした。リミットの【スピードリミット】とは違う、純粋な防御。これさえあれば、不意の奇襲や、回避不能な攻撃にも対応できる。


「そいつの居場所は?」


「明日の深夜、横浜の港で大規模な取引が行われます。彼はその警護として必ず現場に現れるはずです」


 横浜。少し遠いが、行くしかない。


「助かるよ。」


「毎度ありがとうございます。…飯野さん、ひとつだけ。相手はプロの犯罪組織です。くれぐれも、ご慎重に」


 その忠告が、彼のビジネスライクな計算によるものか、それとも僅かな善意なのかは分からなかった。


 電話を切り、俺は立ち上がった。ターゲットは決まった。武器密売組織『黒鉄技研』の警護役、『不動』。スキルは【絶対領域】。


 Dランク冒険者としての顔の裏で、俺はスキルを狩るための計画を静かに練り始める。それは、生き残るための、ただ一つの道だった。

絶対領域を持っているからと、黒タイツ太ももチラ見せの筋骨隆々のハゲは出てきません。

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