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【33話】謎の男―その名は、

ボス戦

影山を無力化した俺は、意識を失った彼を片手で持ち上げ、部屋の片隅に放り投げた。今の俺の目の前にいるのは、もうひとりのターゲット、【収納】の能力者である悠里だ。彼女の表情には明らかに恐怖が浮かんでいる。影山が倒れた今、悠里一人で俺に対抗することなど到底不可能だと理解しているようだった。


「血晶石はどこだ?」俺は冷静に問いかけた。


悠里はすぐに答えず、何かを企んでいるような目をしていた。しかし、逃げ場はない。俺が取引室に入ってからここまでの数分で、彼女の仲間たちは全員倒れ、取引は完全に失敗に終わっている。


「……無駄よ、あんたが何をしようと、この場からは持ち出させない」


悠里は震える声で言いながらも、何かの準備をしているように見えた。だが俺は動じない。彼女がどんな策を巡らせようと、俺にはすべてを見通す手段がある。彼女の【収納】というスキルは、物理的にどんな大きな物でも自分の空間に隠すことができる能力だ。通常の手段ではその収納された物を見つけるのはほぼ不可能だが、【グリム】にかかれば話は別だ。


「最後のチャンスだ。無駄な抵抗はやめて、血晶石を渡せ」


悠里は一瞬だけ目を伏せた後、静かに手を差し出した。しかし、その動きからただ従うつもりではないことが見て取れた。彼女が【収納】から何かを取り出そうとした瞬間、俺はその動きを察知して間合いを詰めた。


「ッ……!」


悠里が驚く間もなく、俺は彼女の腕をねじり、その手から物を取り上げた。彼女が取り出そうとしていたのは、小さな黒い球体だった。それが爆発物か、または何かしらのスキルを引き出すための道具かは分からないが、俺の前では無力だ。


「終わりだな」


彼女の目には絶望が浮かんでいた。その瞬間、俺は【グリム】を発動させた。悠里の【収納】のスキルが俺の手の中に吸収され、彼女の能力が俺のものとなる。その瞬間、体が重くなった気がした。彼女の収納空間が俺のものになり、結晶石も俺のものとなる。


空間の中に手が沈み、ものを取り出せる感覚がする。


「血晶石はここだ」


俺は血晶石を手に取り、悠里を無力化するために、抵抗はあったが、彼女の顔面に蹴りを入れを軽く突き飛ばした。彼女は壁に叩きつけられ、気を失った。これで、俺の目的は達成された。血晶石は確保し、彼らの取引を完全に潰した。


だが、その時、取引室の奥から突然、もう一つの気配を感じた。静かにしていたが、そこに存在していた別の者が動き出す気配。鋭い眼差しを向けると、影山や悠里とは違う雰囲気を持つ男が現れた。


「ほう、やっと姿を現したか……」


そいつは俺の方へ歩み寄ると、不敵な笑みを浮かべた。身なりは整っているが、その背後に漂う異様な力を俺は感じ取っていた。


「俺の名前はリミット。『ブラッドドラッグ』の頭領と言えばわかるかな?」


そう言って男は構えてもらったのはいいが、誰だか全くわからん。


「知らん。だが、手加減はしない」


俺は静かにそう呟き、対峙する準備を整えた。次の瞬間、激しい戦いが始まる。

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