【43話】昇格の証明
ゴブリンロード久しぶり
ゴブリンロードの巨大な斧が、風を切り裂きながら振り下ろされる 。俺は【身体強化】を最小限に留め、紙一重でその一撃を回避した 。轟音とともに斧が床を砕き、衝撃で足元が揺れる。
「危ないな…!」
俺は即座に距離を取り、【影】を四方八方に展開する 。影の触手がゴブリンロードの足に絡みつき、その動きを封じようと試みる 。しかし、ボス格のモンスターだ。筋力だけで影の拘束を強引に引きちぎってしまう。
「やはり、小細工だけでは厳しいか」
佐々木さんの視線を感じながら、俺は思考を巡らせる。彼女に不審に思われず、かつ、この巨体を仕留める方法。
(――やるしかない)
俺は再びゴブリンロードに接近する。奴の攻撃パターンは単調だ。大振りの斧による薙ぎ払いか、叩きつけ。その隙は大きい 。
斧が横薙ぎに迫る。俺は低く屈み、その懐へ滑り込むように潜り込んだ。
「ここだ!」
そのままゴブリンロードの背後に回り込み、【影】を今度は腕に集中させる。影が奴の両腕を背後からきつく縛り上げ、斧の動きを完全に封じた。
「グオオオオ!」
ゴブリンロードが苦しまぎれの咆哮を上げる。その隙を、俺は見逃さない。
「【収納】」
心の中で呟くと同時に、俺の影の中から【影刃】が滑り出す 。まるで影から武器を生成したかのように見せかける 。
佐々木さんが息を呑むのが分かった。
俺は影刃を逆手に握りしめ、拘束されて無防備になったゴブリンロードの首筋、その急所目掛けて全力で突き立てた。
「終わりだ!」
確かな手応え。ゴブリンロードは断末魔の叫びを上げることなく、その巨体をゆっくりと傾かせ、やがて地響きを立てて崩れ落ちた。
静寂が戻った部屋で、俺は荒い息を整える。
「……お見事です」
拍手とともに、佐々木さんが近づいてきた。その表情には、隠しきれない驚きと興奮が浮かんでいた。
「【影】から武器を…?おもしろいですね」
「運が良かっただけですよ」
俺は影刃を再び影の中にしまいながら、そう言って笑った。
「試験はこれで合格です。ギルドに戻り次第、ランクアップの手続きを行いましょう。Dランク昇格、おめでとうございます、飯野風雅さん」
佐々木さんはそう言って、俺に右手を差し出した。俺はその手を、少しだけ震える手で握り返した。
ギルドに戻り、手続きは滞りなく進んだ。冒険者カードが更新され、EからDへとランクが書き換わる。それは小さな変化だったが、俺にとっては大きな一歩だった。
「今後のご活躍を期待しています」
佐々木さんの言葉に送られ、俺はギルドを後にした。外はすっかり日が暮れている。
Dランク冒険者、飯野風雅。その新しい肩書を噛みしめながら、俺は夜の雑踏に紛れていく。平穏な日常の裏で、タイムリミットは刻一刻と迫っていることを、俺は忘れてはいなかった。
次回、作戦会議




