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【34話】速度制限

長めです

影山と悠里を無力化した俺の前に、新たな敵、リミットが現れた。『ブラッドドラッグ』の頭領と名乗る男——その言葉に少しの興味を抱いたが、俺の目的は一つ。とにかく逃げることだ。少しみっともないような気もするが、捕まったら元も子もない。


リミットは不敵な笑みを浮かべながら、ゆっくりと俺の方に歩み寄ってきた。


「この俺を相手に、”知らん”とはな。だが、あんたが持っているものは、ここで渡してもらう」


言葉とは裏腹に、リミットの目には油断が見えない。俺もすでに戦闘モードに入っていた。狭い取引室の中、緊張が張り詰める。


「無駄口は終わりだ。かかってこい」


リミットは挑発に乗ることなく、瞬間的に俺の目の前に姿を現した。速い——。だが、俺も一瞬の油断もしない。風が生じたその瞬間に、俺は手元に持っていた結晶石を収納空間にしまい、リミットの拳を避けて間合いを取った。


()()


俺がかすかに身をかわしたその瞬間、リミットの拳が地面を叩きつけた。まるで小さな爆発でも起きたかのように、床が音を立てて崩れた。目の前に立つこの男は、ただの力任せの敵ではない。彼の力には何かしらのスキルが込められている。


「その程度か?」


俺は無駄な挑発をしない。だが、油断はできない。リミットは再び速い動きで俺に突っ込んできた。


「無駄だ」


リミットの言葉通り、次々に繰り出される拳と足技は正確で、一撃一撃が重い。俺も【グリム】を使ってリミットのスキルを奪う隙を狙うが、彼はそれを察知しているかのように攻撃の手を緩めない。


()()


またもや強烈な打撃が俺の防御を揺るがす。だが、ここで怯むわけにはいかない。リミットが近距離戦に持ち込んでいる間、俺は彼の動きを見極めるために集中した。彼のスキルの正体を探るのも重要だ。


「返してくれれば…それでいい。それでいいんだ」


「そう…かッ!!」


そういい俺は【身体強化】を開放し、拳を叩き込みに行く。


「【スピードリミット】」


《速度制限が適用されました。範囲内にて制限速度を超えるとペナルティが発生します》


なんだこれ。声がする。まずい、急には止まれないッ!


《ペナルティが適応されましした》


その瞬間、俺の体が破壊的な痛みに襲われる。内部が引き裂かれるような激痛が襲い、内臓がずたずたにされる感覚が広がった。


「ッ、痛……!」


俺は思わず膝をつき、苦しい声を漏らす。体が重く、動くのが困難だ。次第に視界が暗くなり、呼吸も困難になっていく。


グリム、どういうことだ。


『【スピードリミット】はその名前の通り、一定以上の速度を出すとペナルティとしてダメージを受ける、というものだろう。動きからするにリミット自身も例外ではない。奴の動きは明らかに遅い。おそらく、あいつを中心とした領域内の生物に適応されるものだ』


ありがたい解説だが、どうしようか。


リミットは俺が考えている隙に、さらに強力な一撃を放ってきた。俺の体が打ちつけられ、さらに痛みが増す。もう逃げる力すら残っていない。


「もう終わりだな」


リミットの声が冷たく響く。俺の体は限界に達し、動くこともままならない。だが、諦めるわけにはいかない。目の前のリミットから逃げるチャンスを探さなければならない。


リミットの足音が近づく。その瞬間、俺は意識を絞り出して、取引室の出口に向かって一歩を踏み出した。内臓の激痛と息の詰まりながらも、何とか立ち上がり、限界を超えて脱出を図る。


まず、【再生】✕6を消費、体を全回復させる。苦しんだふりは忘れずに。そこから走る!


「ふぅ…GO!」


「【スピードリミット】」


《速度制限が適用されました。範囲内にて制限速度を超えるとペナルティが発生します》


「ふっ、馬鹿め」


《ペナルティが適応されました》


「いってええぇえ!!」


ここまで狙い通り。リミットが追いかけるために走ってきた瞬間、【影】を勢いよく伸ばし、リミットを拘束する。


「んなっ!」


速度制限が適応されるのは生物。【影】は生物には入らない。この隙を使い、逃げる。


【身体強化】を開放し、【再生】を消費しまくる。範囲外に出てしまえば、こちらのものだ。


俺は走った。


地上に出た瞬間、俺は思わず深呼吸をした。新鮮な空気が肺に流れ込む。地上だ。東京の雑踏(ざっとう)に戻ってきたことに、少しの安心感を覚える。目の前に広がるのは、ネオンが光る歌舞伎町。夜の街は相変わらず喧騒(けんそう)に満ちていた。


「……やっと抜け出せたか」


周りの人々は、俺がどんな戦いをくぐり抜けてきたかなんて知る(よし)もない。ただ、飲み歩く人々の笑い声と車のクラクションが響く。俺はその人混みを()き分けるように歩き、新宿駅へと向かう。冷たい夜風(よかぜ)が、今までの戦いの余韻(よいん)を少しだけ和らげてくれるようだった。


「……駅までたどり着けば、もう少しだけ休める」


ようやく目に入った新宿駅の看板。俺は、無意識に安堵(あんど)のため息をついた。駅の明かりがやけに温かく見える。少なくとも、もうすぐ電車に乗って家に帰れると思うと、全身の緊張が少しだけ緩んだ。


駅の改札を抜け、ホームで電車を待つ間、俺はふと腕の痛みに気づいた。先ほどの戦いで負った傷が、まだ治りきっていない。擦り傷からは少し血が滲んでいる。


「グリム、【再生】の残りは?」


『……悪いが、使い切ってる。』


その答えに、胸がざわつく。【再生】がもうない。スキルがなきゃ、こんなかすりきずすら。


『あれだけ内臓をやられればな』


「……そうか。まあ、なんとか生き延びたし、よしとしよう」


電車がホームに入ってくる音が聞こえた。俺はそれを見ながら、残された体力と限界を知りつつも、再び気を引き締めた。次に同じ状況に(おちい)ったとき、同じように乗り越えられるとは限らない。


夜の冷たい空気が、疲れ切った体にしみ込むように感じられる。ようやく自宅の門が見えてきた。


玄関の鍵を開けると、静かな空間が広がった。俺は靴を脱ぎ、そのままリビングへ向かう。


「……ただいま」


疲れた体をソファに沈めると、一気に緊張が解けた。何も言わず、ただ目を閉じ、深く息をついた。家の静けさが、ようやく自分の居場所に戻ったことを実感させてくれる。

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