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奪われた力 ー『ハルトの場合』

相手視点からです。6000文字です。

歌舞伎町の夜は、いつも通り混沌としていた。ネオンがまぶしく輝き、浮かび上がる看板の光が、薄暗い路地や人々の顔を浮かび上がらせる。街の喧騒(けんそう)に溶け込むように、人々の声が響き渡り、音楽や騒音が絶え間なく続いていた。この街は、俺たちのようなギャングにとって、絶好の狩場だ。ここでは毎晩、金銭や権力を巡る取引が繰り広げられ、弱肉強食の世界が展開されている。


俺、ハルトは【身体強化】のスキルを持つことで、数々の()()を成功させ、ギャング、『ブラック・クロウズ』に加入し、この街での勢力を拡大してきた。その力を使って、競争相手を押さえ込み、力を持った者だけが生き残るこの世界で、俺たちは確固(かっこ)たる地位を築いてきた。身体が鋼のように強化されており、どんな攻撃も軽く弾き返せる。これが俺の自信の源であり、仲間たちが俺を頼りにする理由でもある。


だが、今夜は少し違った。俺がそうであるように、俺たちの仲間たちもまた、この街で生き抜くために必死で戦っている。そんな中、仲間の一人からの連絡が入った。息を呑むような緊急事態の連絡だ。別のギャングに襲撃され、危機に瀕しているという内容だった。連絡を受けたとき、心臓が急激に高鳴り、冷静さを保つのが難しいほどだった。


「ハルトさん、大変です!」


仲間の声が、緊迫感をもって伝わってきた。


「A班が『荒波』の連中に囲まれて、もう少しで壊滅状態です!」


『荒波』か...


俺は、すぐにその場から立ち上がり、街の混沌の中へと突入した。普段ならば余裕を持って動く俺も、この時ばかりは一刻も早く仲間を助けるために、無駄な動きを省きながら、素早く行動を開始した。【身体強化】が俺を支え、瞬時に街の角を曲がり、スピードを上げていく。


歌舞伎町のネオンの光が流れる中で、俺は何度も通り慣れた路地を駆け抜けた。道すがら、周囲の騒音や喧騒に耳を貸す暇もなく、ただ仲間の安否だけが頭をよぎる。敵のギャングとの接触を避けながらも、急いで到着地点へと向かう。これが俺の仕事であり、俺の責任だ。


通信機から聞こえる緊急の声に、俺はすぐさま現場に急行した。到着すると、そこには予想以上の混乱が広がっていた。仲間の竜二、佐藤、誠の3人が1…2…3…4…15人の敵に囲まれて、圧倒的な人数差に苦しんでいた。


「くそっ、埒が明かねえ!」


佐藤が叫びながら銃を構え続けていたが、その精密な射撃も敵の圧倒的な数に対しては無力だった。彼の正確な射撃が敵にヒットするたびに、弾はほとんどが空を切っていた。


「竜二、誠、大丈夫か?」


俺は叫びながら、仲間たちのもとへ駆け寄った。竜二は拳を振るいながら敵を撃退し、松井は交渉で時間稼ぎをしようと必死に口を動かしている。しかし、その姿は焦りと疲労で歪んでいた。


「ここに来てくれて助かった、ハルト!このままじゃ全員がやられる!」


竜二が拳を振るいながら、俺の方を見て叫ぶ。彼の鋭い目つきと鍛え上げた体は、どんな敵にも立ち向かう準備ができているようだったが、数の差は厳しい。


「誠!交渉で何とかなると思ってたのか?今は戦うしかないぞ!」


俺は彼に声をかけ、すぐに戦闘に集中するための気持ちを切り替えた。誠は何も言わず、苦渋の表情で頷く。


俺は瞬時に判断を下し、【身体強化】を使い、全力で敵に向かっていった。身体が強化される感覚が全身に広がり、力強さが増していく。目の前の敵たちは、ただの人間に見えた。俺の動きは速く、力強い一撃で敵を次々と倒していく。


「誰が仕組んだか知らないが、こいつら全員潰す!」


俺は咆哮しながら、拳を振るい続けた。敵たちは俺の力に圧倒され、次第に崩れていった。彼らの攻撃は俺には通じず、逆に俺の一撃で彼らは倒れていく。


「みんな、大丈夫か?」


戦闘が一段落し、敵が倒れた地面に散らばる中で、俺は仲間たちのもとへ駆け寄った。竜二と佐藤、誠は息を切らしながらも、無事であることがわかった。


「お前の助けがなかったら、俺たちはどうなっていたかわからねえ。ありがとう、ハルト。」


竜二が汗だくで言った。彼の顔には安心感と感謝の気持ちが浮かんでいた。


「こっちこそ、無事でよかった。」


俺は微笑みながら答えた。仲間たちの無事を確認しながら、改めて自分の力の大きさを実感した。今夜の戦闘は、俺がどれほど強くなったかを証明する瞬間でもあった。


仲間を安全な場所に送り届けた後、俺は廃工場に戻る決意を固めた。疲労困憊の身体を引きずりながらも、今夜の取引が失敗すれば大変なことになると自分に言い聞かせた。取引相手には多額の資金と重要な情報が絡んでいるため、絶対に遅れるわけにはいかない。


