【42話】試験開始
大急ぎ
眼の前のスライムと対峙して、俺は気づいた。試験のときは使えるスキルが限られていると。【影】と【収納】と隠し味程度の【身体強化】が限界だろう。【収納】は【影】の新たな使い方と誤魔化している。
影刃を取り出す必要はない。【影】で巻取り、潰す。【影】は精神力の問題と、グリムが以前言っていたが、【身体強化】や他のスキルを得て、更に威力が増している。フィジカルがメンタルをつくるのである。
そうして潰しながら進んでいると、すぐに2階層についてしまった。
「では、始めます」
佐々木さんの静かな声が、ダンジョンの入り口に響いた。俺は頷き、先行して二階層へと向かう通路に足を踏み入れる。背後から佐々木さんがついてくる気配を感じながら、俺は意識を集中させた。
通路を進むと、早速ゴブリンの小隊が姿を現した。奴らは俺に気づくと、奇声を上げながら棍棒を振り上げて突進してくる。
「まずは、手並拝見といったところですか」
俺は影刃を【収納】にしまったまま、右手を前に突き出した。
「【影】」
俺の足元から伸びた影が、まるで生き物のようにゴブリンたちの足元に絡みつく。先頭のゴブリンがもんどりうって転び、後続のゴブリンも次々と体勢を崩した。俺はその隙を逃さず、影を鞭のようにしならせて一体ずつ打ち据える。鈍い打撃音が響き、ゴブリンたちは抵抗する間もなく塵へと変わっていった。
「…素晴らしい【影】のコントロールですね」
背後から聞こえてきた佐々木さんの声には、純粋な感嘆が混じっていた。
「ありがとうございます。これしか取り柄がないので」
俺は謙遜しながら、内心では冷や汗をかいていた。今の動きも、微量の【身体強化】で身体の軸を安定させていたからこそ可能だった。バレてはいないだろうか。
「それにしても、飯野さんのスキルは本当に【影】だけですか?以前の報告では、オーガやロードウルフまで単独で討伐されているとか。Eランクの冒険者が成し遂げるには、あまりにも規格外の戦果ですが」
鋭い質問が飛んでくる。俺は心臓が跳ねるのを感じながらも、平静を装って答えた。
「ええと…相性、ですかね。俺の影は、ああいう図体の大きい相手には特に効果的なんです。動きを拘束して、じっくり弱点を攻めれば、なんとか」
我ながら苦しい言い訳だ。だが、佐々木さんは「なるほど」と呟き、それ以上は追求してこなかった。彼女の表情は読めないが、少なくとも今は納得してくれたらしい。
そうして俺たちは、危なげなく二階層の最奥、ボス部屋の扉の前にたどり着いた。
「ここが終点です。ゴブリンロードを討伐すれば、試験は合格となります」
「分かりました」
重い石の扉を押し開ける。広い空間の中央には、二階層の主であるゴブリンロードが鎮座していた。俺の姿を認めると、地を揺るがすような咆哮を上げ、巨大な斧をその手に構える。
佐々木さんが壁際に下がり、試験の開始を静かに見守っている。
「さて…派手なスキルは使えない、か」
俺は静かに息を吸い込み、地を蹴った。
次回もお楽しみに




