【18話】『力の代償』
なんとヒロイン、首を絞められ登場。
授業が終わり、クラスメートたちが賑やかに帰り支度をしている中、俺は一人で静かに図書室へ向かった。ダンジョンに関する情報をもっと深く知りたくて、専門書が並ぶ棚に足を運ぶ。
「…ここか」
本を手に取り、静かな机に座る。『【20XX最新】東京市新宿ダンジョン!完全攻略ガイド』という見出しが目に留まった。
次に挑むのは第3層だから、しっかり対策しておかないと。
3階層: オーガ
- 特徴: 巨大な体と圧倒的な筋力を持つ。高い耐久力と破壊力を誇り、大型の武器を使うことが多い。攻撃力は非常に高いが、動きは鈍重で、速度や敏捷性に欠ける。
- 対策: 高い防御力と持久力を要する。火力の高い攻撃や戦術的な戦いが有効。特に速攻や移動能力が求められる。
オーガか… 俊敏に動いて急所を狙うしかないな。力比べでは勝てそうにない。
図書室で調べ物を終え、学校を後にしようとして廊下を歩いていた時、外からサッカー部の声が聞こえてきた。少し荒れた口調が混じっていて、妙な違和感を覚えた。軽音部の練習の音が耳に入る中、気になる音を探って進む。
「…何かあったのか?」
念のため、校舎の角から覗いてみると、知っているサッカー部のエース、柴田啓吾先輩がマネージャーの女の子と口論していた。空気が明らかに張り詰めている。そして、その瞬間、俺の予感が現実となった。
「なんで遅れたんだ!」
先輩が声を荒げると、マネージャーの子が何かを言い訳しようとする。しかし、その前に先輩は彼女の手を掴んで強く引っ張った。
「ちょっと、やめろ!」
周りのサッカー部員たちが止めに入ろうとするが、先輩の力は異常で、彼の手が少女の指を折ってしまった。
「ぎゃあああっ!」
マネージャーの悲鳴が響く。彼女は痛みに耐えきれず、泣きながら叫び声を上げた。
「違う!俺は、ただ…!」
先輩は混乱し、両手で頭を抱える。その顔には苦悩が浮かんでいた。しかし、彼の目はすでに正気を失いつつあった。
「やめろ!俺を、そんな目で見るな!」
先輩はまるで幻を見ているかのように、周りの目が敵意を帯びていると感じ始め、暴走しかけた力を制御できなくなっていた。
「…まずいな。」
俺は一瞬迷ったが、状況がこれ以上悪化する前に行動を決意した。俺は【身体強化】を開放し、瞬時に駆け寄り、先輩の動きを止めようとする。
「落ち着いてください!」
だが、先輩はすでに理性を失っていた。彼の拳が俺に向かって飛んできた。ギリギリでその攻撃を避けるが、周りのサッカー部員たちが驚き、息を飲む。
「くっ、思ったより強い…!」
力強い拳に対応しながらも、【身体強化】を使い、先輩の攻撃をいなす。そして、一瞬の隙を見て、逆に相手を押さえ込もうとする。
「頼む、落ち着いてくれ…!」
しかし、先輩はますます荒れていき、周りが見えなくなっている。
「俺を止めようとするな!」
力任せに俺を突き飛ばし、先輩はそのまま走り出した。俺は地面に倒れ込むも、すぐに立ち上がり、追いかける。
「待て!」
先輩が暴走したまま逃げるのを見て、俺は彼を追い続ける。何かが起きる前に、先輩を止めなければならないと感じた。
突然、颯人が現れた。彼は俺の肩に手を置き、息を切らせながら言った。
「ほら、行くで。今の啓吾先輩は何しでかすかわからん」
颯人の真剣な表情に、俺は頷いた。彼の気持ちがよくわかる。先輩が暴走している以上、ただの見物では済まない。颯人の言葉に背中を押されるように、俺たちは急いで先輩の後を追いかけた。
颯人と並んで走りながら、俺は先輩の動向を見守る。彼がどんな事態を引き起こすか、心配でたまらない。周囲の風景が速い速度で流れていく中で、先輩が何かを破壊したり、さらに大きな被害を出さないよう、必死に彼を追い続ける。
「早よせな!このままやと、もっとひどいことになるで!」
颯人の言葉に俺はただ黙って頷いた。二人の足音がコンクリートに響き、緊迫した雰囲気が漂う中で、俺たちは先輩を捕まえるために全力で走り続けた。何としてでも先輩を止めなければならないという強い決意が、俺たちを突き動かしていた。
てか颯人速くね。
運動場から校舎に入ると、俺と颯人は一瞬の休息もなく、階段を駆け上がった。先輩が軽音部の部室に向かっているのは確実だ。俺たちは心臓がバクバクと高鳴る中、階段を駆け上がり、急いで2階へ向かう。
「風雅、早く!」
颯人の声が耳に届き、俺はそのまま部室の前へ駆けつける。階段を上がり、廊下を駆け抜けながら、部室のドアが見えてきた。ドアは半開きで、そこから乱れた音が聞こえてくる。心の中で焦りと恐怖が交錯する。
「行くぞ!」
颯人と一緒にドアを押し開けると、目の前に広がる光景に息を呑んだ。部室の中は混乱の極みだった。楽器が倒れ、部員たちが怯えた表情で散らばっている。先輩の姿が見えた。彼は女の子の首をつかんで、彼女を押さえつけている。
「逃げるな!」
先輩の声が激しく響く。彼の目は狂気に満ちており、彼女は恐怖で青ざめていた。先輩は彼女を強く掴み、顔面を殴ろうとしている。
「やめろ!」
俺はすぐに影を使い、先輩の動きを封じる。彼の手が一瞬、凍りついたように動きを止めた。その隙に颯人と一緒に全力で先輩を殴りつける。先輩の体が部室の壁に叩きつけられ、彼の暴走が少しだけ収まった。
「まだだよ…」
先輩は痛みに耐えながらも、叫び続ける。
「俺は完璧じゃなきゃいけないんだよ!」
先輩の言葉が部室に響き渡る。先輩の暴走は収まっていない。部室の空気は緊張感に包まれ、俺たちは再び先輩に対抗する準備を整えなければならない。
ちなみに1話で出てきた涼介くんは指ぶち折られた女の子を治療中です。奈々は横で心配そうに見てます。
もう一話ぐらい投稿しようかな今日。
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