夜の街を歩きながら、体力の限界を感じていた。歌舞伎町の街灯がぼんやりとした光を放ち、周囲の喧騒が遠くに感じられる。無言での移動が続く中、俺の思考は取引のことに集中していた。取引相手が指定した場所に遅れずに到着しなければならない。失敗は許されない。


廃工場に近づくにつれ、俺の緊張感が高まった。工場の外壁には錆びついた鉄板が貼り付けられ、崩れかけた窓からはわずかに月明かりが漏れている。周囲の物音が俺の神経を逆なでる。気配を感じ取りながらも、身を隠す場所を探しつつ、廃工場の敷地内に入っていく。


工場の内部は廃墟のように荒れ果て、埃まみれの床に足音が響く。俺は影の中に身を潜め、静かに周囲を観察する。仲間たちが警戒態勢を整え、工場の入り口や周囲の死角に配置された。誰もが今夜の取引に集中していた。俺はその中で、自分の拳をしっかりと握りしめ、緊張感を高める。


「遅れるわけにはいかない…」


と、自分に言い聞かせながら、時計を確認する。取引の開始時刻まで、あとわずかだ。成功を祈る気持ちを込めて、深呼吸をし、冷静さを保とうと努めた。


取引相手が現れるときが近づくにつれ、周囲の静寂が一層深く感じられる。俺の目は廃工場の入り口を注視し、万が一の事態に備えて警戒を怠らない。今夜の成功を祈りながら、冷徹に任務を遂行する覚悟を決めた。


よしっと、時間通りだ。


取引が無事に終わり、倉庫の一角で煙草を吸いながらひと息ついていた。倉庫の内部は薄明かりが点々と照らし出しており、数個の裸電球が弱々しい光を放っていた。その光が古びた鉄の柱や埃だらけの壁にかすかな明かりを投げかけていた。


煙草の煙がほの暗い空間に漂い、心地よい安堵感をもたらしていた。しかし、突然、倉庫の静寂を破るように足音が近づいてくるのが聞こえた。視線を向けると、『夜影』を着た男が姿を現した。彼の装備は深い黒で、倉庫の明かりを完全に吸収するかのように、その姿を一層不気味にしていた。


(冒険者か…俺を狩りに来たのか…?)


男が近づくと、倉庫の光の中で奇妙な現象が起こり始めた。倉庫の明かりはあるはずなのに、周囲の影が急激に濃くなり、まるですべてが影で覆われているかのように感じた。明かりの中で、影だけが異常に濃く、濃密な暗黒が空間を包み込むように広がっていた。


影がなくなったのか!? いいやッ!コレは違う!()()()()()()()()影になっているんだッ!


「ちょっといいか?」


男が静かに声をかけた。声からして年齢は若そうだ。その声が耳に届いた瞬間、彼の手が俺の腕に触れた。触れた瞬間、俺は強烈な違和感を覚えた。


「何をする!」


俺は驚きと怒りでと声を荒げた。しかし、次の瞬間、体から力が急速に吸い取られていく感覚に襲われた。


「何をすr…」


再び叫ぼうとしたが、口が開かず、体が重く、動かすことができなかった。周囲の光が一層薄くなり、影が一層濃くなっていく。倉庫の明かりがその影の中に溶け込んでしまい、すべてが一様に暗闇で支配されているかのようだった。


体が麻痺し、力が抜けていく中で、青年の冷徹な目が俺を見つめていた。その手からの冷たい感触が体内に広がり、力がじわじわと吸い取られていく。光の中で影だけが圧倒的に支配しているこの異常な状況の中で、俺はただただ力を奪われていった。


必死に抵抗しようとしたが、青年の握力は予想以上に強く、その力はますます増していく。俺の腕に触れた手から伝わる力が徐々に強まるにつれて、筋肉が萎縮し、骨が重く感じる。力が抜けていく感覚に身体全体が覆われ、まるで硬直してしまったかのように感じた。


コイツの体格から出て良い力じゃねえ、コイツの力は【影】じゃねえのか?でもこれは…まるで…いやまさかな…


「くそ…何をしやがった…」


俺は必死に声を出そうとするが、声が漏れることもなく、ただ悔しさと絶望感が心を圧倒していく。身体は自由を失い、力がどんどん抜けていく中で、無力感に包まれていた。地面が近づいてくる感覚に、どうにも抗えなかった。


