『圭吾の場合』
短め、圭吾先輩視点です
俺はもう、動くことも、抵抗することもできなかった。力は、すっかり抜け落ちていた。
視界の端で揺れる赤い光が、遠くに聞こえる警察車両のサイレンと共に近づいてくる。俺はただ、それをぼんやりと見つめていた。もう何も考えたくなかった。ただ、全てが終わることを願っていた。
「…俺は…どうして、こんなことに…」
気づけば、俺の人生は狂ってしまっていた。サッカー部のキャプテンとして、俺は誰よりも頑張っていたはずだ。部の皆が信頼してくれたし、父親の期待にも応えるために、ただひたすら走り続けていた。でも、それが俺をここまで追い詰めるとは思ってもみなかった。
「血晶石なんて…使うべきじゃなかった…」
その言葉が心の中で反響する。血晶石の力を手に入れた瞬間、確かに俺は強くなった。勝つためなら、部を勝利に導くためなら、何だってやる覚悟だった。だが、その結果は…。俺は今、取り返しのつかないことをしてしまった。
マネージャーの指を折ったし、颯人の顔面もぶん殴った。軽音部の子にも怖い思いをさせた。
俺は、膝をついてその場に座り込んだ。全身の力が抜け、ただ地面を見つめることしかできなかった。足音が聞こえる。遠くから、重く響く足音が徐々に近づいてくる。警察だろう。俺の暴走を止めに来たんだ。
「…」
数人の警察官が、俺を囲むようにして立った。彼らの視線は冷たく、非情だった。正当な判断だ。俺は、あまりにも多くの人を傷つけ、そして自分さえも破壊してしまったのだから。彼らが何を言おうと、俺に逆らう気力はもう残っていない。
「…」
俺はただ、膝をついたまま、彼らの言葉を待った。
「柴田啓吾さんですね。立ち上がってください。」
一人の警察官が俺に声をかけた。冷静な声だが、その中には容赦のない決意が感じられた。俺はうなずくこともできず、ただ静かにその場に立ち上がる。それすらも、自分の意思でやったという実感はなかった。
手錠がかけられる音が、静寂の中で響く。冷たい金属が手首に食い込む感触に、俺は再び現実に引き戻された。そうか…俺は今、犯罪者なんだ。何をしてきたのかを思い返すと、胸が苦しくなる。
…俺は、もういい。終わりにしてくれ…
心の中でそう呟いた。これ以上、誰かを傷つける前に、自分自身の暴走を止めるために。もう俺は、何もかもに疲れていた。
誰か知らない、俺を止めてくれた後輩の言葉が、ふと頭に浮かんだ。「もういいんだ」と言った、あの優しい声。俺はその時、助けを求めていたんだろうか。いや、もうそんなことを考える余裕もなかった。ただ、俺は全てを手放すことにしたんだ。
警察官に促され、俺はゆっくりと歩き出す。街の喧騒が遠くに聞こえる中、俺の中には静かな諦めだけが残っていた。
「これで…全て終わったんだよな…」
頭の中で反響するその言葉が、唯一の慰めだった。もしかしたら、これからは少しだけ、休めるのかもしれない。俺はそう思いながら、警察車両に乗り込んだ。
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《次回》【21話】勝利と結果
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