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奪われた力 ー『影山啓吾の場合』

相手視点。この人物は一体誰なんだろーーー

今日の取引が何事もなく終わることを願いながら、俺は取引場所である地下の取引室に向かった。俺の名は影山啓吾(かげやまけいご)、【変身】のスキルを持つ能力者だ。このスキルのおかげで、どんな顔にも、どんな姿にも変わることができる。今日もその力を最大限に活かすつもりだ。


取引前の準備は万全だった。仲間である【収納】のスキルを持つ女、悠里(ゆうり)が血晶石を完璧に隠し持っている。俺達『ブラッドドラッグ』という組織は、能力者を中心に据えることで、どんな取引でも成功に導けるシステムを持っている。


取引室に入ると、すでに他の仲間が準備を整えていた。中央のテーブルには、今日取引する血晶石が並べられている。俺は自分の席に着き、相手が来るのを待った。


やがて、取引相手が到着した。俺は自分の顔を少し変えて、普段とは異なる姿を取った。これで相手に俺の本来の姿を知られることはない。


今回はギャングが相手、なにせ、例のハルトとかいう身体強化系のスキル持ちが失脚してスムーズに物事が運んでないらしい。


取引が始まった。金額の交渉や条件の確認が進む中、俺は相手の動きをじっくり観察していた。何かおかしな動きをすれば、すぐに対応できるように準備しておく必要がある。今日は特に問題なく進んでいるようだった。


取引は順調に進んでいた。相手側との交渉はスムーズで、俺は【変身】のスキルで普段とは異なる姿を取ってその場にいた。取引室には血晶石が整然と並べられ、緊張感の中でも確実に商談が進んでいた。


しかし、その静けさを一瞬で壊す出来事が起こった。突然、壁が轟音と共に爆破され、粉塵が周囲に舞い上がった。衝撃に身を固める間もなく、巨大な穴から一人の男が現れた。誰だ。


「……何だ、この野郎は!?」


俺は即座に【変身】のスキルを使って姿を変え、混乱の中で身を隠そうとした。しかし、やつの視線は俺をまっすぐに捕らえていたかのようだった。壁を破壊して現れたその男は、周囲に漂う煙や瓦礫に一切動じることなく、俺たちを圧倒する存在感を放っていた。


「何が目的だ……!」


俺は問いかけたが、男は何も答えずにまっすぐこちらに歩み寄ってくる。周囲の仲間たちが次々と襲いかかるが、男はそのすべてを軽々と捌き、無駄のない動きで倒していった。恐怖がじわじわと俺の中に広がっていく。


「どうする……どうすればいい……!」


【収納】持ちである悠里は結晶石を取り込み、逃げる準備をしている。


頭の中で焦りが渦巻くが、戦うしかないと決意し、俺は【変身】を解いて元の姿に戻った。そして、最後の手段として、俺はやつの注意を引くために、大声を上げて攻撃を仕掛けようとした。


その瞬間、男がまるで俺の動きを予測していたかのように、間合いを詰めてきた。気づいた時にはもう遅かった。俺の仲間である【収納】のスキル持ちの悠里がやつに捕らえられていた。


「くそっ……!」


俺は瞬時に判断し、手元にあった発煙弾を放り投げた。濃い煙が辺りを包み込み、視界が完全に遮られる。その隙に、俺は壁の隅にある隠し扉に駆け寄ろうとした。しかし、あいつは煙の中でも俺を感じ取っているかのようで、的確に追い詰めてくる。


「やばい……このままじゃやられる!」


壁を背にしながら俺は、最悪の事態を覚悟し、隠し通路に逃げ込むための最後の力を振り絞った。目の前に迫る男の姿が、まるで死神のように見えた。


「ここから逃げ切ってやる……!」


内心の恐怖を振り払うように、俺は闇の中に飛び込み、足を必死に動かし続けた。背後から迫るやつの気配を感じながら、俺は何とかこの地獄から抜け出そうと必死だった。


発煙弾が部屋中に煙を充満させ、視界は完全に白く覆われた。俺はこの混乱を利用して隠し扉へと走った。足音が鳴り響き、緊張がピークに達する。あいつが迫ってくる気配が背後からひしひしと感じられたが、俺は何とかその扉に手を伸ばし、力いっぱい押し開けた。


あと少し……!


心の中でそう叫びながら、扉の向こうに飛び込もうとした瞬間、俺の腕が冷たい鉄のような握力に掴まれた。驚いて振り返ると、そこには狩人がいた。煙の中でも一切の迷いなく、俺の位置を正確に把握していたのだ。


「くっ……!」


俺は必死にもがいたが、こいつの握りはまるで鉄の鎖のように強固だった。力を込めて逃れようとするが、彼はそのまま無言で俺を引き戻し、逃げ道を完全に断ち切った。俺の動きは、まるで彼にとっては何の障害にもならないかのようだった。


「あー、あー、ふぅ…ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!!!!!!!!!」


男の爆音の叫びが狭い通路に響く。反響した音が耳に響く。


「何だッこれ」


甲高いキーンとした音が脳に響く。


何も…聞こえない….鼓膜が…まずい…意識が….


彼の手が俺の首元に触れると、意識が遠のいていくのを感じた。体の力が抜け、まるで自分が操り人形にでもなったかのように感じる。


「こんな……こんなはずじゃ……!」


意識が闇に飲み込まれていく中で、俺は最後の力を振り絞ろうとするが、無駄だった。力に抗うことはできず、俺の体は完全にこいつに支配された。


視界がぼやけ、暗闇に包まれていく中で、俺は無念のまま意識を手放した。

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