【29話】鑑定と違和感
風雅視点に戻ります
俺はオーガから出てきたグローブを鑑定してもらうため、ダンジョンの受付に足を運んだ。相変わらず騒がしい。
俺はカウンターに立ち、係員に拳甲を差し出した。
「これを鑑定してもらいたいんですが。」
「はい、少々お待ち下さい」
しばらくした後、名前が呼ばれたためカウンターへ向かった。
「これは『破壊の拳甲』です。この武具は、装着者のパンチに凄まじい破壊力を付与します。コンクリートの壁すらも粉砕する力を持っており、攻撃のたびに小規模な衝撃波を発生させることで、周囲の敵を吹き飛ばすことも可能です。」
俺はその説明を聞きながら、拳甲をじっと見つめた。その力の片鱗を既に感じていたが、具体的な効果を知ることで、ますますその武具の強大さを実感した。
「ただし…」
係員は一瞬ためらいを見せた後、続けた。
「この拳甲は使いすぎると、拳に相当な負担がかかります。制御を誤ると、装着者自身に深刻なダメージを与える可能性があることを、覚えておいてください。」
俺はその警告を胸に刻みながら、拳甲を受け取った。
「分かりました。ありがとうございます。」
軽く頭を下げ、拳甲を手にして受付を後にした。
今日は魔石は買い取りに出さずに持って帰る。
ダンジョンから出た後も、心の奥に引っかかる違和感を抱え続けていた。さっきの戦闘の一部始終を何度も思い返すが、その違和感はまるで消えることがなかった。何かが見落とされている、そう確信する感覚が彼の中で膨れ上がっていた。
死にかけたからかは分からないが、今日はあまり寝れなかった。
翌日、学校の授業が終わると、俺は一人で校舎の裏に向かった。そこは普段、生徒たちが集まらない静かな場所だった。辺りを見渡し、誰もいないことを確認してから、深呼吸をしてグリムに話しかけた。
「気になってたんだけどグリム、あのオーガの心臓、どうなったんだ?」
俺の声には焦りと不安が入り混じっていた。
しばらくの沈黙が続いた後、グリムの冷静な声が俺の頭の中に響いた。
『心配するな、風雅。あのオーガの心臓は、お前の投げた『影刃』を投げた時に破壊されたんだ。』
俺はグリムの言葉を聞きながら、ゆっくりと目を閉じて考えた。グリムの説明は理にかなっているように思えたが、どうしても腑に落ちない部分があった。『影刃』がオーガの心臓を破壊した?投げた射線に心臓があったとは思えないし、おいた覚えもない。
「そんなことが…本当にあったのか?」
俺は自問自答しながら、胸の鼓動が徐々に早くなっていくのを感じた。心の奥底で、何かが激しく警鐘を鳴らしている。しかし、グリムはこれまで何度も命を救ってくれた存在だ。彼の言葉を疑う理由はないはずだった。
「そうか…わかったよ、グリム。」
俺は曖昧な返事をしながら、納得したかのように頷いた。しかし、その頷きには確信が欠けていた。胸の奥に残る疑念が、グリムへの信頼を徐々に侵食していくように感じられた。
俺は再び校舎に戻りながら、無意識に胸に手を当てた。その心臓の鼓動は、以前とは異なるリズムを刻んでいるように感じられた。違和感はさらに強まり、彼の心を不安で満たしていった。俺は疑念を抱えたまま、日常へと戻っていく。
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