そしてついに、力尽きたように崩れ落ち、地面に倒れ込んでしまった。視界がぼやけ、倉庫の薄明かりがわずかに揺れるのが見える。周囲の光と影のコントラストがますます強調され、倉庫の中がまるで影の世界に変わってしまったかのように思えた。


倒れたまま、何が起きたのか理解できないまま、その場に立ち尽くし、動けない自分をただ呆然と見つめるしかなかった。青年の冷酷な笑みが、全てを知っているかのように俺に映り、その影がますます深く感じられる。力を奪われるという恐怖とともに、自分の無力さを痛感し、絶望感に包まれていた。


俺には分かる。力を失った。もはや無力すぎて怒る気も起こらない。


力を失い、地面に倒れ込んだまま、俺は無力感に打ちひしがれていた。かつては【身体強化】の力で誰にも引けを取らなかった俺が、今ではただの無力な男になってしまった。全身の筋肉はまるで無くなったかのように痺れ、力を込めようとすると、何もかもが空回りしている。手足は重く、動かすことすらできず、ただ無力な自分を受け入れるしかなかった。


目を閉じて、かつての力強さを思い出そうとするが、それはもう遠い夢のようだ。力を奪われた身体は冷たく、地面の冷たさが全身に染み渡ってくる。息をするたびに、その空虚さが心に染み込む。自分の力がどれほど大切だったのかを、今さらながらに感じる。


「このままじゃ終わらない…必ず復讐してやる…」


心の中で決意を固めるが、現実は冷酷だ。身体は動かず、目の前の光景はぼんやりとしか見えない。無力感と絶望感が心を占める中で、ただひたすらに自分の無力さを受け入れるしかなかった。


周囲の倉庫の壁がぼんやりと見え、光と影のコントラストが強調される中で、青年の影がさらに深く感じられる。倒れたまま、ただ無力な自分を受け入れながら、心の奥底で決意を抱きつつも、現実の厳しさに打ちひしがれている。


青年が影の中に消え去った後、倉庫は再び静寂に包まれた。暗闇の中で、俺は地面に倒れ込み、ただただ無力な自分を受け入れるしかなかった。周囲の光は倉庫の中で虚しく瞬き、影がいつも以上に濃く感じられる。何もできない自分が悔しく、胸の奥で湧き上がる焦燥感と絶望に打ちひしがれていた。


突然、倉庫の入口から足音が響き、仲間たちが駆けつけてきた。仲間の中でも、特に松井、佐藤、そして高橋が前に出て、状況を把握しようとする。彼らの姿が目に入ると、どこか安心感が広がると同時に、情けなさが込み上げてくる。


「ハルト!」


松井が呼びかける声が、俺の意識の中で響く。彼の声には心配と焦りが混じっており、すぐに近くに駆け寄ってきた。


「大丈夫か? どうしたんだ?」


佐藤が銃を構えながら、周囲を警戒しつつも俺に近づいてくる。彼の顔には緊張が浮かび、警戒心が強くなっている。


「くそ…やられた…」


俺はかすれた声で答える。力を奪われたこと、青年の突然の出現、そしてその結果としての無力感が、言葉としてやっと口からこぼれ出る。


竜二が俺のそばにしゃがみ、手を伸ばして助け起こそうとするが、俺の身体は全く動かせない。彼の手の感触は温かいが、力を失った自分を受け入れなければならない現実が苦しい。


「どうしてこんなことに…」


誠が悔しそうに呟き、周囲を見渡しながら話を続ける。


「俺たちが来るのが遅れたから、こうなっちまったのか…」


「アイツは…一体何だったんだ…」


佐藤が周囲を見渡しながら言う。彼の視線が倉庫の奥の影の中を探るが、もう青年の姿はどこにも見当たらない。


「見つけたら必ず…」


俺は、悔しさと痛みをこらえながら言葉を絞り出す。


「アイツを見つけて…復讐してやる…」


仲間たちはその言葉に頷き、決意を新たにする。誠が無線で連絡を取り、佐藤が周囲の警戒を強化し、竜二が俺を支えながら立ち上がらせようとする。


「ここは危険だ。すぐに移動しよう。」


松井が指示を出し、仲間たちは周囲の警戒を怠らずに行動を始める。佐藤が扉を開けて外の状況を確認し、竜二が俺を支えながら立ち上がらせようとする。


「くそ…これだけのことをされて…簡単には終わらせねえ…」


俺は心の中で決意を固めながら、仲間たちに支えられつつ、倉庫を後にする。無力感と悔しさが入り混じる中で、仲間たちの存在が唯一の支えとなっていた。


青年の顔が影で見えなかったことが、俺の中でひっかかる。あの影が、彼の正体を隠していたのか、それともただの影に過ぎなかったのか、何も分からないままその場に立ち尽くしていた。


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「雨降ってきたな…」


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